第百三十六話 町名変更
山中幸盛が住んでいる地域の町名が、令和四年一月八日から変わった。「地方自治法第260条第1項の規定に基づき町名地番変更を実施しました」ということだ。
旧来の
【愛知県海部郡蟹江町大字須成字下惣作○○○○番地○】から、次のようにスマートになった。
【愛知県海部郡蟹江町桜○丁目○○番地】
この計画があることは、数年前に回覧板で知った。首を長くして待っていたところ、昨年の暮れに蟹江町役場から茶封筒が届き、中に、表面の宛名と宛先が空白のハガキ用紙で、差し出し人が蟹江郵便局になっている「①通信事務郵便〈依頼信〉」が五〇枚ほどと、「②通知書」と、「③町名地番変更に伴う手続きについて」が入っていた。
「①ハガキ」の裏面は次の文章だ。
住所(所在地)変更のお知らせ
令和4年1月8日(土)に町名地番変更が実施され、あなた様のお知り合いの方の住所(所在地)が下記のとおり変更になりますのでお知らせいたします。
令和4年1月8日(土)以降に郵便物をお出しの際は、必ず新住所(新所在地)をご記入ください。
あなた様の住所録をご訂正ください。
このお知らせは下記の方からのご依頼で案内させていただきました。
記
新住所(新所在地)
郵便番号 497―0038
海部郡蟹江町桜 丁目 番地
御氏名(貴社名)
「②通知書」には次の案内が付記されている。
*「町名地番変更証明書」は、実施日の令和4年1月8日以降に、16歳以上のかたを対象に5通お送りしますのでご利用ください。不足の場合は、蟹江町役場政策推進課にて無料で何通でも発行させていただきます。
皆様の各種変更手続きは、実施日以降になります。
「③町名地番変更に伴う手続きについて」によると、住所変更手続きが必要ないもの《役場など官公署が書き換えるもの》は、健康保険証や土地建物登記簿など僅かだから、銀行、電気、ガス、ケーブルテレビ、車のディーラー、保険会社、アマゾン、楽天、クレジットカード会社、携帯電話会社、日本ユニセフ協会、国境なき医師団日本、プラン・インターナショナル・ジャパン、国連UNHCR協会、冠婚葬祭互助会事務局、日本自動車連盟、中部ペンクラブ事務局等々、多くは自らの手でやらねばならない。
ハガキやネットや電話の他に「町名地番変更証明書」を封筒で企業年金連合会やカード会社に郵送し、税務署には確定申告書類と一緒にレターパックライトで提出した。
面倒なのは足を運ばねばならない銀行だった。ついでにマイナンバーを登録しようとしたら、これが銀行によって方針が異なる。ATMで「窓口でマイナンバー登録をお願いします」と表示されるH銀行とT銀行は住所変更のついでにやってくれたが、Y銀行、N銀行、M銀行は「まだやらなくて結構ですよ」という応対で、やってくれなかった。
驚いたのは、アマゾンのロイヤリティ入金のためだけに通帳を作ったM銀行の場合、予めスマホで訪問日時を予約(用件、携帯番号、メールアドレス等も記入)してから銀行に足を運ぶ方法が進んでいた。住所変更といっても町名が変わっただけだから行員が変更してくれて、二度行かずに済んだのだが、IT化が着実に進んでいるようだ。
町名が『桜』になった理由は、桜一丁目と桜三丁目の境界を川が流れていて、その土手に六十本ほど植えてあるサクラの木が春に爛漫と咲き誇り、名所となっているからだ。昨年は風に舞う花吹雪にも遭遇して感動した。
だがしかし、幸盛が小学六年生の時に植えられたものだから樹齢は五十年近くで、病害虫にやられたのか太い枝の途中からへし折れた個体が点在する。ソメイヨシノをウィキペディアで調べると「寿命」の項目に次のようにあった。
【一般的にソメイヨシノは植えてから20年から30年後に花付きの最盛期を迎え、その後は徐々に衰えていく傾向がある。21世紀に入り樹勢の衰えが目立つようになったため、戦後に大量に植えられた本種の寿命が到来しつつあると危惧されており、ソメイヨシノ60年寿命説が唱えられることもある。】
せっかく町名が『桜』になったのに、あと十年、二十年後に朽ち果てて、失笑されるのは忍びない。
幸盛は四月から町内会の組長をやらされるから、この町名をいつまでも誇れるように、毎年少しずつ若木に植え替えることを、もしかしたら提言するかもしれない。