2023/10/6_23:09:56
「注射器を最後に見たのはいつだ?」
鳥かごの本部に向かう車の中。家で起きたことを告げると広臣はおととい帰った後の行動を詳しく聞いてきた。
「今日の朝、家を出る前には紙袋は机にあったはず。」
「なら犯行に及んだのは学校に行ってる間か。しかしなんで今なんだ?話を聞く限り昨日、病院に行ってる間も狙えたはず。」
「今日襲ってきた人の仲間ってことは?仲間がやられて薬だけでも回収しようとしたんじゃない?」
「さっきは説明してなかったが薬は誰でも必ず成功するわけじゃない。低くない失敗のリスクがある。政府連中からしたら作るのに金がかかるとはいえ、能力者のお前のほうが薬よりもはるかに重要なはずだ。なのに誘拐の実行役よりも回収を優先するとは考えにくい。」
広臣がそうして考え込んでいるうちに車はとうとう目的地に着いた。
ついた場所は周囲が緑に囲まれた自然豊かな病院だった。かなり大きな5階建ての病院で精神病患者のための巨大な庭園も併設されていた。広臣は車から降りると病院に僕を先導する。院内はまだ作られてから日が浅いのかとてもきれいでリゾートホテルのようだった。内装がかなり凝っていて学生は場違いじゃないかと感じたほどだったが、迷いなく進む広臣においてかれないようについていく。エレベーターで五階まで上がり、応接室のプレートが掛けられた部屋の前についた。広臣が目で行くぞとうながす。ぼくはうなずいて広臣に続いて部屋に入った。
応接室は仕事をするためのデスクと椅子、それと向かい合うように置かれた二つのソファ、その間にテーブル、壁にはテレビが設置されている。部屋の隅にはコーヒーメーカーやティーポット、茶菓子までおかれていた。上手側のソファにはすでに二人の男女が座っている。男性のほうは体格がかなりしっかりしていた。まるでラグビーやアメフト選手のような筋肉だが年齢は30後半から40前半ぐらいだろうか。ひょろひょろの僕とはあまりに対照的な体つきに思わずビビるがその声は予想よりもずっと優しげだった。