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第18話:出撃準備

 黒竜に[ハイドラ戦隊]から招集がかかった。

 どうやら此度の冒険者リジェットの件のようだ。

 既に、リジェットの噂はギルド内でも広まっていた。

 元々彼の捜索、救助だったはずの依頼が、やけに物々しくなり始めれば誰でも異変に気づく。

 そして、極めつけは黒竜の交友関係である。

 幾度となく彼の捜索の依頼を受けた巨人の冒険者ブロブは、今日も同じ内容のはずの依頼を受け、しかしギルド側から支給された武器や防具は明らかに質が向上していた。

 友人の出発の間際、黒竜は心配になって彼に声をかける。


「ブ、ブロブ君、大丈夫?」


 未だに銅級の黒竜に、依頼の参加資格は無い。その辺はまさしくお役所仕事であり、黒竜は少しばかり苛立った。

 ブロブはゆっくりと頷き、答える。


「[翼]の、友よ。巨人族は、戦士の、一族。散るのは、戦いの、中で」


「い、いやぁそれ余計に心配だよブロブ君……」


「……やはり、[翼]の、友よ。お前は、人、に、見える。不思議」


 そう言ってブロブは黒竜の翼に軽く手を触れてから、仲間と共に去っていった。

 黒竜は自分が参加できないことを歯がゆく思っていた。

 そこに飛び込んできたのが[ハイドラ戦隊]からの招集であるのだから、彼らの元に向かう黒竜の胸の内には確固たる思いがある。

 友人の身に危険が及ぶのなら、むざむざ指を加えて見ているつもりは無いのだ。


 やがて[ハイドラ戦隊]の宿舎に到着すると、彼らのメイドと思われる者たちが一斉に黒竜に取り付き、布で汚れを吹き、最後に香水をつけられ、ようやく騎士団と対面できた。

 既に騎士団の面々は揃っていたが、そこにいた総勢四十名もの大部隊の九割以上が、隊列など組まずにのほほんとおしゃべりに興じていたのには唖然としてしまった。


「え、大丈夫なのこれ」


 思わず小声で漏らすと、隊長のメリアドールがぎゅっと眉間にシワをよせ言った。


「う、キミ香水つけてんの?」


「……あれがメリアドール君の指示じゃないのは良くわかった」


「ああ、つけられたのか。キミも大変だね」


 ヒソヒソと話し声が聞こえる。


「あれが[古き翼の王]ですって」


「なんだか薄汚いですね」


「ふふ、聞こえるよ。でも思っていたよりも小さくて可愛いじゃない」


「ねえ見て、あれが姫様のドラゴン」


「素敵ぃ、おとぎ話の中のよう」


「ちゃんと綺麗にしてあるのかしら? お肌のケアとかしてなさそうだけど……」


「ねえ、今度パーティに連れて行ってみない?」


「皆様の驚く顔が目に浮かぶわね」


 黒竜は一層不安になってメリアドールに顔を近づけた。


「あの、これ本当に大丈夫? 私すっごい不安。もう無理って感じなんだけど」


「まあ、後方支援だから……」


「こ、後方って言ったって限度はあると思うのだけど」


「……ま、別に良いだろう」


 ふっと笑って言ったメリアドールの意図がわからず黒竜は困惑していると、彼女は隣にいたリディルに視線を送った。

 すぐにリディルが手を二回叩くと、そこにいた四十名余りの貴族令嬢たちが(三名ほど男もいたが)一斉に彼女に向き直った。

 リディルが言う。


「はーい、それじゃ皆さん聞いてくださーい。

 今回はいつもみたいに上空から一斉に魔法で爆撃するとか、

 後方から長距離魔法で炎の雨を降らせるとか、そういうやり方は通用しないと思いまーす」


 何を言っとるのだこの子は、と思わず黒竜はあんぐりと口をあけリディルの方を見る。

 というか普段からそんな戦い方を――?

 すると、一部の貴族たちがざわめきだった。


「え、ええっ。そんな、じゃあどうしたら良いの?」


「降りて戦えってこと!? や、やだ、怪我したらどうするの!」


「汗かきたくないのに……」


「剣だって汚れちゃう」


 黒竜は再びメリアドールに小声で言った。


「ねえほんと、マジで大丈夫? 私もうこれ既に駄目だと思うんだけど」


「そう? 案外良い子たちだよ?」


「良い子とかそういうんじゃなくてだね……」


「人は見下すけど無下には扱わないし」


「いやいや、だからね? これ下手したら逆に被害とか凄いことにならないかね?」


「それに気前が良い。多少の無礼を笑って許す度量がある」


「……ひょっとしてキミこの話題避けてるね?」


「…………ふ、賢しいドラゴンだこと」


 貴族たちが不満を言い始めたその時だった。


「上等ですわ」


 艷やかな金髪をくるくるとロールさせた、いわゆる金髪ロールのお嬢様然とした騎士が、不遜な態度で一歩前へ出、言う。


「このわたくしに相応しい舞台がやってきた。そういうことなのでしょう?

 リディル・ゲイルムンドさん?」


 やけに自身に満ちた表情の貴族騎士の後ろにいた彼女の友人と思わしき女性従騎士たちは、


「ちょ、ちょ、カルベローナ様駄目ですって!」


「無理ですぅ、アタシたち無理ですぅ!」


 と小声で彼女に詰め寄るが、カルベローナと呼ばれた騎士はふふんと鼻を鳴らして挑戦的な目つきでリディルを見、不遜な態度で指を差し、高らかに言う。


「このわたくし、カルベローナ・テモベンテが宣言いたしましょう。

 王位継承権第七位を持つメリアドール・ガジット。

 そして代々女王を守護する剣聖の家系であるリディル・ゲイルムンド。

 このわたくしのライバルとして相応しいお二方の前に、

 そのリゲインなる裏切り者の首を持ってきてさしあげますわ」


 すぐ後ろの彼女の従騎士が、小声で


「カルちゃん違う、リジェット……!」


「ど、どっちも同じようなものでしょう!? ともかく、このわたくしが見事、事態を解決して差し上げますわ」


 彼女が顔を真っ赤にして反論すると、それを見ようともせずにリディルが言った。


「んー、カルちゃんは戦力的にちょっと無理かなー」


「んな!? あ、貴女ね、このわたくしの実力を――」


「カルちゃんそういうのはせめてアタシに一太刀入れてからね? 後少し黙ってね? カルちゃんいつもうるさいから」


 酷い言い草であったが、言われたカルベローナは「ぐぎぎ」と悔しげにうめいただけだ。

 ふと、おずおずと挙手をした者がいた。

 リディルがちらとそちらを見、


「はい、ケルヴィン隊長君」


 と発言の許可を出す。

 生真面目そうな甘いマスクをしたケルヴィンと呼ばれた騎士は、数少ない男性騎士だ。

 彼の後ろには同年代の友人と、少しばかり彼らより幼い顔立ちの少年がいる。

 ケルヴィンが言う。


「ハ。白金級の冒険者、それも魔導に精通した実力者が相手ともなれば、飛竜を出せば良い的になるかと思われますが――」


「大丈夫。ケルヴィン隊長君たちはいつものようにずーっと後ろ、みんなの励まし役だから」


 お前たちは役立たず、暗にではなく堂々とそういう意図を含んだ言葉に、ケルヴィンは「ぐ」と一度言葉をつまらせる。

 だが、ケルヴィンはくじけること無く返した。


「じ、自分たちは、皆の平和を守る者であります!」


「うん、知ってる。でもせめてカルちゃんに勝ってから言ってね?」


「そ、それは――」


「ケルヴィン隊長君口だけでそんな強くないでしょ? 余り調子の良いこと適当に言ってるとアタシが痛い目合わしちゃうから、少し静かにしててね?」


 ケルヴィンがたまらずふらりとバランスを崩すと、後ろの友人二人がそれを支え、


「だから言ったじゃねえか……」


「やっぱ無茶ですよ先輩……」


 と彼を励ました。

 リディルが全員を見渡し、もう一度手をパシンと叩き言う。


「はーい、もう変なこと言う人はいませんか? ちゃんとした意見なら聞きまーす」


 すると、最後に一人の女声騎士が気だるげに挙手をした。


「はい、アリス隊長ちゃん」


「あ、あのぅ……、部隊を二つに分けるんですよね……?

 そ、そのぉ、指揮とか、て、敵が来たら私達ぃ……どうすれば……」


「あ、それは大丈夫。分けるって言っても、メリーちゃん、メスタちゃん、後そこの黒いドラゴンちゃんと雇った冒険者の子が別働隊として行くだけだから」


「え、じゃあ……!」


「うん、アタシはみんなと一緒にいるよ」


 すると、騎士たちの表情が一斉にぱあっと明るくなる。

 アリスが「ふぇー、良かったぁ」と脱力すると、同じ様の他の騎士たちもほっと胸をなでおろす。


「あ、ああよかった、リディルさんがご一緒なら安心です!」


「そうね、本当に良かった!」


「それなら安心ですね!」


「びっくりした、見捨てられたのかと思っちゃいました」


 途端に和やかになった彼らの様子を見て、黒竜はもう一度メリアドールに小声でぼそりと呟いた。


「……キミひょっとして結構苦労人だな?」


 メリアドールは「ふっ」と自嘲気味に笑っただけだった。

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翻訳の魔導書を完成させた魔導師見習い。役立たずと言われ魔法学校と魔術師ギルドから追放されるもルーン文字を翻訳できることが判明し最強の付呪師となる
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