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第1-3話 【勇者の華麗なる転落サイド】勇者様、さっそく好感度が下がる

 

「おい庶民よ! 勇者様がやってきたぞ! 早くタンスの中を見せろ!」


「うふふ、小汚い家ねぇ~ お邪魔するわよ?」


「入るっすよ! お茶ぐらい出せないっすか?」


「…………」



 ここは王都の下町、とある集合住宅。


 入り口のドアを蹴破らんばかりの勢いで開き、勇者様御一行が無遠慮に室内に侵入してくる。



「ひいぃぃぃ……できれば穏便に……」



 おびえる住人を無視し、勇者一行は家中のタンス、壺などを漁り始める。


 ドン……バサッ……がちゃん


 戸棚を開けては中身を床にぶちまける。


 引き出しの中にしまわれた服なども、容赦なく外に投げ出される。


 いくつかの壺など、割れて中身がこぼれてしまった。



 ”勇者”の称号を持つクラレンス一行でなければ、タダの押し込み強盗にしか見えない。


(というか勇者御一行だったとしても、ただの押し込み強盗である)



「……おい、セレスト! ()()()()はあったか?」


「ないわねぇ~、もしかして外れかしら」


「ちっ……やはり貧乏人共の長屋にはあまり出ないのか?」


 乱暴な言動を繰り返し、更に部屋を散らかしていく勇者クラレンスと魔法使いセレスト。



「……っ!」


 文句を言いたくとも、勇者様の怒りが自分たちに向いては……住人は涙を浮かべ、歯を食いしばって我慢している。



「お、クラレンス! あったっすよ!」


 バキバキッ!


 脳筋戦士コーディが、タンスを破壊しながら歓声を上げる。


 その手には()()()()()()が握られていた。


 マテリアルメダル。


 空気中に漂うエーテル……魔法力の元素が結晶化したものと言われている。


 ”勇者”たちが装備する高品質の武器防具の補修や、”勇者剣技”と呼ばれる超絶スキルを使用するのに消費するアイテムで、当然のごとく店には売っていない。


 なぜかこのマテリアルメダル、民家のタンスや壺の奥に結晶化して現れるという特徴があり、”勇者”たちは定期的にこうやって民家の中を漁らせてもらう必要がある。



「まったく、この仕組み面倒よねぇ~、せめて店で取り扱ってくれりゃいいのに」


 空振りにならずホッとしたのだろう。


 魔法使いセレストが口を尖らせながら文句を言う。


「……仕方ないだろう。 勇者一行以外が家から外に持ち出すとパワーが失われるってんだから」


 勇者クラレンスが応じるが、彼も同じことを考えていた。


 まったく……このルールを作ったのが女神さまとしたら、とんだ意地悪女神だな。


「…………世界の七不思議そのいち」


 ぼそりとヒーラー少女エイダがつぶやく。


 この女、何を考えているか分からない。


 貴重なヒーラーだからパーティに入れているが、代役が見つかったらすぐに追い出そう。


 勇者クラレンスはそう心に決めていた。



「じゃあな、これは勇者様からのありがたい施しだ! 近所に自慢してもいいぞ!」


「あ、その紙は必ず入り口に貼っとくように! そうしないとまた来るぞ!」



 こつん……



 勇者クラレンスが投げてよこしたのは、薄汚れた銅貨一枚と”勇者様探索済み”と書かれた一枚の羊皮紙のみ。



「……父さん、勇者だからってこんな暴挙が……許されていいの?」


「くそっ……隣の地区でも最近酷いらしい……区長様に相談してみるか」


 住人から恨みのこもった視線が投げつけられていることに、勇者クラレンスはまだ気づいていなかった。



 ***  ***


「”ダルトワ家からの依頼”?」


「そうっす! 僕たちもついに王宮進出っす!」


 脳筋戦士コーディが無邪気に喜んでいる。



 その手に握られているのは、”ダルトワ家”の紋章が入った()()()


 ダルトワ家とは、この周辺地区を治める貴族で王都の各区長を束ねる、国王陛下の一族に連なる名家だ。


 ”勇者”の称号を手にして1年、ついにオレたちも王宮進出か!


 ふん、ここ最近はAランク手配モンスターの退治が5件に、Aランク迷宮の攻略が1件……


 ()()()()()()()()の中では抜きんでた成績を収めているはず。


 これは宮廷付き勇者も夢じゃないぞ!



「…………」


 ヒーラーエイダは、冷ややかな視線をその”召喚状”に向けている。


 依頼を出す時に送る”招待状”と、なにか追及されるときに送られる”召喚状”。


 その違いも分からないとは……()()()()()()()()()()()()


 エイダは静かにため息をつく。



 ふはは、アレンのヤツを追放してから面倒なタンス漁りの事前交渉も必要なくなったし、運もめぐってきたようだ!


 アイツは今頃安アパートで安酒でも飲んだくれているんだろう!

 無能中年にはお似合いの末路だ!!



「でもさ、クラレンス。 最近派手にやってるから、”マテリアルメダル”の備蓄が少なくなってなぁ~い?」


「いつもの半分くらいしかないわよ」


「ふははは! そんな物、いくらでも民家から徴発すればいいではないか!」



 勇者クラレンスは得意の絶頂にあった。


 未来に過酷な試練が待ち受けていることも知らずに。


次回はアレン達の、のんびり旅です!


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