思い出す私。
予定通り更新。
「助かったよ。君が居なかったら危なかった。」
「えっ?いえ。こちらこそありがとうございました。勉強になりました。」
差し出された右手を掴み握手した。
まさかの感謝の言葉に驚いたが反射的に握手をしていた。
よこからハイホーさんが顔を出した。
「本当に助かった。君の魔法の威力は凄いね。」
「そうですか?ビッセルさんには負けますよ。」
ジャックさんも横に来た。
「あの、スラッシュ系の魔法剣は俺にも出来るかな?」
「ジャックさんは双剣で魔法剣を発動させるんですか?」
「難しいかな?」
「いえ。出来るのではないですか?まぁ魔力量や魔法適正も必要かもしれませんけど、適正は絶対ではないですし、そのうちスキルも憶えるかも知れませんし。」
「おぉ。そうだな。やってみるか!」
ビッセルさんもそっと横に来た。
「君の魔法は格別だな。」
「いえいえ。それより最後の魔法、私に教えてくれませんか?」
「いや、難しいモノではないよ。」
「ちょっと。ちょっと。むさ苦しい男どもが清らかな女子にあんまり絡まない!」
「だがよ。」
「凛ちゃんはこっちこっち。」
「えっ?ポーラさん?」
「へへへ。ごめんね。ウチの男どもが。でも本当に助かったわ。さすが“獄炎と氷結の魔女”様の親友ね。凄かったわ。」
「ありがとうございます。」
「ほら。アーチもこっちにおいで。」
「う、うん。その、さっきは本当にごめんなさい。羨ましくて。」
悪意ある文句を言ってきたアーチさんも本気で謝罪してくれている様子だ。
「大丈夫です。謝罪は受け取りました。」
「ほ、本当?良かった。」
安心したのか、アーチさんの顔から険がとれた。
「これから先で縁があったらよろしくね。」
「ええ。よろしくお願いします。」
一緒に戦った事で、お互いに認め合う事が出来た。
そんな感じだろうか。
「ふふふ。良かったわね。」
「うん。これも全部、玲ちゃんのおかげだよ。」
「そんな事ないよ。凛ちゃんが頑張った結果の一つだよ。」
『そうですぞ。凛殿が頑張った結果です。』
「わかった。ありがとう。」
日々の努力が実ったのだと感じた。
やった事に対する結果が出たのだと思ったら、何かが私の中に出てきた。
=====
私の眼の前には男の人が居る。
その人は私の頭を撫でると、私の目線の高さまに自分の目線を合わせて、私を見て言った。
『凛。いいかい。何事もした事の結果は出てくるもんなんだぞ。それは良い事も悪い事も必ず何かしらの結果が出るもんなんだ。今は分からなくてもよく覚えておけよ。』
小さい私には意味が分からなかった。
今も分かったとは言い難い。
けど、一つの結果が出た。
今回の結果は私にとって良い結果だ。
『パパ。凛にそんな難しい事を言ってもわからないわよ。』
『ママ。そんな事はないさ。なぁ?凛。』
『うん。』
そうか、この優しそうな人達は私のパパとママなのか。
=====
「凛ちゃん大丈夫?」
「えっ?うん。大丈夫・・・じゃない。」
「どうしたの?」
「私、パパとママを思い出した。どんな人だったかも。」
「本当?!」
「うん。」
「だから、泣きそうな顔なのね?」
「えっ?私は泣きそうな顔になっている?」
「ええ。」
私は自分の顔をまさぐった。
泣きそうな顔になっているのか。
自覚が無かった。
「でも、良かったわ。思い出す事が出来て。」
「うん。良かった。」
自覚がないままに涙が溢れてくる。
目に涙が溢れ頬を伝った雫はそのまま地面へと落ちる。
「凛ちゃん。」
玲ちゃんが私を抱き締めた。
なぜ涙が出てくるのだろうか?
ただ、私のパパとママを思い出しただけだ。
でも、胸が締め付けられるような感覚を受ける。
そして、涙が溢れてくる。
「何でだろう?涙が止まらないよ。」
私は今の素直な気持ちを玲ちゃんに伝えた。
悲しみを感じていないのに溢れてくる涙と締め付けられる感覚。
理由が分からないと伝えると、玲ちゃんは私を優しい眼差しで見つめる。
「それはね。魂が泣いているのよ。大丈夫。凛ちゃんが忘れている事でも、凛ちゃんの魂が本物だから起きる現象よ。少しずつ色々と思い出したら、きっと分かる。そういう日が来るわ。」
「うん。」
玲ちゃんが言うのだから、そうなるのだろう。
私の頭が覚えていない記憶も、私の魂が覚えているという事なのだろう。
魂が覚えているのなら、少しずつ思い出すのだろう。
『主よ。何やらキナ臭い匂いがしてきましたぞ。』
サラちゃんが忠告をしてきた。
初めての事じゃないだろうか?
「そうね。これはマズいわね。皆さん。とにかくここから出ましょう。良くない事が起きそうな感じがします。」
「良くない事?」
「本当ですか?」
「ええ。だからここから早く動きましょう。」
玲ちゃんは、サラちゃんの忠告を受けて【黄龍の牙】のメンバーに場所移動を提案した。
「では、私達はこの転送装置で一度、帰ります。」
「そうですか。私達は次へ進みます。」
“獄炎と氷結の魔女”様である玲ちゃんの指示に従う様に皆が動き出した。
だが、一足遅かった。
『そんなに急がなくても良いのではないですか?』
私達の頭に直接届く声。
「間に合わなかったか。」
『ふふふ。間に合ってしまいましたねぇ。』
「誰?!」
私の背中に冷たい物が流れる。
手は汗によってびっしょりとなる。
『これはこれは。初めまして。』
「だから!うぐっ?!」
『パチン♪』と指が鳴る音と共に詰問していたアーチさんの声が塞がれる。
『はぁ。煩い虫ですね~。少し黙って貰いましょうね。おっと、うっかり人間的発言をしてしまいました。いけませんねぇ~。』
耳障りな声。
生理的に拒絶感を憶えるその声は不快で溜まらない。
一体、こいつは何者なのだろうか?
次回更新は
明日、2021年10月29日(金曜日)12時
よろしくお願いします。




