第3-1話 凄腕交渉人、神殿へ観光に行きチートアイテムゲット
「次に行くハイロッシ地方ってどんなところなの?」
ロバ車の御者台で、足をぶらぶらさせながらミアが訪ねてくる。
俺たちはトーリ地方での仕事を終え、いくつか届いた勧誘先の中から次の目的地として”ハイロッシ地方”を選び、のんびりと移動していることろだ。
穏やかな春の日差しと風の香りが気持ちいい。
「そうだな……内海西部に広がる、たくさんの島がある地域……そして」
「神々が住まう場所だ」
*** ***
俺たちはハイロッシ地方の中心都市のクーレに到着すると、滞在先の高級ホテルを確保し、ダンジョンギルド支部に向かう。
ここクーレは王国海軍の拠点ともなっており、王国防衛と貿易のかなめ。
人口も多く、商人や軍人の姿が目立つ。
島々に囲まれた内海は天然の要害を構成しており、港を一望できる高台にダンジョンギルド・ハイロッシ支部はあった。
「わあぁぁ~! すごくきれい……ね、アレン! ここから見える全部がしょっぱい水なんでしょ?」
「ふふ……この辺りは島が多いから、あまり海って感じはしないな……コーチ地方まで行けばもっと大きな海が見れるぞ」
「ふええええ!? これより大きい海があるのっ? アレン! 今度一緒に行こうね!」
「ああ、仕事がひと段落したら必ず行こう!」
生まれて初めて海を見るのだろう……さっきからミアは、はしゃぎっぱなしだ。
そういえばミアはどこの出身なのだろうか? 獣人族ならシーガルかラーナか……今度聞いてみるか。
「ふふ、かわいい子ですね」
「だろう? 俺様自慢の養女だ……んで、俺に頼みたいことってなんだ?」
ハイロッシ支部の受付は妙齢の女性だ。
ふむ……悪くない……残念ながら人妻のようだが。
俺は、女遊びはしても他人の女性に手は出さないのだ。
(奥さんと子供に逃げられたくせに!)
「はい……ここハイロッシ地方には、南部のアトムダンジョン・北部のタイーシャダンジョンと2つのダンジョンがあるのですが」
「北部のタイーシャダンジョンの近くに、Aランクモンスターである”ビバゴーン”が出没してお客様に危害を加えており、困っているのです」
……うむ、またもや化け物退治の依頼……おかしいぞ、俺の職業はのんびり公務員である”宝箱設置人”ではなかったのか?
「……一つ聞きたいんだが」
「どうぞ」
「俺、アレン・サムナーは王国公認宝箱設置人として認可を受けているはずだ。 こういう”化け物退治”は、冒険者や”勇者”の仕事じゃねぇのか?」
俺のもっともな疑問に、ギルドの受付は変なことを言う人ですね、とでも言いたげな顔でこう応じる。
「確かに宝箱設置は重要な業務ではありますが。 ご存じないのですか?」
「公営ダンジョンの周囲にモンスターが出た場合は、ダンジョンギルドの管轄……冒険者たちへの依頼に使える予算は限られてますので……Aランクモンスターまでならギルドの構成員が退治するんです」
縦割り行政の弊害!!
俺は今更ながらに、宮仕えの公務員の恐ろしさをかみしめていた。
「当件、期限は設けませんので、しっかり準備をして挑んでください」
にこやかに微笑む受付に見送られながら、俺たちはギルド支部を後にするのだった。
*** ***
「……ねえアレン? すぐにタイーシャダンジョンに行くの?」
ギルド支部から続く下り道……潮風香る道を歩きながらミアが聞いてくる。
「まさか! せっかく”神々が住まう土地”、ハイロッシに来たんだ」
「まずは観光! 近くにあるシーマ神殿に行こう」
「海上に建てられた美しい建物……世界3大神殿の一つで、美味しいスイーツが名物だ!」
「!! やったー! 観光! 甘いもの大好き~!」
飛び跳ねるミアの手を引きながら、俺たちはシーマ神殿に向かった。
*** ***
「うっわ~! キレイ!!」
渡し船の舳先に立ち、ミアが歓声を上げる。
船が向かう先に見えるのは、朱色に輝く大神殿!
海上に建つ巨大な鐘楼のてっぺんには、神殿の象徴たる大きな鐘が飾られている。
目にも鮮やかな朱色の建物は、穏やかな海面に映え、最高の展望を構成していた。
「もぐもぐ~おいひぃよアレン!」
串に刺さった焼きカステラ……シーマ神殿の名物で、カスタードクリームをカステラ生地でくるみ、表面をこんがりと焼いたお菓子である……をほおばったミアはご満悦である。
神殿は巡礼者でごった返しているが……そうだな、せっかくだから俺たちの旅路を占ってもらうか……俺たちは神官詰め所に向かった。
「ようこそ、シーマ神殿へ! 旅占いをご所望ですか?」
俺は神殿の受付でお布施を支払うと、担当の神官の前に歩み出る。
「ああ。 俺は”宝箱設置人”に転職したばかりなんだが……結構無理難題に見舞われていてな……コイツ……ミアと俺の旅路を占ってくれねえか?」
「かしこまりました……それではこちらへ」
台座の上には銀の皿が置かれ、そこには海水が満たされている。
パラパラと神官が虹色に輝く貝殻の破片を海水に散らす……破片の散り具合で運勢を占うらしい。
パアァァ……
淡い光が俺たちを包む……
「はい……あなたたちの旅路は、幾多の困難はありつつも、希望に満ちています」
「その行く先には……ん、旅の方……そちらの魔法収納袋にお持ちの物は?」
神官が占いの結果を告げようとしたところ、なにかの異変に気付いたようだ。
確かに、いつも身に着けているアイテム袋……見た目よりずっとたくさんのアイテムを収納できる魔法収納袋……それが特に強く光っている。
「なんだ……? ん、これか」
俺が取り出したのは”能力解放の腕輪”。
以前(第1-2話参照)、スキルを活かして物々交換で手に入れたものだ。
「これがどうかしたか? 一般的な”能力解放の腕輪”だと思うのだが」
レアなアイテムではあるが、伝説の武具というわけではない。
装備すると全てのステータスをほんの少しアップしてくれる便利装備だ。
「いえ、なにか……初めて見る反応なもので……えっ!?」
神官が腕輪をのぞき込んだ瞬間、ひときわ強い光が腕輪から放たれる!
「くっ……」
「ひええ……ま、まぶしかったぁ」
「って、ミア! お前それは……」
「ふえ?」
光が消えた後、俺の手元にあったはずの腕輪は消え去り、ミアの左腕に納まっていた。
腕輪の中心には赤の宝玉らしきものがはまっており、腕輪のデザインも全く変わっているだと?
「驚きました……伝説の武具の中には持ち主を選び、姿かたちを変えるモノがありますが……まさかこれも?」
神官は呆然と呟いているが、俺にはまず確認することがある。
「おい、ミア……何か身体におかしい所はないか? 異常があるようならすぐに解呪してもらうが」
呪いのアイテムかもしれない!
俺は慌てて腕輪が収まったミアの左上腕や、背中、首筋などを確認する。
「ん~、大丈夫! むしろ力があふれて来るかも~?」
冗談めかして笑うミアに思わず一安心する俺。
「ふう……だがもし異常があればすぐ言えよ! すぐに街に戻って解呪してもらうからな」
「えへへ、ありがとう……やっぱりアレンは優しいねっ!」
まあ、ミアの健康的な肌にすごく似合っているからいいか……俺は抱きついてくるミアを腕にぶら下げながら、シーマ神殿を後にするのだった。
「先ほどの反応……あの娘まさか……そしてあの男も?」
「念のため、大神官様にも報告しておいたほうがよろしいでしょうか」
彼らの背中を見つめる神官の気づかわしげな声は、さわやかな潮風に吹かれて消えた。