第5-3話 ミアの故郷に渦巻く陰謀(上)凄腕交渉人本領発揮
テンカー村のはずれ、更に山を分け入った斜面の中腹にその孤児院はあった。
切り開かれた狭い土地に、肩を寄せ合うようにして石造りの建物が並ぶ。
花壇や窓枠には色とりどりの花が咲き、丁寧に維持されていることがここからでもわかるのだが……。
……様子がおかしい。
テンカー村の駐在(田舎で治安維持を担当している王国職員で、地元から採用されることが多い)のおっさんが数人走り回っており、院長先生と思われるオバサンが不機嫌そうにたたずんでいる。
何か事件でもあったのだろうか?
「あれ? 何か変だね……いつもならセレナ先生と子供たちがいるのに……」
「イザベラ先生……あそこにいる院長先生のことだけど、いつもはセレナ先生に仕事を任せっぱなしで、めったに外に出てこないのに、何があったんだろう?」
ミアも違和感を感じているようだ。
ともかく仕事をこなそう。
俺はロバ車を孤児院前の広場に止めると、院長先生……イザベラに声を掛ける。
「すいません。 俺はアレン、王国政府から依頼されて物資運搬に来たんですが」
……なんとなく、発注元の名前を言わない方がいい気がした俺は、政府からの依頼であるとぼかす。
「物資? 政府からの寄付ですの? ……今忙しいので」
「そのあたりに置いといてもらえます?」
先ほどから観察しているが、見るからに不機嫌そうだ。
俺に対しても、迷惑そうな様子を隠さない。
「あの……正式な依頼ですので、受領のサインを頂かないと……」
「……そういえばバタバタされていますが、なにかあったんですか?」
俺はあくまで下手に出つつ、”先読みスキル”を使う。
このオバサンの”ニーズ”を把握するためだ。
[セレナと何人かの有望な子供が薬草採集の途中に行方不明ですって?……バカな村人が駐在に通報したせいで”捜査”されるとかたまったもんじゃないわよ!]
[誰か秘密裏に捜索に行ってくれないかしら。 取引も迫ってるのに]
……このオバサン、色々と裏がありそうだが……交渉の余地はある。
ざっと観察した感じ、このオバサン……いい服を身に着けてやがる。
裏で何か”副業”をやってるか、ストレスで買い物が趣味かのどちらかだな……ナイスミドル(おっさんじゃねえ)な俺がちょい優しくすれば……落とせる。
俺は、すっとオバサンの横に移動すると、イケボを意識し、そっと彼女に耳打ちする。
「マダム……俺は裏稼業で”冒険者”もしてましてね……この孤児院、ちょい訳アリなんでしょ? 何も聞きませんから格安で”請負い”ますよ?」
さりげなく彼女の肩に触れる……ほんのりダークなオーラを感じさせつつ、頼れる男をアピールだ。
「!! アナタ……ふうん、私が切った”あの娘”を連れてるとか……買ったのね……なら、”裏”の人間ね……ふふ、頼めるかしら?」
掛かった!
……ってコイツ、ミアを見ていまなんと言った!?
く……今は我慢だ。
コイツの”依頼”を受けることで、色々裏が見えてくるかもしれねぇ……俺はふつふつと湧いてくる怒りをおくびにも出さず、オバサン……イザベラ院長と依頼の内容を詰めるのだった。
*** ***
「よし、ミア。 依頼の内容を整理するぞ」
イザベラ院長から情報を集めた俺は、ミアと作戦会議するべく、魔法コテージの中にいた。
「セレナという先生と、子供たちが行方不明に……」
「ええっ!? セレナ先生が!?」
俺の説明を最後まで聞かず、ミアが食いついてくる。
「ああ……子供たちを連れて薬草採取の途中に行方不明になったらしい」
「それで、俺が彼女たちの捜索を請け負ったというわけだ」
「ふえっ……セレナ先生ぇ……」
途端に涙目になるミア。
「ミア……もしかして」
「うん、先生はミアを孤児院に引き取って、育ててくれた恩人なの……」
ふうむ、この事件……色々裏がありそうだ。
ミアのためにも、気合を入れないとな……。
俺は泣き出したミアを撫でながら、必ず解決することを心に誓った。
*** ***
落ち込むミアを魔法コテージに寝かせ、俺はテンカー村に聞き込みに出た。
村人たちは善良なので、俺のスキルを駆使すれば聞き込みはたやすい。
まとめると以下のようになる。
・セレナ先生と子供たちが向かった場所は危険ではない
・イザベラ院長は最近特に羽振りが良い
・数日前にこの辺りでは見ない都会者らしき連中を見かけた
なるほどね。
孤児院出身であるミアをダンジョンギルドに登録した途端、王国の治安局から保護者である俺を名指しで来た依頼……そして孤児院で不自然に発生した事件。
この状況から推測される事実……次に来るとしたら……。
俺の背後から視線を感じる。
躊躇なく”先読みスキル”を使う。
「はん、”もう少し時間を稼ぐのに俺たちを利用したい”だと?」
「治安局の皆様よぉ、同じ公務員として、秘密主義が過ぎるんじゃねーか?」
背後で動揺する気配……俺が振り返ると、そこには無個性なマントとフードで全身を覆い、だが目線だけは鋭い黒ずくめの人間が立っていた。
「気づいていたのか」
変装魔法を使っているのだろう……男か女かもわからない。
「貴様も王国公務員なら、何も聞くな」
「人質は無事だ。 そこの空き家にいる」
「引き渡すから、なるべく時間を掛けて孤児院に戻れ。 いいな」
「おっと」
奴は言いたいことを言うと、俺に1本のカギを投げつけ、影のように溶け消えた。
ふん、ミアに関係することで俺が何も見なかったことにして引き下がると思うか?
だが、まずはあいつの指示に従ってやるか。
手に入れた鍵で空き家の扉を開けると、案の定青髪の女性……彼女がセレナ先生だろう……と、7人の子供たちが魔法で眠らされていた。
彼女たちが行方不明になっていた被害者で間違いあるまい。
そうだな、時間を掛けろと言われたんだ。
せっかくだからミアに会わせてあげよう。
俺は”毒消し草”を使って彼女たちを眠りから起こすと、全員を連れて俺たちの魔法コテージへと向かった。




