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逃げ込んだ先で  作者: アストレア
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”霧”を掃う者たち 第1話

 桜小春は本日も教師の話を聞き流し、思索にふけっていた。


(学校終わったらどう時間を潰そう…)

 

授業中、小春は基本的に教師の話を聞いていない。テスト前だけ集中的に全ての時間を勉強に費やし、そこそこの成績をキープしている。小春の通う皇国第三高校では定期テストにおいて、上位50名以内の点数の生徒の氏名が掲示板に掲示される。小春は毎回、この50名以内には必ずギリギリ収まるといった形になっている。

 定期テストのみに絞って勉強をしているため、毎回成績上位者に名前を連ねている。しかし、普段は全くといっていいいほど勉強はしていない。授業にすることは、考え事をする、教師にバレないように居眠りをする、定期テストの範囲を確認する、この3点のみだ。お陰で、普段の小テストや、抜き打ちテスト等の結果は散々なものだった。

 

(でも、高校って定期テストでいい点とっていればいいから楽でいいな。結果が良ければ先生も何も言わないし)

 

小学校、中学校では宿題や、提出物が多かった。授業態度が悪く、提出物もいい加減な小春は、教師からの受けが悪く、評価も散々だった。高校に入学後は、定期テストで結果も出せた。外見も、髪型はベリーショート、特別美少女といった顔立ちではないが、まあまあ整った顔立ちと言っていい。ブレザーの制服は特に着崩したりはせず、生活指導の教師に目を付けられない程度に短くしたスカート位しか手を入れていない。学業成績や悪目立ちしない外見は、周囲と余り深く関わらないための小春なりの努力の成果だった。

 

(無気力に過ごすために努力するって何かおかしい気もする…。就職したらどうしよう。学生と違ってテストだけ頑張ればいいってわけじゃないし…)


とにかく小春は、何かに追われるといった生活に苦痛を感じるタイプだった。定期テストに絞った勉強をするのは、補習で休日が潰されるのを防止するため。外見に関しても、舐められる、いじめの標的になるといったことを防ぐため、無理しない程度に気を使っている。

 こうした誰にも見えない努力の結果、小春は優等生といった印象を教師やクラスメイトに与えつつも、目立つこともなく、かといって周囲から軽く見られることなく、ゆったりと過ごせている。親友と呼べるようなクラスメイトはいないが、気軽に挨拶や世間話をできる相手はクラスに数名いる。本当は一人机でぼんやりと過ごしたい。しかし、クラスで孤立してしまうと、いじめの標的になったり、クラス内で微妙に居心地が悪くなるといったこともある。ゆったり、無気力に過ごすためには地道な努力が必要なのだ。


 (将来は、なるべく動きがない仕事がいいかなぁ。でも、授業中みたいにボーっとしてるとミス連発しそう…)


いつものように、授業を無視してただただ思索にふけっている内に、授業終了を示すチャイムが鳴った。現在は本日最後の6時間目の授業だ。

「よーし!今日の授業はここまで!各自、端末の“霧”の発生予定地の情報をしっかり確認して帰れよ!」

綺麗に着こなしたスーツがはち切れそうなほど筋肉質な数学教師の松田先生が、大声で生徒に注意を促した。彼の筋肉質な体系、浅黒い肌、角刈りの頭といった外見。これらの特徴から、初対面の生徒は皆、彼を体育教師だと判断する。しかし、彼は実際は数学教師である。彼の外見や大きな声に威圧感を感じる生徒もいる。しかし、小春は彼の一見暑苦しいようで、何でも事務的に淡々とこなす姿勢に好意を感じていた。


(松田先生って、必要以上に生徒に絡んでこないから楽でいいなぁ…。)


「こはるんっ!今日暇?」


小春の数少ない友人である菊田さんが声をかけてきた。


「ごめんっ!今日も家の手伝いで無理そう」

(本当は、ダラダラ家で過ごしたいだけなんだけど…)


小春はいつもの用に、菊田さんの誘いを断った。小春の家は古書店を経営している。一部の熱烈な古書マニアが一日の内に数名来店するのみなので、小春が手伝うほど仕事はない。両親のみで事足りる。菊田さんの誘いを断るための口実だ。ちなみに、毎回断るのも印象が悪くなりそうなので、断るのは3回に1回程度だ。


「そっかー。こはるんに取って貰いたいのあったのに。家のことならしかたないかっ!今日は自分で頑張ってみるよ!」


菊田さんは、無類のぬいぐるみ&フィギュア好きだ。クレーンゲームの景品を集めるのが趣味だが、残念ながら彼女は景品を取るのが苦手だった。小春は、ぬいぐるみや「フィギュアには特に興味がなかった。しかし、放課後菊田さんに付き合い、気まぐれで挑戦したところ、彼女が全財産を費やしても取れなかったフィギュアをあっさりと取ってしまった。後で、彼女に聞いた所、クレーンゲームは一定の金額を投入すればアームの強度が強くなり景品が取りやすくなるらしい。小春が挑戦した時は、たまたまアームが強くなるタイミングだったらしい。その後、何度か菊田さんに付き合い、クレーンゲームに挑戦することがあったが、何故か小春がコインを投入するタイミングでアームが強くなることが多かった。


「こはるんっ!何でそんなにいっつもタイミングあうの?もうこはるん全部とってよ!」

「狙ってやってるわけじゃないんだけど…」


 こんなことが続いたので、菊田さんは新作の景品が出る度に小春をゲームセンターに誘うようになった。


「じゃあ、また来週!バイバイ!こはるんっ!」

「またね。菊田さん」


 挨拶もそこそこに菊田さんは小走りで去っていく。


 (菊田さんって、何か同級生というより妹って感じだなぁ)


 菊田さんは、腰まで届くウェーブのかかったロングヘアー、身長はクラスで最も低い。顔立ち整っているが幼い印象を与える、制服も着崩すこともせず校則通りだ。この外見と、小春とは真逆の社交的な性格から、彼女は男女問わず人気が高い。

 

 (毎回誘いを断る時に少し罪悪感が…。まあ、菊田さんって友達多いし、私が付き合わな 

 なくても大丈夫かな)


 菊田さんに申し訳ないと思う気持ちはあるが、小春は基本的に特定の人物と深い関係を持つ事を好まない。とにかく、何もない日々を淡々と過ごしたいのだ。


(そういえば、今日の”霧”はどうなんだろう…)


 小春はスクールバックから個人用携帯端末を取り出した。皇国では小学校入学時から、生徒に皇国政府からの通達の受信、端末同士通信に使用する情報端末が支給される。タッチパネル式の端末で、液晶画面と通話用のマイク、スピーカーの付いた簡素な端末だ。かつてはこういった端末は、政府からの支給ではなく個人で購入し所有していたらしい。情報も通達のみでなく、自分で発信し、個人の発信した情報を自由に閲覧出来たらしい。


 (昔の端末だったら、無限に時間が潰せそうだなぁ…。”霧”は今日は大丈夫そう)


 自分の帰路に”霧”発生の兆候がないことを端末に送られた通達で確認すると、小春は教室を後にした。



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