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第6-5話 凄腕交渉人、シーガルグルメは独特です

 

「ちょっ……貴様たち……きゃうんきゃうん! 勘弁しないか!!」


 地獄の門番、闇の眷属であるSSランク魔獣ヘルハウンドが涙目で縮こまっている。


「ごくり……ミア、食の求道者として、こーゆうのもチャレンジするべきだと思うの(鼻声)」


「くく……同感だ……これを”どぶろく”で流し込むとうめぇんだこれが……(鼻声)」


 俺たちの目の前にあるのは異臭を放つシーガル名物の珍味……俺たちの挑戦が始まろうとしていた。



 ***  ***


「は~い、ポチ侯爵、あさごはんだよ~」


 様々なトラブルがありすっかり忘れていた”テークダンジョン”のテストプレイの依頼だが、俺たちは報告書をまとめるとオーミの街にあるギルド支部に提出した。


 せっかくなんで直接聞かせてくれと言われたので、ミアちゃん謹製の鋭い指摘一覧を、朗らかなミアの声で読み聞かせてやった。


 最後は担当者、半泣きになっていたが、それだけにいいダンジョンが出来るだろう。



 仕事が終われば待ちに待ったグルメタイムである!


 俺たちは街の郊外に魔法コテージを建てると、ひょんなことで俺たちの番犬になったSSランクモンスター、ヘルハウンドのポチ侯爵に飯をやってから買い出しに出発するところだ。



「娘ミアよ! 我はこーゆーのでなく、ジャーキーを所望する!」

「がっつり天日干ししたヤツがいいわん!」


「だめ! 塩分取りすぎは体に悪いよ?」

「犬は人間に比べて塩に弱いんだから……これ! 無添加グルテンフリーの魚肉ソーセージ!」


「が、がうう……我はその辺の犬ではなく、ヘルハウンドなのだが……」


「だ・め!」


「……はいだわん」


 おお、ミアの圧にポチ侯爵が負けている……ミアは孤児院でいろんな動物の世話係をしていたらしいので、動物のごはんには厳しいのである。



「よし、ミア! そろそろ街に買い出しに行くか!」


 ポチ侯爵はハスキー犬形態になるのは疲れるらしく、番犬として留守番するそうだ。


 ヘルハウンドが守るコテージに盗みに入る無謀なシーフはいないだろう……一瞬で消し炭にされるのがオチだ。



 ***  ***


「んっふふ~、ごっはん~♪ ごっはん~♪」


 踊るような軽やかなステップでミアが歩く。


 今日のミアはいつもの冒険着ではなく、フリルのついた薄いピンク色のノースリーブなワンピースを着て、緑の髪をお団子にしている。


 ひらひらと翻るワンピースからのぞくほっそりとした脚、惜しげもなく日光にさらされた健康的な肩がまぶしい。



 ……んん、いかんな……ミアの身体と入れ替わってしまった事件の直後だからか、妙に意識してしまう。


 この数か月で少し胸が大きくなり、背が伸びたか?


 少女から女性へと成長していく愛娘の姿が嬉しくもあった。



 それにしても……入れ替わりを直し、本来の身体に戻ってからも、お互いのスキルの一部は使えるままになっていた。


 俺は簡単な魔法なら使えるようになったし、ミアは”先読みスキル”を限定的だが使える。


 やはりこれも、”腕輪”の影響なのだろうか?


 古代遺跡の宝玉と反応したところを見ると……古代遺物(アーティファクト)……か?


 王都の南方に広がる商業の街、ダイサーガには合法非合法を問わず大量のマジックアイテムを扱うブラックマーケットがある。


 次の目的地はそこにしようか……俺が物思いにふけっていると、お目当ての店に到着したようだ。



「アレン……あそこに売っているのは……ごくり」


 そう、俺たちが目指していた店に売っているシーガル名物は……


 ワビ湖に住む淡水魚、フナ……特に卵を持ったメスを塩漬けにし、2年以上発酵させて作る……”フナずし”であった。


「うわ……オレンジ色に光る卵がきれいだね……うっ……でもこの臭い……」


 そう、フナずしは発酵食品なので強烈な臭いがする……ただ、王都の住人には熱狂的なファンも多く、かくいう俺も隣に住んでたじーさんに貰ってハマった口だ。


「くく……ミアよ……臭いだけに騙されちゃ、本質を見失うぜ……?」


「王国一の食通を目指すなら……珍味も愛して一人前……お前にその覚悟があるか、ミア!」


「……くぅ……いくらアレンでもミアの食べ物に対する覚悟をバカにしちゃだめだよ!」

「ミア……ミア……やってみるよ!」


「ふ……それでこそ俺の娘だ!」


 ……ツッコミ役のいない会話は恐ろしいものだ……少し引いてるお店のオバちゃんの愛想笑いに送られ、俺たちは魔法のコテージに戻るのだった。



 ここで舞台は冒頭に戻る。


 くくっ……犬の嗅覚は人間をはるかに上回る……SSランクモンスターとはいえ、臭いには勝てまい!


 かくいう俺たちも、鼻をつまみながらスタンバイしているのだが。

 さて……どぶろくも買ってきたし、一杯やらせてもらいますか!



 俺は、スライスされたフナずしをひと切れつまみ上げると、息を吸い込まないようにして一気に口に入れる。


 ゆっくりと噛みしめると強い酸味と程よい塩辛さが最初に襲い、遅れて強烈なうまみが舌をしびれさせる。


 くぅ……そこにどぶろくをコンビネーションするわけである……ふはぁ、最高だな。



「んっ……くぅ……しょっぱい……けど噛めば噛むほどこの快楽中枢にガツンと来るうま味の渦はっ……はふはふっ! ごはんと一緒にかき込むと……最高!」


 ふふ、ミアもこのうまさに開眼したのか、一心不乱に白ご飯と一緒に食べている。


 臭いで敬遠していた人も、食わず嫌いせずに挑戦してほしい!



「ふふ、これって発酵食品だから体にいいよね……お湯にふやかして塩抜きして……はい、ポチこーしゃく、美味しいよっ!」


 ミアが天使の微笑みでイヌ用に調整したフナずしをポチ侯爵に食べさせようとしている。


「う、うわあああああ!? 美しき娘よ! そのような臭みの塊を我に近づけるのではないわん!!」


 じりじりと後ずさる地獄の番犬であるが、”メシの妖精”であるミアが引き下がるわけもなく……。


「ぬおおおお、臭いが、臭いがああああっ…………ぱくっ」


「…………」


「…………うまいわああああん!?」


 奴は即落ちし、フナずしにハマるヘルハウンドという、有史以来初めての珍しい生物が誕生したのだった。


飯ウマ回です!!

挿絵(By みてみん)

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