魔法使いうさみと異世界を繋ぐ魔法の手紙 第二弾
「大変よ大変よ! 大変よミミリ〜!」
ここは、人と人とが行き交う街、アザレア。
私は見習い錬金術士のミミリ。横に並んで歩くのは見習い冒険者のゼラくん。
私たちは、アップルパイを食べたくなったので、街にりんごを買いに来ていたところ。
あっちから走ってくるのは、私のぬいぐるみのうさみ。さっき、一緒に買い物に行こうって誘ったんだけど、
「今日はお出かけの気分じゃないわ〜ん」
と言って錬成工房でお留守番していたの。だけど何かあったのか、小さい足でトコトコ走ってきた。
「どっ、どうしたの? うさみ」
「大丈夫かっ? 誰か来たのか?」
私の隣を並んで歩くゼラくんも驚いて言う。
そしてうさみを抱き上げるべく、ゼラくんが両手を広げると……うさみはゼラくんの顔に足蹴をして、私の胸に飛び込んできた。
「うさみコノヤロー。……。まぁ、いつものことだからいいけどさ……綿がぽふっとしてるし」
「ちょっとうさみ、ゼラくん蹴っちゃダメでしょ? それで、どうしたの?」
「あら、うさみちゃんだわ」
「にんじんあげようか?」
すっかりこの街のマスコットキャラクターとなったうさみはアイドルのように笑顔を振り撒く。
「みんないつもありがと〜! でも大丈夫よん。今ちょっと急いでるの〜!」
「あら、残念」
「ごめんねー!」
「それで、何が大変なの? うさみ?」
うさみはゼラくんの肩に乗りながら言う。
「来たのよ、黄色い猫のヤツが」
「えっ、ライちゃんが⁉︎」
「そうなのよ。ドラゴンの郵便屋さんがね。ホラッ! もっと急いで! ゼランゲリオン!」
「はいはいわかったよ」
◇
私たちが工房へ戻ると、真っ黄色でふわふわな毛をした可愛らしい猫が、錬金釜の隣のダイニングテーブルに座って大欠伸をして待っていた。
「遅いじゃないか、小娘共。何をしておったのじゃ」
ちなみにこの猫ちゃん、もとは『雷竜』っていう雷属性の頂点に君臨するドラゴン様。だから、可愛い見た目に反して声はかなり渋いの。
先日、変化もなしにアザレアの門扉に降り立った時は、アザレアの街が大パニックになって、門番を勤めていた元ベテラン冒険者のガウラさんやバルディさんまで、もう死ぬのかも、って思ったんだって。
「ライちゃん、どうもありがとう。アルヒからのお手紙?」
「いや、今日は違うのう。『異世界』からの手紙じゃ。小腹が空いたな、と森を散策していたら、木のウロからおかしな気配を感じての。綿の。お主に手紙じゃ」
「わ、私宛だったの? ていうか雷竜、『綿の』じゃなくて、私は『うさみ』」
ライちゃんは、興味がなさそうに、また一つ大欠伸。そしてそのまま、くーくーと寝てしまった。
「ムキー!」
「まぁまぁ、怒ってないでお手紙見てみよう? うさみ」
「そうね」
『うさみちゃんへ
はじめまして 小鳥遊 詩雛、しーちゃんです。この手紙はソフィーちゃんと一緒に学園で書いています。学園長が招待してくれて遊びに来ました。学園の人はみんな優しくて、私には師匠が出来ました。今度来たら魔法を教えてもらいます。今日は実験に失敗しちゃったけど、次は成功させたいです。私もうさみちゃんに会いたかったな。次はうさみちゃんと三人で会えるといいな。うさみちゃんの世界のお話が聞きたいです。ソフィーちゃんが強くてかっこいいうさぎさんだって言ってました。会えたら私にも魔法を教えてください。師匠には素質あるって言われたので楽しみにしています。この手紙はソフィーちゃんにたのんで届けてもらいますね』
手紙はもう1通あった。
『うさみちゃん、元気に冒険続けていますか。今日はしーちゃんが遊びに来てくれました。とっても元気な女の子で、二人で学園を探検しました。実験室でどっかーん、と爆発したときはびっくりしたけれど、しーちゃんはとっても楽しそうでした。迷宮図書館でしーちゃんが迷子になって心配したけれど、無事に見つかってほっとしました。次はうさみちゃんと三人でお話し出来たらいいな。またお手紙書きますね。ソフィーより』
「はああああぁぁん。どうしようミミりん。嬉しいわ。おっお返事書かなきゃ」
「そうだね、うさみ。そうしよう」
私はそっとうさみを降ろして、紙とペン、色鉛筆を用意する。
「今回はお手紙に絵も添えるんでしょ?」
「エッ!」
うさみはゼラくんを睨みつけた。
「なぁにぃ、ゼラ。今の『エッ』は。まさか驚きの意味での『エ』と、私の芸術的な絵画の『絵』を掛け合わせてみたワケ? それって超寒いんですけどぉ」
「いや、そういう意味じゃなくて。ほ、ホラ、うさみの絵をぜひ見てみたいからさ、封をする前に俺も見たいな〜っていうか……なんていうか……」
「ヤダー! そうならそうと言いなさいよッ。このコシヌカシッ」
「はいはい。……はぁ〜」
疲れ切ったゼラくんに、私は温かいミンティーを淹れてあげた。
「はい、どうぞ、ゼラくん」
「ありがとう、ミミリ」
そんな私たち2人のことは意に介さず、うさみはせっせと、執筆を始めた。
『ソフィーちゃん、しーちゃんへ
お手紙ありがとう。とっても嬉しいわ。
そっちの世界でも、魔法が使えるのね?
私の世界では、魔法を使える人はほとんどいないのよ。……そうねぇ、私と、もう1人の存在しか知らないわ。
私もぜひ、そちらの世界に遊びに行きたいわ。
ミミリがね、『制服』っていうのを作ってくれたのよ。もし遊びに行けたら、女子トーク、しましょうね。
……あっ、でもうちにはゼラっていう男の子もいるの。仕方ないから仲間に入れてあげてね。ちゃんと躾けて行くから。
じゃあまたね。また、お手紙書くわ。
ミミリのうさぎのぬいぐるみ、うさみより』
「ゼラ、私絵も描いたんだけど、どうかしら?」
「……んーと。…………………………………………」
ゼラくんは絶句した。
うーん。私もちょっと考え中。
どうやったらうさみを傷つけずに教えてあげられるんだろう、と。うさみは自分の絵に絶対的な自信を持っているから。
「まず、お手紙はとてもよく書けてるよ。なぜだか俺がペットみたいな扱いになってるけどそれはいいとして。問題は……ソコじゃなくて。肝心なのは、絵だな」
ゼラくんはうーんと唸る。
「なぁに、ゼラ? あまりの出来に言葉失っちゃった系?」
「そうだ、うさみ、俺の目を見てくれ」
「ゼラの目? 紅い瞳が綺麗だわ」
「俺の目、何個ある?」
「2つよ」
「じゃあうさみの絵を見てみよう。ソフィーちゃんとしーちゃん、目が何個ある?」
うさみは口元に両手を当ててビックリする。
「大変だわ! 1つしかないわ」
「もつ1つ書き足してあげたら、もっと素敵な絵になるかもしれないな?」
「盲点だったわ。なかなかやるじゃない、ゼラ」
「まぁな」
ゼラくんは、ふーっとため息を吐く。
「ゼラくん、どうぞ」
「ありがとう」
私はゼラくんに、2杯目のミンティーをそっと差し出した。
「ありがとう、ゼラくん。優しく教えてくれて」
ライちゃんも起きてきた。そして背中をぐいーっと伸ばして大きく欠伸する。
「大変なんじゃな、小童も」
「まぁな」
「できたわ! 雷竜、あとはよろしくね」
「任せておけい。……して小娘、例の……」
私は【マジックバッグ】の中から、【雷様の思し飯】をライちゃんに渡した。
「おおおお、これじゃこれじゃー。たまらんのう」
「そろそろライちゃん来るかなーと思って、たくさん作ってこの袋に入れておいたから、たくさん食べてね」
「さすが小娘じゃー」
工房から噴水広場に出たライちゃんは、変身を解いた。
「グオオオオオオオオオオオ」
噴水広場から、街中に響き渡るドラゴンの咆哮。
輝く黄金色の鱗に、逞しい手脚。手脚の先には、漆黒の鋭い鉤爪。長い尻尾も鱗で覆われ、部分的に鱗を逆立たせている。
なんだ、どうした、と冒険者ギルドから人が出てくる。その度に皆、腰を抜かしてしまっていた。
「騒がしくなってきたから、ワシはもう行く。じゃあの、返信を楽しみに待っておれ」
「よろしくね、雷竜!」
こうして、うさみの2度目の文通は幕を閉じた。
ゼラくんが身を挺してアシストしてくれたから、絵もとっても良くなったの。
ゼラくんのおかげとは気付かないうさみは、画伯気取りでとても可愛くて。
「今度はどんな絵を描こうかしらん。工房で絵の販売をそろそろする頃合いかもねん」
「いやっ、それはまだ早いようさみ。買いたい人が殺到して喧嘩になってしまうだろ? だからもう少し、時期をみたほうがいい」
うさみは満足気にしっぽをふるふる震わせる。
「ゼラもたまにはいいこと言うじゃなーい」
ーーこういうところが、可愛いの。
「ふふ」 「ははは」
ゼラくんと私は顔を合わせて微笑み合った。
夕焼け空に舞う、金色のライちゃん。
ライちゃんの身体に夕陽が反射して、街中を眩く照らす。
私はライちゃんが大空を飛ぶ姿を見て祈った。
「いつか本当に、ソフィーちゃんたちに会えますように……」
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うさみち