12_閑話2_ゴトー2
「ほらっ!腰が引けてるぞ!背筋を伸ばせっ!」
そう言って檄を飛ばす。
ここは冒険者ギルドの練習場。
クロー君の剣術指南役の役目を終えた俺だが、今だに剣術を教え続けていた。
相手は孤児院出身で、成人して冒険者になった子達だ。
報酬は無し。
まぁ、出世払いって事にしている。
クロー君の世話から開放され、長年の報酬も有り生活にも困らなくなった俺は、時間を持て余すようになってしまった。
そこで思い出したのは、やはりクロー君の事だった。
あの子は孤児院の子達をずっと気に掛けていた。
クロー君の、自分の損得を度外視した行動には、いつも関心していた。
生活に余裕が出来て、時間も出来た今、俺も人のために何かしたくなったのだ。
けれど、俺に出来る事は剣を振るう事くらいだ。
ならば、まだ未熟な新米冒険者に剣でも教えようか、と思い付いたのだった。
幸いクロー君で、剣術を教えるのには十分慣れていたからな。
俺は若い冒険者に声を掛けていき、今に至る。
えらいもので、剣を教え始めてから、同じ冒険者仲間の女の子から言い寄られて、良い感じになっている。
また、それとは別に、コヨリ商会の若い従業員の娘にも言い寄られている。
これがモテ期と言うやつだろうか?
過去に負った傷跡も、近頃はちっとも傷まなくなったし、心身共に充実した日々を送っている。
「おっ、やってるな!」
「ギルマスか、…茶化すなら、今は邪魔だからな?」
「そう邪険にするなよ。俺も若手の成長は気にしてるんだ。」
そう言われると強くは言えない。
ギルマスには、なんだかんだ恩もあるしな。
「しっかし…、クロー君の時も思ったが、お前が剣術を教えるなんて、似合わねぇなぁ。」
「…いや、じゃあなんでクロー君の時、俺を指名したんだよ?」
「消去法さ。逆に聞くが、お前以外でお貴族様のお相手を出来そうな奴が、ウチのギルドに居るか?」
「──確かに。」
うん、やはり居ないな。
いや、皆、気の良いヤツラなんだが、…言動が雑過ぎる。
別に仲間内なら何も咎めることは無いが、貴族様相手ではなぁ。
…まあ、あのクロー君ならニコニコして受け入れた気もするが。
「でもな、俺が昔教えてやってた友人は、今では国王陛下の近侍をするくらい、出世してるんだぜ?クロー君の例もあるし、結構、性に合っていると思うんだがなぁ。」
「ノドゥカ君だっけ?その話もよく聞くが、本人の努力の結果だろ、それは?」
「それはそうなんだが、それに俺もちっとは貢献してると思ってんだよ。」
「…ま、思うのは勝手だかな。」
くっ、遠慮なく言ってくれる。
「でもまぁ、クロー君の件は良くやってくれたよ。お前でなきゃ、あの坊やをあそこまで指導出来なかったんじゃないか?」
「なんだよ急に、気持ち悪いな。…けど、偉そうに言っておいて何だが、あの子なら俺でなくても、成長出来てたと思うぞ。」
「そうか?最初の頃は、体を動かす事すら大変そうだったぞ?」
「う〜ん、それがちょっと不思議なんだが、あの子は始めから、普通の貴族子息なら嫌がりそうな基礎体力作りも、喜々としてやっていたんだよなぁ。」
「へぇ?病弱だったと言うから、体を動かすのも嬉しかったのかね?」
「それもあるかもな。けど、あの子も才能ある子だったんだぞ?」
「へぇ?そうは見えなかったが…。」
「なんと言うのかな…確かに最初はヘッポコだったんだが、練習していくうちに型が完璧になっていくんだ。それこそ、徒手空拳の型については、教えてもいないような、洗練されていて、かつ、効果的な型になっていった。まるで、完璧な動きを何百回と見てきたかのようにな。」
普通、型というものは師匠の型を何百回と見て覚えるものだ。
それが、クロー君には最初からそのイメージが有ったかのようであった。
「だから俺も、格闘を織り混ぜた、俺の本来の型を教える気になったんだ。最後の頃はもう、教える事も無くなっていたよ。」
「そうか…。」
ギルマスが静かに頷く。
俺の教えが良かったと思いたいが、そんなクロー君は元伯爵様の御眼鏡に適ったのか、十一と言う若さで引き取られて行った。
誇らしくはあるが、ちょっと寂しい気持ちもある。
「…そう言えば、そろそろ王都では剣術大会の始まる時期だな?」
話がしんみりし出したせいか、ギルマスが話題を変えて来た。
「ん、そうだな…。」
「お前はまた出てみる気は無いのか?」
「無い。あれは本当の実力を競う大会じゃないと知ったからな。」
無意識に右足を擦ってしまう。
もう痛みは全く無いのに。
「…それに、当時の俺は実力も無かったよ。今なら分かる。」
大会本戦に出れたとしても、当時の俺では勝ち上がる事など出来なかったろう。
「じゃあ、王都に戻る気も無いのか?」
再び、ギルマスが問うてくる。
「無い!住んでみて分かったが、こっちの生活の方が、俺の性に合ってるんだよ。王都の堅苦しい生活には戻れねぇわ。」
これは本心だ。
田舎過ぎることも無く、堅苦しいほど都会的でも無いホーンテップ領は、物に不自由することも無く、適度に刺激も有って、丁度良い。
それに、かわいい彼女も出来そうなのだ、今更ここを離れる気は無い。
「そうか…、安心したよ。今、お前に居なくなられると、ウチのギルドは一気に戦力ダウンしちまうからな。」
「「面倒事を押しつける相手が居なくなる」の間違いだろ?」
「はっ、違いねぇ。」
「ふふっ。」
そう言って俺達は笑いあった。
6年前、悲壮的な気持ちで都落ちしたあの日が、遠い昔のようだ。
先のことは分からないが、俺はまだここで暮らしてゆくつもりだ。




