表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/35

12_閑話1_見舞い

「やあ、いらっしゃい。よく来てくれたね。」

「お久しぶりです。お元気そうで何より。」

「まだあちこち痛むし、違和感もあるけどね。…ま、立ち話も何だ、入っていってくれ。」

「では、お言葉に甘えて。」

王都の中央区域にある集合住宅の一室で、ノドゥカさんが出迎えてくれた。

ここはノドゥカさんの自宅だ。

「今、お茶を淹れるから、ちょっと待ってて。」

「あっ、僕が淹れますよ!」

「ん、そうかい?…では、お願いしようかな。正直、ちょっと自信が無いんだ。」

剣術大会から一週間ほど経ったが、ノドゥカさんの顔や手にはまだ痣が残っており、見ると足も微妙に引きずっている。

そんな相手を、わざわざ動かそうとするほどには、ノンデリじゃない。

「どうぞ。」

「…うん、美味しい。すごいね君は、何でも出来るじゃないか。」

「いや、褒めすぎですよ。…実家に居た頃からやっていたので、慣れてるだけです。」

「君、男爵家の子息だったろう?普通は使用人にやらせて、自分ではなーんにも出来ないものだろうに。」

「ほんと名ばかりの貴族家子息でしたけどね。だから、身の回りのことは自分で出来るようになりたかったんです。」

お茶を冷ましながらノドゥカさんに答える。

「剣術もその一環で?」

「はい。いつ自分が家から放り出されるとも分からなかったので。」

「…それで、剣術大会を優勝するほど強くなるなんて、スゴイ以外の言葉が見つからないよ。」

ノドゥカさんが苦笑する。

「僕の場合、魔術という反則技も使いましたしね。さらには、ゴトーさん仕込みの体術を織り混ぜた戦い方で、トロリス流の人はさぞやり辛かったでしょう。」

そう言って、お茶を飲み干し顔を上げ、ノドゥカさんの方を向く。

「当然だけど、誰にも君の正体は話していない。私の名で書いた紹介状も、こっそり回収して処分しておいたよ。」

ノドゥカさんもカップを置き、こちらを向く。

「ありがとう。君のおかげで、ゴトー兄の仇をとることが出来た。」

そう言って、ノドゥカさんは頭を下げる。


ノドゥカさんとは、イリス様と初めてお会いした日に出会った。

ノドゥカさんはイリス様の付き人として、パーティに参加していた。

体格が小柄なノドゥカさんは、相手に威圧的なイメージを与えず、それでいて実力は逹士クラスということで、イリス様によく付き添わされるため、陛下の信頼も厚いそうだ。

パーティの場で僕の出身地を聞いたノドゥカさんに、「ゴトーという冒険者を知っているか?」と聞かれて驚いた。

あちらも、「僕の剣術の師匠です」と聞いて驚いていたっけ。

もともと、ノドゥカさんとゴトーさんは、親がともに王城勤めで家族ぐるみの付き合いかあり、ふたりも幼なじみであるそうだ。

その後、ふたりも王城勤めとなるが、年上のゴトーさんが腕試しのために剣術大会に参加した際、今回のノドゥカさんのような目に遭ったらしい。

結局、大会本戦は欠場となり、足に後遺症の残ったゴトーさんは職を辞し、知り合いであったホーンテップ領のギルマスを頼って冒険者となったと言う。

思い返せば、ゴトーさんを斡旋してくれたのはホーンテップ領のギルマスであるし、会ったばかりの頃のゴトーさんは微妙に片足を引きずっていた気がする。

ちなみに、ゴトーさんの足に関しては、酒に酔ったゴトーさんを介抱するついでに、魔術で治療済みだ。

もちろん、魔術はぶっつけ本番でゴトーさんに施したのでは無く、ちゃんと野盗達で実験と練習を重ねた上で行ったので安心だ。

別れ際のゴトーさんは、完全に以前の調子を取り戻していたはずである。

それでも王都に戻って来ないのは、ホーンテップ領での暮らしに満足しているせいだろう。

…とは言っても、恩師であるゴトーさんに理不尽な仕打ちをしたトロリス流に怒りは湧く。

そこで僕は、2度目の王都訪問の際、ノドゥカさんに「僕が正体を隠して大会に参加するので手伝って欲しい」旨を伝えた。

その流れでノドゥカさんには実力も見せた。

すると、当初案では無かった「ノドゥカさんか身代わりで襲撃される」過程をノドゥカさんに提案されたのだ。

初めはこの案に僕は乗り気では無かったが、この過程が無ければ、信頼も実績もあるトロリス流の醜聞など、誰も耳を貸してくれない、との説得に折れた。

結果、この大会でトロリス流の信頼は地に堕ちた、というわけだ。


「顔を上げてください。ゴトーさんの仇を取りたかったのは、僕も同じですから。」

「そうか…それでも、ありがとう。」

僕らは互いに笑いあった。

「…それと、君の家のことも伝え聞いているが…大丈夫かい?」

おお、耳が早い。

「大丈夫です。セーム様の家から追い出される心配は無さそうです。ただ、子爵領には戻らずに、王都にある邸宅の管理をする事になりそうですが。」

「そうか。もし、困ったら私を頼ってくれ。君が望むなら王城勤務の職だって用意させてもらうよ。」

…それって社畜直行コースじゃないですかやだー。

「あはは、考えておきます。」

ま、人生何が起こるか分からないし、そういう道に進まなくちゃいけない可能性もある。

ここは、何も明言しない愛想笑いで逃げておく。

「…実は今は、王都にお店を出そうかと考えていて、そっちがダメになったらお願いするかもです。」

「へぇ、どんなお店だい?」

「実は──」


その後もつい話し続けてしまったが、隙をついて『眠り』の魔術を発動させ、ノドゥカさんを眠らせることに成功した。

今日の僕の目的はこれだったんだよね。

僕はノドゥカさんを横たえ、手を添える。


『内診』!


『空間把握』の効果範囲を狭めて、顕微属性を付加したリメイク魔術だ。

これでノドゥカさんの怪我の状態を見てゆく。

まずは一番心配な頭から…血栓のようなものは無し。

怪我は表面だけのようだ。

続けて、頭を庇ったであろう、腕を診る。

骨折の跡が分かって痛々しい。

あっ、この付き方は怪しい。

治った箇所が神経を圧迫しているように見える。

教会の治癒はこれだから信用ならない。

気付いた箇所は、同じくリメイク魔術の『整形』で微細なレベルで骨を削り、文字通り整形してゆく。

その後は腰と足も診て、同様に処置を行う。

体の表面の傷や痣については、敢えて何もしない。

僕が処置したことをノドゥカさんに気付かせないためだ。

僕が治癒まで出来ると知れば、さすがに全力で勧誘されそうな気がするので、それは避けたい。

…うん、ここまでやれば、後遺症の心配は無いだろう。

僕はドアから…鍵が掛けられないか。

鍵を開けたまま帰るのも不用心だし…。

僕は2階にあるノドゥカさんの家の窓から外に出て、家路に着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ