冒険者。
「これが、冒険者カードかぁ。」
私は沢山の説明を受けた後に渡された冒険者カードをマジマジと見た。
鉄のプレートにはF級と書かれている。
この世界は全世界に根を張っている冒険者ギルドという組織がある。
世界は広く大小ある国の数は300を優に超える。
そのどの国の傘下にも入っていない独立組織の一つだ。
他にも商業ギルドや盗賊ギルドに魔術ギルドに傭兵ギルド等、沢山の独立組織がある。
その独立組織の一つである冒険者ギルドに所属すると一定の身分が保証される。
ギルドカードが身分証となるのだ。
冒険者はランク分けされていて、初級者の中の初級者である私は最低ランクのF級からスタートする事になった。
最大はZ級と呼ばれるランクだが、そのランクに到達した存在は居ないそうだ。
公式にはなので、人間がやる事だから本当かは分からないけど。
ちなみに、Z級は神に並ぶ実力者と認められた存在だそうだ。
普通に考えるとZ級の神に並ぶ実力者とかはあり得ないよね。
「ふふふ。」
「なんで笑うの?」
「しみじみって感じで見ているから。」
「だってさ。私が凛ちゃんと同じA級になるにはどれだけ時間が掛かるんだろうって思って。」
「どうかな?50年ぐらい?」
「そっかぁ50年か~、婆ちゃんにって、こらこら。」
「ははは。ごめん。でも実際には難しいかも。」
「だよね~。」
玲ちゃんが昨日寝る前に話してくれた内容の中に、玲ちゃんがどうやってここに来たのかという話が聞けた。
玲ちゃんは勇者召喚に巻き込まれたらしい。
いや、小説かよ?!って、ツッコミたかったけど、眼がマジだった。
そこからの話は、物語を聞いているような気分になった。
世界が魔王の恐怖に晒されているから助けて欲しい。
突然召喚された異世界で、そんな事を頼まれて『はいそうですか。頑張ります!』とは普通ならない。
どんなにラノベやアニメなどの異世界に憧れがあったとしても、現実にその場面に出くわしたら動揺するし恐れる。
玲ちゃんも驚き恐れた。
だが、周りの人達の献身によって自分に出来る事ならと引き受けた。
玲ちゃんは同時に召喚された6人の仲間と魔王討伐の旅に出た。
玲ちゃんは一人では無かったのだ。
それぞれが得意な分野が有り、協力して沢山の難問をクリアした。
玲ちゃんの得意分野は魔法だった。
数年後、異世界を旅してまわり、沢山の出会いと別れを得てようやく魔王討伐の目途が立った。
意気揚々と魔王城に乗り込んだ私達勇者は苦労しながらも何とか魔王城に到達した。
魔王城に入ってからも激戦は続いた。
少しずつ、少しずつ削られていく体力と精神力に魔力まで徐々に減っていく。
苦しく長い戦いは続いたが、それでも魔王を討伐する事に成功した。
そして召喚した国へと戻り祝いの祭りとなった。
その祭りの場に神が現れた。
その神の力によって勇者達は地球へと帰還が叶った。
玲ちゃんは地球へと帰還したのだが、そこには親友がいなかった。
いなくなっていたのだ。
それを知った玲ちゃんは神様に無理を言ってその親友の元へと送って貰ったらしい。
その親友というのが私だ。
しかし、その私を直ぐに見つける事が出来た訳では無かった。
無理矢理に神様の力に頼った異世界転移だった為に、時空の神様や他の神様から妨害を受けたらしく、私の所に直ぐに来る事が出来なかったそうだ。
時間軸の違いなのか場所の違いなのか、私の所ではない場所へと転移してしまったそうだ。
だから私は一人で異世界にポンと捨てられたかのような境遇になっていたという。
どちらにしても異界の神様の力による転移で玲ちゃんはこの世界へやってきて生活をしていたという訳だ。
こんなに思って貰えて嬉しいのだけど、現実味がない話にも思えた。
玲ちゃんとの記憶が私に無いからだ。
ただ死にそうなのを助けられたという恩と、不思議と知っている人だという認識はあるけれど。
こういう経緯を得て玲ちゃんは今私の前に居るのだ。
A級である事も納得できると思う。
でも私は異世界に来ただけで、特に加護を得た訳でも能力を付与された訳でもない。
ただの少女だ。
帰れる保証がないけど、生きていれば来れたんだから帰れる手段があるのではないか?
帰りたいか帰りたくないかは別として地球への帰還方法を探す。
その為にも、この異世界で生き残る事が重要で、生き残る為には強くなる必要がある。
そういう結論に至った訳だ。
「けど、神様も融通が利かないよね~。」
「うん。ごめん。」
「なんで玲ちゃんが謝るの?」
「だって、無理を言って来ちゃったから、帰還方法がない訳で・・・。」
「もう。昨日も言ったじゃん。玲ちゃんの所為じゃないって。神様が無能なだけだよ。」
「うん。だけど神様を無能と呼ぶとか、凛ちゃんだけだろうね。」
「?そうかな?」
「そうだよ。普通怖くて言わないよ?」
「あっ?!そうだった!」
死後の世界やこの異世界では神様の力が様々な場面でおよぶ。
「ふふふ。まぁ、凛ちゃんらしいけど。」
「えっ?私ってどう見られてるの?!ねぇ玲ちゃん答えて?ね?」
玲ちゃんはただ笑うだけで、何も言ってくれない。
「さぁ、訓練かねての仕事に行こ。」
「えっ?早速ですか?」
「もちろん!先ずは凛ちゃんを一定値まで強くしないとね。」
「今日は街の散策にしません?」
「却下です。」
「え~。」
玲ちゃんは厳しいね。
少なくとも神様は全知全能では無いという事は分かった。
私達は常駐依頼の紙をもぎ取って、受付カウンターへと向かった。
次回更新は
2021年10月10日12:00
よろしくお願いします。