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 閑話:帝国の事情3 女王の騎士団

 ようやく解放されたドラメキアは、帝都から出発する飛空艇に乗り込もうと桟橋を早足で歩いていた。

 一刻も早く帰りたい。この帝都の目まぐるしさと言ったら無いのだ。

 普段住んでいる[城塞都市グランリヴァル]は、確かに帝都と比較すれば雲泥の差、ど田舎もど田舎である。

 だがこれもまた帝都と違い、建築物の高さ制限をしているため古くからある中心区画以外の建物は皆小さめであり、それは景観上の息苦しさの改善にもなっている。

 所詮は田舎者、と後ろ指さされていることを自覚しながらも、ドラメキアはそれを気にしないタイプの人間でもあった。

 即ち、『ワシの方がお前らよりも幸せだぞ』、という自負である。


 そんなドラメキアであったが、ふと飛空艇の入り口に数名の騎士らの姿を見つけ、う、と重くなりかけた胃を辺りを抑え独りごちた。


「[暁の盾]共か……」


 千年前、勇者たちを守護するための騎士団、その筆頭が[暁の盾]である。所属する全ての兵が勇者のために命を捧げ帰らぬ人となった、英雄譚の影の功労者であるが故に、今現在女王の私兵である彼らは独立部隊としての権限を持ち、法に縛られないという超法規的措置が取られている。

 かつては[盾]と同じ権限を持つ[暁の剣]と呼ばれる組織も存在したと歴史には記されているが、千年前の[竜戦争]が集結し、解体され、今の騎士団になったのだ。

 即ち、ドラメキア率いる正規の騎士団は、[盾]からは軽んじられ、見下される傾向にある。

 それこそ許しがたいことであり、本来ならば情報を共有し守りをより強固にすべきであると何度も主張したが、それが聞き入られたことは一度も無い。

 故に、テモベンテ家としても[盾]は目の上のたんこぶなのだ。

 いつも勝手に振る舞い、武器や食料を徴収し、そしてその後始末をするのはテモベンテ家なのだから。

 そして同時に、彼らがいるということは面倒事があるということでもある。

 しかしながら、千年前から腐敗もせずに戦い続けているのは彼らくらいだろう、というある種の敬意が無いわけでも無い。


 その団長である剣聖ティルフィング・ゲイルムンドの姿を見つけたドラメキアは、更に気持ちを重くさせ目眩までおこしかけてしまった。

 彼女がドラメキアの姿を確認すると、『早くこっちに来い』と言わんばかりの態度で顎をしゃくる。

 気づかないふりをして無視してやろうかという誘惑に負けず、ドラメキアは笑顔を取り繕って、


「これはこれはゲイルムンド卿。このような場所にいらしているとは。一度ご挨拶にと思っていたのです。娘同士はとても仲良くしてくださっているようで」


 と少しばかりの皮肉を言いながら近づいた。

 だが、彼女は表情を変えずに、


「公務である」


 と言ってから冷ややかな声で続けた。


「この飛空艇は我が[盾]が貸し切ることになった」


 言葉の意味がわからず、ドラメキアは、


「……はっ?」


 と素っ頓狂な声を上げる。

 だがゲイルムンドはそれ以上の説明をするつもりは無いようで、すぐに踵を返し、


「後のことは貴公らに任せる」


 とだけ飛空艇の中へと消えていった。


「はっ?……はっ?」


 すると、すぐに飛空艇への桟橋が降ろされ、


「第八便、[ガルーダ号]出ます! [ガルーダ]発進!」


 と発進を告げる声が響き、旅客船[ガルーダ]がしずしずと発進していく。

 呆然としていると、係員の者がやってきて言う。


「本日はあれが最後の便となります。申し訳ありませんが……」


 ドラメキアは言葉を失い、ただ呆然と佇むだけであった。



 ※



「やりすぎではないか?」


 貸し切った[ガルーダ]の一室で、窓から離れていく[帝都]の様子を見ていたフランギースが眉をひそめて言った。


 横暴なやり方だ。

 テモベンテの者が取り残されただけならともかく、他に数名の貴族たちも乗る予定だったはずだ。

 この[ガルーダ]は、テモベンテと他の武門の貴族たちが同乗し[城塞都市]に帰るはずのものだったのだ。

 一般国民に不利益が被らなかったのは幸いではあるが――。

 だが、それを行った当の本人が何食わぬ顔をして言う。


「テモベンテ卿はあれで有能な男です。代わりの便を用意させることくらいはできましょう」


 彼女、ティルフィングは代々続く剣聖の家系である。同時に女王の身辺警護を努めるという理由から、代々女性が当主を努めるという決まりがあるが――。

 彼女は表情を変えずに続ける。


「見せしめでもあります。……グランドリオの娘を殺そうとした者。あえて見過ごした輩の検討は既に。――人の良いテモベンテ卿は気づいていないようですが」


「……そうであっても、他にやりようは――」


「時間をかければ、あったでしょうね」


 ティルフィングがぴしゃりと言うと、フランギースはため息を付いて押し黙り、窓の外から景色を見る。

 まだまだ整備が行き届いていない大草原や村々が眼下に見え、人手と予算が足りていない現実をマジマジと見せつけられ、これではなんの気晴らしにもならないとソファーに腰を下ろし天井を見上げる。

 ただの客船である[ガルーダ]には当然綺羅びやかな装飾など無いが、網目のように顕になった木の板の屋根は、少しだがフランギースの好みであった。


「ねえ、ティル」


 ふと彼女を呼ぶと、ティルフィングは視線だけをじろと向け、フランギースの言葉を待つ。


「……私は、違うと思うよ」


 ティルフィングが怪訝な顔を向ける。フランギースは続けた。


「もっと裏で、動いてる者がいる気がする」


 すると、ティルフィングは苦笑する。


「気がする、ではな。フランの勘は当たらない」


「適当に言っているわけじゃあない。飛空艇航空を取り仕切ってる者の中に、グランドリオ暗殺を企む者がいるというのはわかっている。だけど、連中の目的はガジット家を祭り上げることじゃないと思うんだ」


 それは、予感と言っても良い。発言、行動、仕草、些細な点から感じる違和感を口にすれば、そうなったというだけのことでもある。

 だから、とフランギースは公の発言では無く昔からの友人として、ティルフィングに言った。


「グランドリオ家を途絶えさせた後、次はガジット家だ。私はそう思う」


 漠然とした予感であるが、ティルフィングは表情を変えず、言った。


「それをさせないために、我々がいる」


 それは、頼もしさを感じさせる声色である。彼女が意識してそう言ったのがよく分かる。

 それでも、フランギースは言わざるを得なかった。


「オリヴィア姉さんを守れなかったのに?」


 と。

 ティルフィングが息を呑むと、すぐにフランギースは後悔し言った。


「ごめん、言い過ぎた」


 やがて、ティルフィングの指が無言でフランギースの肩に触れる。

 もう四十年、友人をやっているのだ。

 二人の間ならば、それで十分だった。

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翻訳の魔導書を完成させた魔導師見習い。役立たずと言われ魔法学校と魔術師ギルドから追放されるもルーン文字を翻訳できることが判明し最強の付呪師となる
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