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11_大会二日目(後編)

一方、大会の方は最終試合が始まっていた。

試合はディフェンディングチャンピオンのブライドルが一方的に攻め続ける展開となっていた。

ロープは自慢の足を活かし、ブライドルにろくに反撃もせずに逃げ回っている。

ブライドルの方も、これまでの試合を見て一筋縄でいける相手ではない、何かあると思い攻め切れずにいた。

舞台下のからは、ゴードバンが声を上げている。

前試合の後、回復したゴードバンは、せめて最終試合を舞台側で立ち会いたいと、ニゴウ国王に嘆願したのだ。

そのゴードバンも、膠着する試合内容に苛立ち、盛んにブライドルに激を飛ばしていた。

ずっと同じ局面を見せられ続けた観客からも、徐々にブーイングが起き始める。

ただ、会場を見渡せるニゴウ王の周囲だけは、頻繁に兵士が出入りするなど、慌ただしい様子を見せていた。

やがて、王が立ち上がり合図をすると、気付いた審判が試合を中断させた。

「試合を止めてもらい、感謝する。どうしても、今、問い質さなくては気が済まなくてな。」

てっきり、あからさまな時間稼ぎをするロープに業を煮やしたのかと思っていた観客は、何事かとざわざわし始める。

「…今しがた、我が近侍のノドゥカがトロリス流の門下三名に襲撃され、重傷を負わされた。」

「なっ?!」

ニゴウ王の言葉に一番驚きの反応を見せたのは、ブライドルであった。

王の声が届いた観客達からも、驚きの声が漏れる。

「ロープ殿、ノドゥカは君のマントを羽織っていたそうだが?」

「はい。3戦目の後、もう使わぬかと思い、その場にいた方に控え室へ運んでいただくよう、お願いいたしました。」

「…?!」

二人の会話に、ゴードバンが声を出さずに驚く。

「ふむ…。しかし、何故ノドゥカはマントを被っておったのか?」

「さあ…。正確なところは御本人にお聞きすりより無いかと。…ただ、想像するに、手で持って運ぶには嵩張りますから、被った方が持ちやすいと思われたのでは?」

「…なるほど、分かった。…さて、ブライドル。」

「はっ!」

「言わずと分かるだろうが、これはトロリス流門下が、お前を勝たせるためにロープ殿を襲おうとして、起きたものだ。…これは、お前の差し金か?」

「い、いいえ!私はそのような指示など、してはおりません!」

「…発言には気をつけよ。既に実行犯三名は捕らえておる。事が我が近侍に係わる事なだけに、厳しい尋問がされておろう。そ奴らの言い分と、お前の発言に齟齬があらば、疑われるのはお前の方だぞ?」

「はい、構いません!神に誓って、不正な指示など行ってはおりません!」

おや?…ロープは意外に思った。

てっきり、その場を取り繕うだけの言い訳が並べられると思っていたが、ブライドルは神まで持ち出して、自分の潔白を主張して来た。

この国で主に信仰されている宗教は、国王の一族の始祖にこの国を任せたという神を崇める一神教だ。

人はどれほど欺く事が出来ても、全知全能たる神は欺く事は出来ない。

神の御名を出して偽りを述べれば、必ず神罰が下る、とそう信じられている。

そうまでして嘘を吐き、ブライドルがこの場を切り抜けたとしても、いつか必ず同等以上の神罰が下るだけ。

他人に手を汚させてまで自分の名誉や利益を優先する人物であるなら、確実に自分に害が及ぶことになる発言をする愚は犯さないはずだ。

「…お前はどうだ、ゴードバン?」

「…。」

「ゴードバン?なにか申し開く事は無いか。」

「…申し上げる事は、何もございません。」

ニゴウ王に重ねて問われたゴードバンは、顔を伏したままそう答えた。

「…それは、自分の関与を認める、という事か?」

「…。」

「沈黙は肯定と受け取るぞ?」

「…。」

「ゴードバン?!」

国王の問いに沈黙を貫くゴードバンに、たまらずブライドルが声を発する。

ブライドルの呼び掛けに対しても、ゴードバンは無言を貫く。

「よく分かった。ゴードバンを連れて行け、この場で言えぬことも、取り調べでなら話せるであろう。」

ニゴウ王がそう告げると、衛兵達がゴードバンの元へ向かって行く。

「陛下!」

「んっ?」

「ゴードバン殿を連れて行く前に、一つお聞きしたい事がございます。」

ここでロープがニゴウ王に問いかける。

不意の事に面食らうニゴウ王であったが、ロープ自身は何かやらかしたわけで無し、発言を聞くことにした。

「構わん、申せ。」

「はい、ありがとうございます。…実は、舞台下から人の気配を感じるのですが、これは陛下も御存知の事でしょうか?」

「…はぁ?」

あまりに予想外の話に、素の反応をしてしまうニゴウ王。

「コホンッ!…どういう事かね、ロープ殿?」

「はい。本日、舞台上でしばしば床石が動くのを感じました。多分あれ、下に人が潜んでいるのだと思うのですが…。」

「…それは、具体的にどれか分かるかね?」

「はい、おおよそは。」

「よろしい。衛兵、ロープ殿を手伝え。」

「「はっ!」」


その後、衛兵がロープの示す床石を剥がすと、そこには各一人ずつ、トロリス流門下と見られる者が潜んでいた。

合計5箇所、すべてに、だ。

「…なぜ、そのような場所に…?」

「下から床石を浮かせて、段差につまずくように。…そこまでいかずとも、足場に違和感があれば踏み込みが甘くなります。大会に出る者同士の対戦では、その僅かな差が決定的な差になりかねない、といったところでしょうか?」

「なっ!」

疑問を口にしたニゴウ王は、すぐさま冷静に解説されて言葉に詰まる。

「いやしかし、私が言うのも何だが、ここまで的確に位置が分かるものかい?少なくとも、私は気付かなかったのだが…。」

「そりゃあ貴方はトロリス流筆頭ですから、妨害対象は貴方の対戦相手の方でしょうし、ブライドルさんは気付かなくて当然では?…私も疑われているようですが、わざわざ買収までした者を、こうして突き出すなんて、筋が通らないのでは?」

ブライドルの発した言葉にも、淡々と答えるロープは、引きずり出された5名をチラリと見る。

「しかもこの状況では、突き出した者は、きつく尋問され、簡単に情報を吐いてしまうでしょう。それが分かった上で、わざわざ実行者を明るみに出すメリットなんてありませんよね?」

「…たしかに。」

ブライドルも、もはや何も言えなくなる。

「…実は、私も不思議に思うことがあるんですよね〜。」

「「?」」

さらに話を続けるロープに、ニゴウ王もブライドルも顔を見合わせる。

「構造上、床下からは舞台上の動きなんて分からないじゃないですか?それで的確に妨害するためには、舞台を見ている人間からの指示が必要なんですよ。」

ロープはチラリとゴードバンを見る。

「…いったい誰がそんな指示をするんですかね?そういえば、この試合でも舞台外から大声で叫んでいた方がいましたよね?」

「「っ!!」」

ロープの意図に気付き、ニゴウ王とブライドルは同時にゴードバンの方を向く。

「ゴードバン…この状況でも、言う事は無いと申すか?」

「…ございません。」

王の問いに、頑なに口を閉ざすゴードバン。

「──もうよい。貴様が、この大会の主催である私に恥をかかせたいという事は、よく分かった。そこな5名とゴードバンを連れて行け!誰からどのような指示があったか、締め上げろ!!」

「「はっ!」」

今度こそ、ゴードバンは兵士により、会場を連れ出された。


「ブライドル。見たところ、お前も預かり知らぬ事であったようだが、そも、トロリス流筆頭であるお前が、これを知らぬこと自体が問題なのだぞ?弁えておるか?」

「はい、仰せの通りで御座います。処分は如何様にも…。」

国王の言葉に、ブライドルは膝を付き顔を伏せたまま答える。

「ふむ…。ロープ殿、どうだろう?もし、望むならブライドルをこの場で失格とするが?」

「いえ、その必要はありません。私は腕試しも兼ねてこの大会に参加致しました。問題無いのであれば、再開としていただいて構いません。」

一方のロープは、自然と立ったまま、返答する。

「…そうか、分かった。邪魔者も居なくなったことだ、再開としよう。ブライドル、お前の処分は追って伝える。」

「はっ。御寛大な処分、ありがとうございます。…ロープ殿、君にも感謝する。」

「はあ…。」

感激する様子で立ち上がり、声を掛けてくるブライドルに、ロープは気の無い応答をする。

「では、両者よいか?…始め!」

審判の合図で、試合が再開される。

構えるブライドルに、今度はロープが攻める。

距離を詰めたロープは、明らかな間合いの外から、突きを繰り出して来た。

相手の意図が分からず、動きを止めるブライドル。

しかし次の瞬間、届かないはずの突きの先端は、ブライドルの眼前まで迫ってきた。

「くっ!」

慌てて剣を弾くブライドル。


カンッ!


しかし、弾いた剣が…軽い?

それどころか…柄が握られていない。

これは──


ゴッ!!


そこで、ブライドルの意識は途絶えた。

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