表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

13_暗躍

剣術大会が大波乱のまま幕を閉じた日から2日が経った深夜。

僕は王都にある、とある建物の屋上に来ていた。

既に屋上で見張りをしていた二人は倒している。

『空間把握』で4階建ての建物の各階を入念に調べる。

間取り、人数は把握した。

こちらの魔術に反応する者も無し。

少なくとも、まともな魔術師は潜んでいなそうだ。


ここは王都でも有力なマフィアのアジトだ。

ここの組は剣術大会での賭けも取り仕切っている。

大会が大波乱という結果になった場合、一番儲けるのは誰だろうか?

大穴を当てた者?

それよりもっと儲かるのが、賭けの胴元だ。

今、この建物には王都中の賭けの儲けが全て集まっている。

それを根こそぎいただこうと思う。

でも、それはあくまで「ついで」。

この組の主な「しのぎ」は人身売買だ。

そう、親父君と繋がってるんだよね、この組。

ここは、複数の貴族と通じ、各地で誘拐を繰り返す組織的犯罪の拠点にもなっているというわけだ。

剣術大会は最悪でも、命の危険というまではいかなかった。

しかし今日は、失敗すれば死ぬより恐ろしい目に遭う事は必至。

細心の注意を払って事を進めなくてはいけない。


まず、屋上から4階に侵入。

既に身体強化系と『闇纏い』の魔術は発動している。

さらに、階全体を範囲に『防音』の魔術を掛ける。

これでこの階でいくら騒がれても、下の階には気付かれない。

その上で、『眠り』の魔術も発動!

室内ではバタバタと人が倒れるのが分かる。

この魔術、抵抗され回避される確率もまあまあ高い。

今も一人、眠らずに耐えた者が居る。

その一人は最優先で排除する。

『魔力銃』を起動。

これは、ここ2年で僕が考えたオリジナル魔術だ。

同じくオリジナルの『弾込め』の魔術と対で使用しなくてはならないし、一回で込められる魔力弾も5発と改良の余地は多いが、一度に致死力のある攻撃を連射出来る点がポイントだ。

おまけに属性を付与すれば、サイレンサー付きの銃の如く無音で弾を放つことも出来る。

僕は、警戒している一人に壁越しに近付く。

前世のオンラインゲームで「ウォールハック」というチートがあったが、実際に使えると非常に便利だ。


タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!


壁越しに頭を狙い2発。

さらに、心臓を狙ってもう2発打ち込めば、相手は倒れ込んだ。

すぐに『弾込め』の魔術でリロードしつつ周囲警戒。

隙を突いて来る者も、『眠り』から覚める者も無し。

あとは残ったこの階の人間を無力化して、この階の制圧は完了。

続いて3階の制圧に移る。


…我ながら残酷な事をしている。

だが相手は、王国各所で野盗を使い、誘拐、人身売買を繰り返す連中だ。

情けなど必要ない。

3階も4階と同様に制圧したが、ここでトラブル発生。

2階から3階へ登ってくる者が居る。

動きから何かあったのではないか、と警戒しているのが分かる。

音でなく、人が倒れた際の振動を感じ取ったのだろうか?

勘の良い奴。

…あれ、よく考えたら、いきなり上の階が静かになったら、それだけで怪しいのか?

……

うん、切り替えて行こう!

とりあえず、相手が一人だけなら難しくは無い。

ただ、それが斥候のような役割の者であれば、それが戻って来なければ、下の階に残った者達の警戒度合いは最大となる。

どうする?

よし、まず斥候一人はギリギリまで引き付けてから対処する。

探った結果、斥候の動向を少し後ろで確認するような者は居ないようだ。

「おい!何かあったか?開けるぞ!」

ガチャ。

「…?……っ?!」


タタンッ!タンッ!タンッ!


物陰に隠れ、相手が惨状に気付いた瞬間に集中砲火を浴びせると、新たな被害者は声も出せずに倒れ込んだ。

ここからは速攻で行く。

やる事は変えない。

幸い、2階の人間は、ほぼ一部屋にまとまっている。

『防音』と『眠り』発動!

『弾込め』でリロード。

そのまま、3階から2階へ向けて『魔力銃』を連射する。

5発撃ってリロード、を3回繰り返して静かになった2階に素早く移動。

そこから1階の動向と、2階に討ち逃した者が居ないかを確認する。

……

うん、1階におかしな動き無し。

2階に居た者にも討ち洩らしは無かった。

…2階に降りて確信したけど、ここがボス部屋だ。

ま、漁るのは後回しにしとこ。


次は1階。

人がこれまでより多いな…。

床が頑丈になっていて、上からの乱射は威力が半減してしまう。

窓も扉もあるし、最悪逃してしまうこともあり得る。

そうなると、別のアジトから助っ人を呼ばれて、後が面倒になる。

…でも、今回の作戦の最後は結局、そのリスクがあるので、そうなったら已む無しか。

せめて『眠り』は2重掛けする。

…あれ?

意外に皆、倒れたな。

いい加減、魔力残量が不安になってきたので、残りは『闇纏い』で仕留めることにしよう。

……

ん?

「うおおぉぉっ!」


タタンッ!タンッ!タンッ!タンッ!


「ぐっ…はぁっ!」

危ない危ない。

倒れたふりをして、近付いたところを狙われた。

思わず『魔力銃』を5発打ち尽くしてしまった。

ちゃんとリロードしておく。

…残りもちゃんとトドメ刺しておきましょうね〜。

うん、テンションがおかしくなってしまった。

とはいえ、4〜1階は全て制圧した。

あとは…。


『空間把握』で地下への入口を探し、開ける。

さらに『空間把握』と『熱源感知』を発動すると、地下に多数の人間が囚われていることが分かった。

一番まだ元気がありそうな者達の檻を選ぶか…。

──ん?


「ソコノ女、檻ヲ出ロ。」

なるべく声質も気付かれないように、掠れ声で語りかける。

「ッ?!」

おずおずと牢を出る女。

服はほとんど身に着けていない。

部屋自体が暗く、こちらの様子もよく見えまい。

『闇纏い』のせいで、フードマントを被っているようにしか見えないはずだ。

「コノママ外ヘ出テイケ。」

言葉に従い、外に向かい歩き出す女。

しかし──

「このっ!」

近付いたところで、手に持ったナイフを突き出してきた。

──馬鹿がっ!


ザスザスザスッ!


『闇纏い』を変形させた槍が、女の体を串刺しにする。

「…ぐっ、クソッ…。」

おそらくマフィアの一員であったのだろう女。

異変を察知し、拘束された者達に混じってやり過ごそうとしたのだろう。

その証拠に、服は質素であるのに、立派なナイフを隠し持っているのが分かった。

──けれど、「出ていけ」の言葉に素直に従ってくれるのなら、見逃すつもりでいたのだ。

それなのに、歯向かって来るから、始末せざるを得なかった。

はぁっ…。

──それ以外には、おかしな物を持ってる者は無し。

僕は、適当に檻を開放してゆく。

「邪魔スル者ハ居ナイ。好キニ逃ゲロ。」

そう言い残し、2階を漁りに戻る。

『空間把握』で賭博の売上げを探る、…お、あった。

お金、金目の物、気になる物、はすべて『アイテムボックス』に放り込む。

その間に地下に囚われていた人達は、恐る恐る1階に上がり、1階の扉から外へ飛び出して行った。

やがて、それに気付いた周辺の町人から、近くの兵士詰所へ話が伝わり、兵士が駆けつけて来る。

想定では、周辺にあるこの組の別拠点から、追加の構成員が先に飛び込んで来ると思った。

だが、そういった団体さんは、結局、来なかった。

兵士が駆けつけたのを確認した僕は、ボス部屋にホーンテップ領からくすねて来ていた書類をぶち撒け、4階から逃走した。



翌日、昼。

王都の中央区、貴族の王都邸が立ち並ぶ内の一角で、聞き覚えのある声が響いていた。

「早くしろ、セシル!兎に角、王都を出るのだ!」

「父上、一体何が?!」

「ええいっ、訳は後で話す!今は私とベルドだけでも、先に領に戻るのだっ!」

社交シーズンだ、ナグラとベルドも当然、王都に来ている。

ナグラはどうやって察知したのか、危機を察して王都を脱出しようとしているようだ。

セシルを急かして、一刻も早く馬車を用意させている。

そして、事態を把握出来ていない二人を伴い、馬車に乗り出発する。

これでホーンテップ領まで戻れば、まだ言い訳や時間稼ぎが出来る。

そう思ってる事だろう。


ガコンッ!


しかし、無情にもその馬車の片輪の支柱が折れて、馬車が止まってしまう。

「何をやっている!!早く進まぬかっ!」

「それが…馬車の車輪が壊れております。直すか、別の馬車を用意するしか──」

「お忙しそうですな?」

セシルの言葉の半ばで、会話に割り込む者が居た。

「見てわからぬか!何を──」

声に反応しようとしたナグラが、振り向き固まる。

「失礼、私はラプラス騎士団団長のネルイと申します。ナグラ・フォン・ホーンテップ男爵様とご子息様とお見受け致しました。」

そこには武装した騎士の一団が並んでいた。

「陛下より勅命です、このまま御同行されたい!」

団長という男の言葉を合図に、並んだ兵士が馬車を取り囲む。

「待てっ、違う!私は──」

「おいっ!何をする!男爵家当主に対し、無礼であろう!」

ベルド君、…親父君は「違う」って言ってるじゃん。

売るな売るな(笑)

ま、ホーンテップ家の旗を掲げだ馬車に乗ってる時点で、違うことなんて無いんだけどね。

まだ何事か喚いている二人だったが、屈強な男達を相手には多勢に無勢。

無様に引き摺られていく。

その周囲には人集りが出来ていた。

「誰かっ!助けろ!私を誰だと──」

なおも抵抗するナグラが、何事か喚いた瞬間、人垣の内一人と目が合った。


──僕と目が合ったのだ。


「クロー…?」

ナグラが呆然とした声を出す。

そんなナグラに、僕は声を掛ること無く、ただ笑ってみせた。

睨め上げるように、じっと見つめて。

「ク、クロー!助けろっ、クロォォォォォッ!!」

堰を切ったように、また喚き出したナグラに背を向けて、僕は人垣を抜け出した。


念のため、車輪に細工をしておいて良かった。

これで、ツウィルさんとの約束は果たせた。

ホーンテップ領の皆にとっても、あんな領主が居座り続けるよりは、他家の人間に任せた方がマシだろう。

少なくとも、人拐いは居なくなるはずだ。

これで肩の荷が降りた。

あとは…後始末がされるまで見届けようか…。


僕が国を追われる前、最後の秋の出来事であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ