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21_襲撃日(後編)

ゴードバンは苛立っていた。

ローエンタール家へ押し入ったまでは良いが、何も反応が無いのだ。

始めのうちは配下の者からチラチラ報告も挙がってきたが、それも途絶えてしまっている。

家人が屋敷内に入り、誰ひとり外出していない事は確認が取れている。

もし、隠れて逃げようとしても、外に控えた配下が笛を鳴らして知らせる手筈となっている。

その際には、屋敷内に居る者は外へ出て、一般都民に目撃される事も覚悟して戦う予定だ。

ゴードバンの雇い主からすれば、最悪、それで騒ぎとなっても構わないのだ、自分達がそれを指示したと知られなければ。

しかし、外からそれらしい笛の知らせも無い。

まさか、全員やられてしまったか?

とも思うのだが、それならそれなりに、戦闘時の物音がするはずである。

ところが、ゴードバンの陣取る玄関ホールは静かなものだ。

(どうなっている?)

このまま待っていても、反応は期待出来そうにない。

「誰か、おらぬかっ!!」

なので、ゴードバンは呼び掛けてみることにした。

例えこれで、家人に気付かれようとも、動きが無いよりはましだ。

「ゴードバン殿、何を?!」

「どうせ反応が無いのだ。多少騒いだところで──」


「…うるさいなぁ。誰、なんの用?」


「「っ?!」」

あまりにも自然に現れ、声を掛けてくる者が居ることに、ゴードバン達は驚く。

そして、この声は──

「…クロー・ホーンテップか。驚いた。…久しいな?」

「えっ?だから、誰?貴方とお会いした記憶なんて無いんですけど?」

クローは右手に片手剣を握り、その手をぶらりと下げたまま、ゴードバン達に歩み寄ってくる。

「とぼけるな。」


バサッ


ゴードバンかフードをめくり、素顔をさらす。

「その声、口調、体躯。忘れもしない、闘士ロープそのものだ。この顔、忘れたとは言わせぬぞ。」

ゴードバンの取り巻きが、「ロープ」の言葉に驚く。

「…あ〜、あの時のオッサンかぁ。何しに来たの?あの時の仕返し?」

クローは敢えて否定せず、てきとうに言葉を返した。

「…それもある。だが、本命はセーム子爵様だ。彼を何処へやった?」

「…それ、知ってたとして、言うと思う?」

言いながら、クローはゴードバン達との距離をジリジリ詰めてゆく。

「それ以上、近付くな!…おいっ。」

ゴードバンがそれに気付き、牽制しつつ部下に合図する。

すると、ゴードバンの背後に居た男が、もう一人の人物を連れて歩み出た。

その人物の首にはナイフが突き付けられており、手は後手で縛られているようだ。

クローは、その人物を知っていた。

この世に生まれ落ちた時から側に居た人物だ。

はあっ…。

諦めたようなため息がクローの口から漏れる。


「…なんでこんなとこに居るのさ、兄上。」


その人物は、ハック・ホーンテップ。

ホーンテップ家の次兄であった。

クローも当初は、ゴードバン達の前にわざわざ姿を現すつもりは無かった。

けれど、ゴードバンの後ろに居る一人の様子がおかしいことに気付いた。

それを、『空間把握』でよくよく観察してみると、それがよく知った次兄である事が分かったのだ。

さすがに兄を見捨てるのも、目覚めが悪い。

それで、ひとまず姿を見せて様子を見ようと考えたのであった。

「剣を捨てろ。兄がどうなっても良いのか。」

「ハイハイ、これで良いですか?」


カランッ!


クローは右手の剣を捨て、両手を開いたまま肩上まで上げる。

(ん?あれは…。)

クローが手を上げるのに釣られて、ゴードバンが視線を上げると、クローの背後に二人の人影があるのを見付けた。

揃いの黒フードを被っていることから、ゴードバンの部下に違いない。

これで、クローを挟撃する状況が出来たわけだ。

「いいだろう。では聞くが、セーム・フォン・ローエンタール子爵殿は何処に居る?」

「…そんな事、話すと思う?」

「話さぬなら、こうするだけだ。」


ザクッ!


「があぁっ?!」

ハックに突き付けられていたナイフが、ハックの腕に浅く突き刺さる。

堪らす悲鳴を上げ、うずくまりそうになるハックの首に、血の滴るナイフが再びあてられ、無理矢理に姿勢を正される。

「ひぃっ!」

もはや、ハック君の顔は涙と鼻汁でグチャグチャになっている。

「さぁ、どうする?話す気になったか?」

「…あのさ、ちょっと良い?」

そんな状況になっても、クローは取り乱すこと無く、淡々と問い返した。

「…なんだ?」

「知ってると思うけど、僕も兄上もナグラ・ホーンテップという、処刑されたクソ野郎の息子なんだよ。」

「…知っている。」

「一方、セーム様は東部の貴族を取り纏める派閥の領袖で、この国の政にも携わる、無くてはならない方だ。」

「…。」

「そんなの、比べるまでも無くない?僕や兄上のような者が何十人死ぬことになろうが、セーム様だけは守るべきだと思うけど?」

(…私は考え違いをしていたのかも知れんな。)

ゴードバンは、クローという人物像を、もっと自信家で自尊心も高いものだと想像していた。

しかしクローは、人身売買に手を染めた父親を「クソ野郎」と蔑み、自分の死を価値の低いものと断じた。

それを踏まえて翻ると、彼の剣術大会での行動も、自己顕示欲の発露ではなく、単純に不正を憎む心から生じた行動のように思えてくる。

「…そうか、分かった。」

だからといって、ゴードバンの行動は変わらないし、変えられない。

「ナイフは降ろせ。彼にはまだ人質としての価値がある。」

この先、クロー以外にも屋敷の者と出会うかも知れないし、セーム本人との交渉でも使えるかも知れない。

「だが、お前は別だロープ。お前は危険過ぎる。ここで葬らせてもらう。やれっ!!」

ゴードバンの号令で、隣の部下が剣を抜きクローに襲いかかる。

想定では、クローの背後に隠れた二人も合わせて、三人による挟撃となるはずだった。

だが、背後の二人は動かず、単なる一対一の構図となってしまった。

「なっ?!」

クローは斬りかかる敵を避け、首筋に蹴りを見舞う。

「かはっ!」

堪らす倒れ込む男の腰からナイフを抜き取ったクローは、そのまま男の首に突き立て、切り裂いた。

「…ッ!!」

声も発せず、絶命する男。

だが、それよりもゴードバンが気にしてるのは、クローの背後の二人だ。

先ほどからピクリとも動かない。

「何をしている!何故動かん?!」

せっかくのチャンスをふいにしてしまった事に苛立ったゴードバンが、声を荒げる。

「何を言ってるの?」

ゴードバンとは対象的に、クローは落ち着いて言葉を続ける。

「…もしかして、後ろの2つの死体に向かって言ってる?」

「……はっ?」


パチッ!


クローの言葉に、一瞬呆けた声を上げるゴードバン。

その隙に、クローはお得意の『重力操作』を発動して、ゴードバンらの重力を5倍にしてしまった。

クローの背後の人影は、既にクローが対象済みの襲撃者だ。

ゴードバン達の前に姿を現す直前、少しでも状況を誤解し、楽観視させるように仕向けた細工であった。

「「ぐおっ?!」」

体重プラス装備、掛ける5倍の自重に耐えられなくなった二人は、膝を折ってしまう。

なお、ハック君はナイフを降ろされたタイミングで気絶している。


タッタッタッ、ガッ!!


それを見たクローは、ハックを捕まえていた男に駆け寄り、顎を思い切り蹴り上げた。

男はもんどり打って倒れ、意識を失う。


パンパンパンパンッ!


そこに追撃の『銃魔術』連射をくらい、男は絶命した。

これで残すはゴードバン一人となった。

「うおおおおぉぉぉっ!!」

もはや、脳で理解する前に、直感で状況を悟ったゴードバンは力を振り絞り、5倍重力を跳ね除けクローに襲いかかろうとする。


パンッ!


「…カハッ?!」

だが、最後の抵抗も虚しく、1発だけ残してあった『銃魔術』を首に打ち込まれ、ゴードバンは倒れ込む。

(な、こ…これは、魔術か?!)

体が鉛のように重くなり、魔力の弾丸を受けて、ようやくゴードバンは、クローが魔術を駆使していると思い至った。

思い返せば大会での対戦時、ロープの体が信じられない程に重くなった事があった。

また、自分が退場させられた後、ロープは飛ぶように会場から逃げ去ったと言う。

それらも、クローが魔術師であるとなると、納得がゆく。

クローは、倒れたゴードバンの様子を監視しながら、『銃魔術』のリロードをしていた。

(この歳で、剣も振るえる上に、魔術も修めているのか?!)

大会で見たロープの剣術は、我流のようではあったが、形になっていた。

それも、あからさまな才能に依るもので無く、凡才の者が永い研鑽の末、形にしたような構えであった。

その上、魔術の修行もするなど、この少年の過去はどれほど過酷なものだったのだろうか、とゴードバンはクローのこれまでの短い人生に思いを馳せた。

そうこうする間に、クローのリロードは終わり、『銃魔術』がゴードバンに向けて構えられる。

けれどもう、ゴードバンには抵抗する意思は無かった。

(…もう良い。)

この少年は、奇跡の様な自己研鑽の末、この理不尽な状況を跳ね除けたのだ。

息子の時のように、志半ばで潰れる事なく、悪意を潰し返した。

ひょっとしたら、私が求めていたのは、このように努力をした者が報われる結末だったのかも知れない。

(…満足、だ。)


タンタンタンタンタンッ!


ゴードバンの意識は、真っ白に霧散した。

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