表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

06-閑話3_借用書

「──というわけで、この町を離れることになりました。つきましては、僕の持っている特許権をこの孤児院に移行したいと考えています。」

ここはお馴染みの孤児院の院長さんの自室だ。

セーム様の元へ行くことが決定した翌日早朝、僕は孤児院を訪れていた。

「そんな、こちらはこれ以上、何かを戴くいただくわけにはまいりません。」

「子供たちの為でも、ですか?僕が権利の半分を持っていなくとも、もうこの孤児院に手出しをする輩は居ないでしょう?」

「確かに、冒険者ギルドの方達と交流もさせていただいておりますし、こちらに不逞を働こうとする者は現れないかもしれません。」

僕は静かに頷く。

「ですが、子供達には今まで十二分に手を差し伸べていただきました。これ以上支援いただくのは、清貧の教えに反するのではないか、と思っております。」

ああ、やっぱり。

この院長さん、お金を稼ぐ話にはかなり積極的な方だ。

しかし、今この部屋を見回しても、物はほとんど無い。

自分がお金を使うこと、にはあまり興味が無いのだろうね。

「…分かりました。なんとなく、そう仰る気もしていました。なので、こちらも用意させていただきました。」

「こちら?…これは。」

「借用書です。売り上げのうち、僕の取り分を「預かってもらう」事になりますので、その見返りに「預かってもらっている」お金については無利子・無期限・無担保でお貸しします、という内容になってます。」

「え…?」

「また、仮に僕の死後に家族がこの借用書を以て「返せ!」と乗り込んできた際、その場にお金が無い場合は、この町の商業ギルドの認める「妥当な返済計画」に則り返済する、取り決めとなっていることも書いています。」

最悪、家族がこの町の商業ギルドを取り込んで、「別名義から借金をしてでも即金で返却するのが妥当」なんて言って来る場合も考えられる。

ただ、僕が貸す相手は院長で、子供達は含まない。

もしも、そんな追い詰められ方をした場合は、別の町の商業ギルドに、子供達がその話を持って行けば良い。

孤児院に対して無茶な返済計画を迫ることを「妥当」とするこの町の商業ギルドのことを、他の町の商業ギルドはどう思うだろうか?

そんな非情な判断を下す商業ギルドを「信用」出来るだろうか?

商人にとって最も重要な要素の一つである「信用」を失って、まともな取引など続けて行けるだろうか?

それよりもっと前に、そもそも冒険者ギルドを始めとする町の面々が、そんな理不尽な判断をする商業ギルドとその後も良い関係を築けるだろうか?

──とまぁ、「預け金」を返してもらうだけなのに、なかなかハードルの高い仕様にしておきました。

「どうして、こんな…。」

「正直、僕は預かってもらったお金を取りに来る気は無いんです。でも、院長は「預かる」と仰る。ならせめて、困った時に一時的にでも「預かったお金」を使ってもらいたい。躊躇も罪悪感を抱くこともして欲しく無いんです。」

いずれ親が犯罪者として裁かれるのが分かっている僕が、ここに来る事はもう無いだろう。

「どうして、ここまでして下さるのですか?」

まぁ、まだそんな事言えないし、高感度調整しとくか。

「投資です。」

「とうし…?」

「この院の子達も、いずれ…僕と同じ頃に成人します。今から恩を売って、顔を広げ、勉強もさせておけば、将来、有能な部下や手駒が、安価で雇えるようになるでしょう。…それだけですよ。」

実際、僕が彼らを使う事は無かろう点を除けば、それは本心だった。

自分としては、打算的な自分を包み隠さず表現したつもりだったが、院長さんの表情は変わらない。

人の事を手駒と表現する僕を咎めるでも無く、穏やかな表情でじっと僕の目を見詰める。

「…あとは、僕も彼らと同じだから、ですかね。」

実母は亡くなり、父親と思える人も居ない、なんなら実の父親も近く重い処分が下されるかも知れない。

「同じ、ですか?」

そうなれば、継母のミーナは実家に帰る事になるだろう。

その際、僕を息子だと連れて行こうとはしないだろう。

心情的にも、出戻りとしての立場的にも。

斯くして僕は、頼れる親の無い孤児となるわけだ。

「同じようなものです。それなのに、僕だけ楽な暮らしが出来てる事に罪悪感がありました。」

「立派なご両親がいらっしゃるのに、なぜそんな…。」

「母上は僕を疎ましく思っている継母で、父親はもうすぐ居なくなるヒトなので。」

「えっ?!」

おっと、言い過ぎた。

まぁ、いいか。

「なので、もうすぐ孤児になる僕は彼らに親近感を感じているのです。いろいろしてしまうのは、そのせいですね。」

「…。」

院長さんは黙っている。

僕の言った意図が判りかねるのかも知れない。

けど、あれこれ突っ込まれても答える気はないし。

「では、借用書は置いて行きます。あとは、よしなにお願いします。」

そう言って、僕は席を立った。


自分なりに考え、借用書なんて置いてきたものの、今後、僕の予想に無い事もきっと起きるのだろう。

神ならざる人の身で、未来に起きるあらゆる事に備えるなんて不可能だ。

僕なりに出来る事はしたつもりだ。

後のことは、未来の彼らに任せ、僕は孤児院を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ