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08_王都予選

剣術大会は3部から成る。

地方予選、地区予選、本戦の3つだ。

ホーンテップ領のような田舎領では地方予選が行われ、その優勝者が地区予選に参加することが出来る。

地区予選は国内を5つの地区に分割した中で、それぞれ最も栄えている町で行われる。

それも勝ち上がると、いよいよ本戦。

前回大会の上位者を混じえて国内一の剣士を決めるわけだ。

僕も地方予選は見に行ったりしていた。

地方予選の頃は、親父君が予選の仕切りをしたり、王都へ行く準備をしたりで忙しそうにしていた記憶がある。


僕は王都で行われる王都予選へエントリーする。

推薦状を書いて貰っておいて良かった。

成人前に出場する者は滅多に居ないらしく、危うくエントリーすらさせて貰えないところだった。

僕の本命の目的とはやや逸れるが、この剣術大会でもやりたいことが出来たので、腕試しがてら出場することにした。

とはいえここで顔が知れ渡ってしまうと今後不便なので、スカーフで髪を隠し、マスクもして、名前も「ロープ」と偽名で登録させてもらった。

この大会、装備は自前で制限も無い。

有名な戦士では、全身鎧を着込んだ重騎士が居るくらいだ。

禁止されている行為は、金的、目潰し、魔術の使用、の3点。

そのため、魔術アイテムの使用も禁止されているので、僕の装衣も細かく調べられた。

もちろん服には何も細工なんてしてないし、問題無かった。

ちなみにその際、係の人に顔を見られたが、まぁ、それぐらいはしゃあなし。

写真や動画を撮られたわけじゃなし、この世界では人相を拡散する手段なんて限られている。

魔術の使用については、『火球』等の攻撃魔術を想定したルールであり、僕が使おうとしてる、自分の体に効果を及ぼす魔術についてはバレないと考えている。

ナズナの話によれば、そもそもエルフですら体内で効果を及ぼす魔術は接近しないと気付けないものらしい。

まして人族なら、『魔力感知』でも使わなければ、その魔術の発動に気付けないだろう、と言うのだ。

さらに、会場となるスタジアムのような施設で、観客席に感知役の魔術師を配置してたとしても、スタジアム中央で戦う剣士達までは距離がある。

その体内の魔術までは、とても気付くまい。

加えて、王都予選は抽選で振り分けた4つのトーナメントが同時進行する。

体外に放つ系の『空間把握』ですら気付かれまい、クククッ。


と、いうわけで予選一戦目。

トーナメント4勝すれば、明日の…地区予選になるのかな?…に参加できる。

今日は極力、実力を隠す方針でやってみる。

「…おい、ボウズ。なんでここに居るか知らねぇが、怪我する前に棄権しとけ。悪いこと言わんから。」

うわぁ…煽りでなく普通に心配そうにってお前…巨漢の割に紳士的じゃねぇか。

なんか、騙し討ちするみたいで申し訳ないなぁ。

「ふ、ふんっ!心配されるいわれは無い!今すぐ目にもの見せてやるっ!」

こちらは煽りで応対。

いや煽りというか、精一杯、虚勢を張っている感じで。

…ああ、対戦相手君も呆れてる、そりゃそうだ。

「始め!」

審判が、試合開始の合図を告げる。

「たぁあ〜っ!」

開始するや、相手に突貫する僕。

一振り、二振りするが、意外にも巨漢君は冷静にそれをいなす。

その勢いのまま、僕は巨漢君の横を通り過ぎるが、その瞬間、背後の巨漢君に向けて、素人感丸出しの太刀筋で剣を振り回す。

「やあっ!」

「へっ?」


ガンッ!!


振り回した剣が、巨漢君のテンプルにクリーンヒットした。

この大会、支給される武器は全て刃が落とされており、絞め技も許されている。

謂わば、得物の使用を許可された総合格闘技のようなものだ。

なので、片方が戦闘不能になったと審判が判断すれば、すぐさま試合が止められる。

「それまでっ!」

一撃で気を失って倒れた巨漢君を庇うように、二人の間に体を挟みながら審判が試合終了を告げる。

このような場合に備え、審判も全身に革鎧を纏っている。

試合終了に気付かず、相手に追撃しようとする対戦者から、敗者を体を張って守るのだ。

もちろん僕は追撃なんかしない。

「意図せず勝利してしまって呆然としている初心者」を必死で演じている。

「勝者・ロープ!」

やがて審判が勝利者名を告げると、観戦者からどよめきが起きた。

「はあっ?そんなのアリかよ。」

「おいおい、まぐれにも程があるだろ!」

野次と笑いが混ざる中、僕はそそくさと舞台から降りる。

もちろん、僕は『空間把握』を発動して、真後ろの巨漢君を狙い打ったのだが、観客からはラッキーパンチが当たったかの如く見えたろう。

よしよし、狙い通り。


僕はその後、2戦目、3戦目も同じように「まぐれ勝ち」で勝ち進む。

観客も、勝つ度に「アイツまたやりやがった」と大盛り上がりだ。

そして迎えた4戦目、王都予選トーナメント決勝。

いつしか、4つのトーナメントのどれよりも注目を集めてしまっている。

…さすがに『空間把握』は自重しておこうかな。

これ無しだと、難易度が上がるのだけど…でも、これまでの戦いを見られて、既に警戒されてるし、いまさらか。

相手は冒険者風な装備で、いかにも実力者っぽい雰囲気を出している。

きっと、この予選も何回か通過した事があるのだろう。

「始め!」

これまでのパターンを変えるわけにもいかない。

兎に角、突っ込む。

相手はそれを予想してたようで、腰を落とした迎撃体勢をとる。

「やあっ!」

どこか気が抜けたような掛け声と共に剣を振るう僕。

相手はそれを事も無げに弾くと、返す刀で僕に斬り掛かる。

「うわっ!?」

「へ?」

その瞬間、僕は躓いたように地面すれすれまで姿勢を落とす。

相手には、刹那、僕が消えたように見えたことだろう。

「たぁぁぁぁっ!」


ゴッ!!


その隙を見逃さず、僕はその顎を蹴り上げた。

鈍い音が響き、相手は気を失って倒れる。

「そ、それまで!勝者・ロープ!」

審判が勝利者名を告げると、1戦目とは比較にならないほどの歓声か起きた。

「やりやがったアイツ!予選突破しやがった?!」

「てか、蹴りで決着ってなんだよ!格闘の大会じゃねぇんだぞ?!」

「トロリス流の奴等、なにやってんだ!あんなのが進出できるって?!」

「明日の賭けは荒れるな〜、こりゃ。」

いろいろ言われとる言われとる。

けど、内心そんなことに反応する余裕無い。


やっっっっば!!


『身体強化』と『思考加速』使っても、避けるのがギリギリだった。

予選レベルであれって、本戦とかどんだけバケモンが出てくるのか、怖いわ。

ゴトーさんに蹴りを仕込まれてなきゃ、勝てなかったかもしれない。

動揺する様子を悟られないように、明日の必要事項を聞いたら速攻で帰ってしまった。

「おい貴様。さっきの試合を見て…あ、ちょっと待て!…おい、オレ様が話し掛けてやって…止まれって!」

知らん知らん!

なんか、バトルマンガなら明日以降の試合でライバルになるヤツ、みたいな感じに話し掛けられたが、無視!

僕は何も答えず、速歩きで観戦帰りの群集の中に紛れる。

この世界の人間では、前世の同人誌即売会で鍛えた僕の雑踏内逃走術に付いて来れまい。

案の定、名も知らぬ彼の声はやがて聞こなくなっていた。

それでも念のため、僕は遠回りしてセーム様の王都邸に帰った。

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