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第116話:怨念


「いや参ったねどうも」


 執事を従えながら、ユベル・ボーンは闇夜の森を征く。

 二人で[古き翼の王]を狙撃したところまでは良い。

 実にうまく言っていた。

 邪魔者は排除できたし、剣聖の排除もできそうだった。

 だが、結果的にそうはならなかったのだ。

 執事が言う。


「我らの姿は見られています」


「……てきとーな奴見つけて、鎧着せるしか無いっか……はぁー。……油断、かねぇ? 見積もりが甘かった?――ほら、さっさといい感じの死体見つけてってば」


「顔を確認しております。あまり体制側に近い者だと、裏切りが偽装だと疑われます」


 そりゃ最もだ、とユベルはため息を付き、辺りを見渡した。

 ここはつい先程まで戦闘の中心だったのだ。

 死体は多い。

 下半身が無いもの、その逆のもの、人なのかすらわからないもの、どれもこれも酷い有様だ。


 ――ま、そうなってもらうように戦ったんだけど。


 とユベルは苦笑し、


「んー」


 と辺りを見渡し、言った。


「顔がわかって、ちゃーんと家に責任を取らせることができそうな感じで、できれば程よく無能な感じの死体は無いかな?」


 そして、くぁ、と大きなあくびをする。


「夜ふかしは体に良くないんだけどねぇ。僕、健康体だから」


「存じております」


 言いながらも、執事は死体の顔を一つ一つ確認していく。

 ユベルはもう一度大きなあくびをし、


「さっさと帰って――」


 ふと、見たことのある顔をした死体に気づく。

 あれは、確か……何だったか。

 考えることが多すぎるのと、やるべきことが多すぎるのとで少しばかり脳が働かないのは、睡眠不足も原因だろう。

 だが、ユベルは早く帰りたいな、という思いが優先され、その胴体にX字の傷をつけられた男の死体の腕を掴んだ。


「これで良いんじゃない? ほら、確か――どこだっけ、あーほら、無能一家の……」


 振り向いた執事の体が、バチンと稲妻で弾き飛ばされた。

 ハッとし戦闘態勢に入ろうとするも、ユベルの腕は何者かにがっしりと握られている。

 その腕の主――下半身を失い上半身だけとなった、死体だったはずの男が、想像を絶する力でユベルの腕を掴み上げた。


 咄嗟に、ユベルはその男目掛け〝雷槍〟を爆裂させた。

 弾ける稲妻と火花が折り混ざり、閃光となって爆発すると、ユベルは辛うじて腕を振り払うことができた。

 しかし、実力差が圧倒的なのだと理解し、己の油断を呪った。

 同時に、未だに現状の把握はできていない。

 大昔は――太古の時代は、死体に魔が宿り夜をさまよう悪鬼であったと記されている。

 ならば、それか――?


 しかし、とユベルは思う。

 獣には見えなかった。

 理性と知性があったように思えた。

 執事は伸びたままだ。

 死んだのか、気絶したのか。

 ともあれ、あの優秀な魔導師をたった一撃でこうもしてしまえる、死にかけの男。

 ユベルは賭けに出た。

 黒騎士という自由に使え、責任を被せられる使い捨ての手駒の次を欲していたというのもある。


「その者! 言葉がわかるのなら、僕の話を聞いてくれないか! 取引をしたい!」


 一瞬、男の動きが止まる。

 勝った、とユベルはほくそ笑んだ。

 ここで使い捨てられる程度の男ならば、ユベルのもっている富と名誉でも十分に釣れるのだ。

 [聖杖騎士団]が最たる例だ。

 金とは即ち、力である。

 そこに地位と名誉まで加われば、絆される者は必ずいる。

 [ハイエルフ]でさえも、その力には抗えなかったのだ。


「僕に仕えるんだ! 僕はいずれ、この世の全てを支配する! 全部、何もかも、僕だけが独占する! 僕だけのものとなる! ユベル・ボーンの名を聞けば、それが実現可能な未来だとわかるはずだ! キミが僕の騎士となるのなら――」


『――それは困る』


 男の声が、響き渡った。

 男が手を掲げると、ユベルの体は見えない何かに完全に拘束された。


「あ、が、ま、待て! 僕なら望みのものを、お前に――」


 男が声を荒げた。


『知識とは――良いか! 知識とは! 別け隔てなく広められるべきものだ! 新たな発見が! 概念が! 知識が! 常識になったその時、次の発見が生まれるのだ!』


「そ、その全てを僕は手に入れると――!」


『千年後の世界を想像できぬ愚か者には、消えてもらう!』


「待っ――」


『ユベル・ボーン! 〝ロブ・ディライン〟!』


 雷鳴とともにその[言葉]は鳴り響き、ユベルの全てはそこで終わった。

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翻訳の魔導書を完成させた魔導師見習い。役立たずと言われ魔法学校と魔術師ギルドから追放されるもルーン文字を翻訳できることが判明し最強の付呪師となる
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