食べ歩き。
「ほぉ~。女冒険者か。」
ニマニマしたイヤらしい視線を向けてくる門番に対しても一歩も引く様子を見せない玲ちゃんは、“慣れ”を感じさせる。
「はい。今は旅路の途中で寄らせて頂きました。」
「ふ~ん。まぁ良かろう。」
イヤらしい視線を向ける門番の一人が手を差し出します。
「お納めください。」
玲ちゃんはその手に巾着のような小さい袋を乗せる。
乗せられた門番はサッと中身を空けて目を通すと、直ぐに顔を上げた。
「いいだろう。通れ。」
「ありがとうございます。」
「ただし、あまり我らの手を煩わせるなよ。」
「わかっております。」
玲ちゃんが私の手を握り、門番の横を抜けて街の中へと向かう。
横を通りすがりに見せたあの下品な笑顔に私は引きつった。
正直、もう少しで『きもっ!』と言いそうになったが、玲ちゃんが手を強く握ってくれたのでギリギリ我慢できた。
「もう少しの我慢。」
「わかった。」
小声のやり取りを玲ちゃんと交わした私は門を潜り抜けて街の中へと入った。
そして私の視界に入ってきたのは、賑わいを見せる街並みだった。
門から真っすぐに伸びる道は広く、石畳みがひかれていて整備された道路の様になっていた。
「すっご!」
「でしょ。」
中世ヨーロッパの様な街並みは人であふれていた。
整備された道路には馬車や荷馬車が走っており、この街は栄えているのだと無知な私でも理解できたほどだ。
「本当にラノベの様な街だね。魔法もあるしさ。」
「うん。」
夕方になっており薄暗くなっている街はちらほらと灯りがともされていく。
その光景は異世界ファンタジーを思わせる程に私には幻想的に見えた。
「お腹空かない?」
「えっと。はい。でも私は魔物の肉とか厳しいかも?」
「食べたら美味しいよ。」
「本当かな~?うわぁ、良い匂い!」
私の懐疑的な気持ちは美味しそうな匂いに一瞬にして解凍されてしまった。
「ふふふ。じゃあ食べ歩きしよっか?」
「食べ歩き?!所謂食べながら歩く。買い食いですか?!」
「そうそう。それ。でもなんで敬語?!」
「いやだって、食べ歩きですよ?その事は知っていても私は経験ありませんよ。」
「そっか。そうだよね。私はもう慣れっちゃった。」
「なんですと?!という事は食べ歩きの上位ランカー?!」
「なにそれ?!もう凛ちゃんは面白いなぁ~。そんな事より早く行こ!」
玲ちゃんに、ぐいぐいと引っ張られて美味しい匂いの元である近くの屋台の前に連れて来られた。
「オジサン。二本ずつください。」
「はいよ。」
屋台のオジサンが手際よく串焼きを四本選んで紙袋に二本ずつ入れてくれた。
玲ちゃんがお金を渡し、串焼きの入った袋を屋台のオジサンから受け取った。
「ありがとう。」
「まいど。」
オジサンがにこやかに見送ってくれた。
「はい。」
「ありがと。いただきます!」
食欲に負けた私は受け取った袋から串焼きを取り出し、口に入れた。
「うまっ!」
「うん。美味しい。」
塩と胡椒で軽く味付けられた謎肉の串焼きは旨味が口の中に広がり、ほのかに甘い肉汁が塩と胡椒によってしつこくない感じに仕上がっている。
「あった。凛ちゃん。こっちこっち。」
「玲ちゃん。ちょっと待って。」
串焼きの余韻に浸っていた私を玲ちゃんが覚醒させる。
玲ちゃんが居る場所は串焼きの屋台とは別だった。
「ここは?」
「簡単に言うと飲み物売っている場所。私と同じので良い?」
「うん。お願い。」
「お姉さん。スカッシュ二つ。」
「はいはい。」
後ろの箱の様な物は冷蔵庫かな?
そこから瓶を取り出した。
玲ちゃんは袋から木のコップを二つ取り出してカウンターに置いた。
トクトクトクという音を立ててコップに注がれる液体は薄い緑。
エメラルドグリーンを薄くした感じかな?あっメロンソーダを薄くした感じの色だね。
注ぎ終わったコップからはシュワシュワという音を立てている。
スカッシュって言っていたから炭酸飲料かな?
「はい。どうぞ。」
「ありがと。」
私は先ほどの串焼きとは違い、恐る恐る口にスカッシュを運んだ。
「うまっ!」
「やっぱ美味しい。」
「ありがとね。」
私達の感想を聞いてニコニコの飲み物屋のお姉さん。
「また来てね。サービスするから。」
と言って、ウインクしてくれた。
私達の感想を聞いてお客さんが並んだのも影響しているのかな?
でも、本当に美味しい。
味はメロンソーダではなく、レモンスカッシュに近いかな?
シークワーサーを炭酸ジュースに居た感じが一番しっくりくるね。
スッキリする味わいと炭酸によるスカット感は肉料理などの濃い味にぴったりだ。
右手に串焼き、左手にスカッシュというスタイルで屋台を巡る。
右手の串焼きが終わると、次はサンドイッチ。
柔らかいパンではないけど、野菜と果物とお肉のバランスの取れたサンドイッチも絶品だ。
ソース?たれ?味が美味過ぎる。
私達はその後もデザート等を買い食いして回った。
宿は?という思いが無かった訳では無いけど、あまりにも興奮しすぎて“まぁ、いいっか。”ってなっていた。
「「ふぅ。美味しかった。」」
「ふふふ。」
「あははは。」
私達は満足して笑い合った。
「美味しかったね。」
「うん。美味しかった。それに面白かった。」
「うん。面白かった。」
一辺倒な感想しか言えない私達は同じ言葉を繰り返した。
けど、それが本心だし心の底からそう思った言葉だ。
「じゃあ、宿に向かおう。」
「えっと、知っているの?」
「ううん。教えてもらったの。」
「そっか。」
私達はコップの残りを飲み干して手を繋いで露店通りを抜けた。
街の中心部に向かって進んでいった。
次回更新は
2021年10月7日12:00
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