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第2-4話 【勇者の華麗なる転落サイド】勇者様、懲罰クエストを食らい大ピンチ

 

「勇者クラレンスよ。 反省して心を入れ替えることが出来ぬというなら……”魔巣迷宮”に行くがよい……最下層にある我がダルトワ家の古文書……これを取ってくれば、貴殿を王宮に推薦してもよい」


「だが、”魔巣迷宮”は過去数十年、どのような冒険者も攻略できておらぬ……貴殿の賢明な判断を期待する」


 くそっ……Sランク迷宮だとぉ!?


 何故オレ様が反省する必要があるのだ……!

 だがまてよ……完遂できれば王宮へのコネが出来るのか……。


 ははっ……コイツらを犠牲にしてでもなんとか成し遂げてやる……パーティメンバーなんざ、また集めればよいんだ……。



 ふぅ、聞く耳を持ってないか……あえて無茶な課題を課すことで冷静にさせ、最近の行いを反省してくれることを期待していたのだが。


 邪悪な笑みを浮かべる勇者クラレンスの様子を見て、王都に12人いる区長の長、ダルトワ公爵は深いため息をついたのだった。



 ***  ***


「住民共から苦情が出ているだって!?」


 最近実績がうなぎ上りのクラレンスのパーティ、ダルトワ家から王宮への推薦状がもらえると喜び勇んで参上した彼らを待っていたのは、ダルトワ公爵からの叱責だった。


「何故だ! 住民共はこの偉大な勇者クラレンスの役に立てたのだぞ!? 感謝するのが筋ではないのか……」


「…………」


 まったく、このアホ勇者は何もわかっていない……勇者としての実績獲得を急ぐあまり、無理に”マテリアルメダル”を民家から徴発した事が響いているに違いない。


 おそらく、住民たちからこの地区の区長であるダルトワに、苦情が申し立てられたのであろう。


 ダルトワ公爵は真面目な人物と聞く……自分の担当地区での無茶は許さないという事か。


 ヒーラーの少女エイダはこっそりため息をつく。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「ふむ、勇者クラレンス殿……貴殿のここ最近の実績は確かに注目に値するが……Aランク手配モンスターとはいえ、他の”勇者”が仕留めそこなった個体を横から倒した……と報告書にはあるが、事実かね?」


「滅相もありません公爵様! そのような噂、私の実績を妬むほかの連中の差し金でありましょう……!」


 勇者クラレンスと公爵のやり取りは続いている。



「そうは言うがな……貴殿はまず街の住人に対する乱暴狼藉を反省することから始めたらどうだ? それか、他の誰にも成し遂げられないような実績を上げ、住民を説得するか……」


「!! おお公爵様、この勇者クラレンス、この国の勇者の中で唯一無二の実績を上げて見せましょう……!」


 他人の成果をかっさらうような形で実績を積んできた男だ。

 無謀な挑戦はすまい……ダルトワ公爵の配慮は、どうやら悪い方に転がってしまったようだ。



 ***  ***


「ちっ……大急ぎで民家を漁ってやったが……たった2枚か……しけてやがる!」


 バキッ!


 イラついたクラレンスは店先の樽を蹴破る。


 ばしゃりと路上にぶちまけられる樽の中身……ワインが入っていたようだ。



「な……くそ、何が勇者だ……」



 その様子を目撃した店主は驚き、クラレンスを恨みのこもった眼差しで見つめるが、クラレンスは気付きもしない。



「おいセレスト! マテリアルメダルの備蓄は何枚だ?」


「いまは~、23枚だけど……クラレンス、本当に行くの? ”魔巣迷宮”はSランク迷宮でしょ? いまのあたしたちのレベルじゃ……」


 セレストの(もっと)もな指摘に、クラレンスは髪をかきむしりながら激昂する。


「おじけづいたのかセレスト! ここをクリアすれば王宮付き勇者に登れるのだぞ! どのような望みでも意のままになる……オレ達は進むしかないんだよ!」


「大丈夫っすよセレスト! ”王宮付き”にさえなれば、マテリアルメダルも取り放題だって」


「…………ま、まあそうね!」


「そういうことだ! 行くぞお前たち」


「…………」


 不十分な備蓄で挑むSランク迷宮……一人くらい死ぬかもな……ヒーラーの少女エイダはまるで人ごとの様に思うのだった。



 ***  ***


「クソおおおおぉぉ! なんだここは!」


 Sランク迷宮である”魔巣迷宮”は地獄だった。


 迷宮に入った途端、大量の魔物が襲ってきた。

 それらはB~Cランクモンスターだったとはいえ、何しろ数が多い。


 セレストの攻撃魔法とクラレンスの剣技で乗り切ったが……この時点で魔法力の半分と、

 ”マテリアルメダル”の半分を使ってしまう。


 勇者の剣技……威力は絶大だが、1回ごとにマテリアルメダルを消費する燃費の悪さが問題だ。


 そして現在は第3階層……最下層である第7階層の半分にも到達していない。


 そこのフロアボスに対して、クラレンスたちは窮地に陥っていた。



「くっ……”アイシクル・ランス”!」


 セレストの氷雪攻撃魔法が発動し、氷の槍がフロアボスである”レッドドラゴン”に向かう!


 パキイインッ!


 レッドドラゴンにわずかなダメージは与えたようであるが、その屈強な腕で防がれてしまった。


「クラレンス! これであたしの魔力はカラッケツだよ! 回復アイテムも尽きた」


「なんだと!? おいコーディ、奴に隙を作れ!」


「わかったっす!」



 脳筋戦士はレッドドラゴンに突撃していくが、勇者の剣技でないとコイツは倒せない。 奴はタダの囮だ。


 ぶおんっ……

 ドガアッ!!



 死角から放たれた丸太のような尻尾の一撃に、声もなく吹き飛ばされるコーディ。


 いまだ! その瞬間に生まれたわずかな隙を逃さず、クラレンスは”勇者剣技”を発動させる!



「出し惜しみは無しだ!」


 残った3枚のマテリアルメダルをすべてエネルギーに変換、赤く輝く聖剣アスカロンを高く掲げ、クラレンスはレッドドラゴンに突撃する!


「”グラン・スラッシュ”!!」


 ザシュッ……バッキイイインンッ!


「!!」



 グオオオオオオオンンッ……!


 どさっ……




 断末魔の絶叫を上げるレッドドラゴン。


 仕留めることには成功したようだが、聖剣アスカロンは根元から折れ飛んでしまった。


 くそっ! マテリアルメダルの数が足らなかったか……!


 まあいい、またメダルを集めて修理するしかない……クラレンスは折れた剣先を拾い、パーティの元に戻る。



「クラレンス、コーディの奴が!」


「…………ダメですね。 あれだけの打撃を受けては……即死状態だったようです」


 パーティ唯一の戦士の、突然の死に取り乱すセレストと、まるで何事も無かったかのように無表情で事実を述べるエイダ。



「くそっ! 役立たずめ! 脳筋戦士はこれだから!」


 何度も壁を殴りつけ、イラつきを全身で表すクラレンス。


「だが、壁役が死んで……マテリアルメダルも尽きたとなれば、この先に進むのは無理だ……くそ、王都に戻るぞ!」


「えっでもクラレンス……コーディのヤツは……?」


「そいつを回収してる暇はない! 魔法使いのお前とヒーラーは貴重だが、戦士などまた募集すればいいんだ!」


「…………」


 目を血走らせながら激昂する勇者クラレンスに、魔法使いセレストはただ頷くことしかできなかった。


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