オニギリ。
『もう、大丈夫よ。』
懐かしい声が聞えた気がした。
「えっ?誰?」
あの声はあの子の声。
私は振り返る。
そこに、見えるはずのグリーン色の野人は見えなかった。
長い黒い布。
長い黒い髪。
そこには人が立っていた。
『ブレス・オブ・ファイア』
そこに立つ人が何かを言った瞬間、熱を感じた。とても高温の熱。
それと同時に青い炎が向こうへと流される。
『ギャギャ!!』
『ギエ!!』
『ギョ!』
グリーン色の野人の声?だろうか?聞えた。
クルリとその目の前の人がこちらに振り返った。
全身黒尽くしと出で立ちは、日本人では無いと思わされた。
肌も黒い。黒人?外人さんだろうか?
でも、顔は可愛らしい日本人の様な創りだ。
クリッと大きな瞳で二重瞼。唇はプルンと潤いがあり、肌はきめ細かい。
眉毛は細くすらっとしている。
それよりも、私はこの顔立ちを知っている!
絶対に知っていたハズだ。だけど、思い出せない。
「大丈夫?痛いよね。直ぐに治すね。」
彼女はそう言って、私の足に手をかざす。
『リバース・リゲイン』
ライトグリーンの幾何学模様が彼女の手元に浮かぶ。
そしてそこから暖かい風の様な者が吹き付けると、足に刺さっていたナイフが抜ける。
「つっ!」
傷口が徐々に無くなっていく。
そして綺麗になると痛みは無くなっていた。
「嘘?!」
私はこの現象に驚いていた。
「もう大丈夫。痛みは無くなった?」
「うん。ありがとう。」
優しい顔で私を見る彼女に感謝を述べると、彼女は私を強く抱きしめた。
「ようやく、見つけた。良かった。うぅぅぅわぁ~ん。」
そう言って泣き出してしまった。
私は狼狽し、ただ抱き止める事しか出来なかった。
ただ、不思議と涙が頬を伝う。もらい泣きなのだろうか?
二人が泣き止むまで少し時間を要した。
私達が鳴くのを止めたのは奴だった。
「「グ~。」」
二人の言葉では無い。
二人の腹の虫が鳴いているだけだ。私達の意志では無い。断じて!!
「ふふふ。」
「あははは。」
二人同時に鳴った事で、何かおかしく思えて私は笑ったのだけど、彼女も同じだったみたいだ。恥ずかしいよりオカシイという感情に支配される私達。
「あっ、オニギリがあるんだった。一緒に食べる?」
「オニギリがあるの?」
「うん。」
リュックから取り出したるは、・・・潰れたオニギリだった。
「そ、そんな!」
私がガックリと肩を落とす。
横を見ると、彼女も同じ様に肩を落としていた。
「期待したのに・・・。」
「ごめん。逃げている間に潰れちゃったみたい。」
「仕方ないよ・・・あっそうだ。ちょっと貸して。」
彼女にオニギリを渡す。
『フォーム・リゲイン』
彼女の手に渡ったオニギリの下に幾何学模様が現れて、オニギリをスキャンするように通ると、オニギリが元の形に戻った。
「なにそれ?!」
「魔法。」
「はぁ~?魔法?!」
「そう魔法。私は魔法が使える。」
うむむ。
どう答えたら良いのか分からず、黙っていると、彼女はパクリとオニギリを口に入れてしまった。こっちは悩んでいるというのに。ソーセージマヨはあっという間になくなってしまった。
「私のも治して。」
「良いよ。」
ニコッとして彼女はオニギリを受け取ると先ほどと同じ様に『フォーム・リゲイン』と唱えて治してくれた。
「はい。」
「ありがとう。」
彼女からトリカラマヨ味のオニギリを受け取ると、パクリと口に入れた。
何という事でしょう。
鶏のから揚げは柔らかくジューシ―。口の中に広がる香ばしさ。
そしてマヨネーズがソフトに味を包み際立てさせる。そこにピリッとした辛さのアクセントがたまらない!
おっと、上品に食べあげました。
決してムシャムシャとお行儀悪く食べていません。
少しだけども、お腹を満たした私達。
ここでようやく切り出せた。
「お名前を聞いても良い?」
「あっ。・・・覚えてないの?」
「やっぱり知り合い?」
「うん。」
「ごめん。私、記憶が曖昧なの。人の名前と顔がどうしても思い出せないの。」
「・・・。」
彼女はとても悲しそうな、つらそうな顔になった。
それを見た私の胸も苦しくなった。
「私は、玲奈。皆からは玲ちゃんと呼ばれる。」
「玲奈さん。助けてくれてありがとう。」
「うん。自分の名前は覚えている?」
「ううん。覚えてないの。」
「そう。貴女の名前は凛。凛ちゃんと呼ばれていたわ。」
「そっかぁ。凛かぁ~。」
私にはしっくりこない気がしたが、記憶が無いのだから、当たり前だと思う。
それに、名前が分かっただけでも嬉しい。
「凛ちゃんって呼んでも良いかな?」
「えっ?良いよ。」
「本当?ありがとう。私の事は玲って呼んでね。」
「うん。分かった。」
私達は微笑み合う。
やっぱり名前って良いね。大切だ。
「ちょっと待ってて。」
玲ちゃんはそう言うと先ほどの炎により焦げた場所へと向かう。
何かを拾っている様だ。
「そう言えば、玲ちゃん。さっきのも魔法?」
「うん。そうだよ。」
「日本に魔法使いが居るなんて知らなかったよ~。」
「・・・ここは日本じゃないわ。」
「えっ?」
「日本でもないし、ましてや地球の他の国でもないの。」
「えっと、よくわからないんだけど、何の冗談?」
「冗談じゃないよ。ここは異世界だよ。」
「なんだ、異世界かぁ~。異世界?!」
「そう、ここは魔法がある世界。地球から見たら異世界なのよ。」
ディープインパクト!
私は頭が痛くなってきた。
次回更新は
2021年10月4日12:00
よろしくお願いします。