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第1-1話 凄腕交渉人、勇者パーティから追放される

 

「アレン、お前はもうクビだ! 民家のタンス漁るのにいちいち交渉とか、この偉大な勇者様には面倒なんだよ!」

「それしか能のないお前は、もういらん!」


「だいたい30半ばの中年男など、我ら華麗な勇者パーティにはふさわしくない」

「さっさとどこかへ消えろ!」



 バサッ……



 銀貨10枚が入った財布と、迷宮探索の余り物であろう、いくつかのアイテムが入った袋が俺に投げつけられる。


「さすがクラレンス、鮮やかな損切りっす! こんな役立たず切って、次は僕達の安全のため、盾役(ガード)入れましょうっす!」


 太鼓持ちの戦士コーディが即座に賛同する。



「ようやくコイツの不景気なツラを見なくてよくなるのぉ~、クラレンスったら、もう少し早く捨ててくれても良かったのに」


 女魔法使いセレストが勇者にしなだれかかりながら、ゴミを見るような目で俺に向かって吐き捨てる。



「…………」


 女ヒーラー、エイダは”どうでもいい”という風情で我関せずを貫いている。



 ガチャン!



 目の前で扉が閉まる。


 こうして、勇者パーティが民家のタンス漁りをする前に、住民と事前交渉し、地道に下請けメンバーとして働いていた俺の生活は、あっさりと終わりを告げた。



 奴……勇者クラレンス様の言い分はこうだ。




 勇者様の武器や技に必要な()()()()()()(不思議なメダル)は、民家のタンスや壺に入っている。


 個人宅のタンスや壺を漁らせて頂くことになるので、特に勇者様が駆け出しの頃は事前交渉が重要だった。

 窃盗犯になってしまうからな。


 だが、実績を積み名実ともに大陸有数の”勇者”となったクラレンスにとって、1軒の家を漁るのに1時間も2時間も交渉に掛けるのは時間の無駄だ。


 俺様の威光があれば、貴様の交渉スキルなど不要だ!




 まったく……俺がどんだけ下手に出て、()()()()()()()使()()……交渉をスムーズにまとめていたか知らねぇのか。


 まあいい、これで俺は自由になったんだ……勇者様のパーティにいたから外面を気にして最近行ってなかった、獣人キャバクラにでも行くか……。



 ***  ***


 たった今勇者パーティを追放された男の名前は、”交渉人”アレン・サムナー。

 口は悪いが、細目で無精ひげを生やした、ぱっと見無害そうな外見をしている34歳おっさんである。


 ただこの男……酒好き女好きがたたって奥さんと子供に逃げられたダメ人間の一面もあったのだが……心を入れ替えて真面目に働いていたらこの仕打ちである。


 とりあえず今日は、ぱ~っと遊ぶか。

 彼の足は、夜の繁華街に向かっていた。


 ***  ***



 ここは王都の繁華街。

 時刻は夕方……飲み屋やいかがわしい店などの明かりと、客引きの声が雑然とした空気を作り出す。


 へへ、俺はこの街の空気が大好きだった。


 どれ……獣人キャバクラに行く前に一杯ひっかけるか……俺は適当な飲み屋の入り口をくぐる。


 ウェイトレスのねーちゃんにビールとつまみを注文、ねーちゃんのケツを眺めつつ店内を見渡す。


 手持ち無沙汰な俺は、無意識のうちに”スキル”を使っていた。


「ん……あの金持ちそうな商人……急性アルコール中毒になってんぞ……おお、倒れた……誰か、”毒消し草”をくれ、ねぇ」



 そう、これが俺の”スキル”。

 このスキルを使うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。



 俺は、勇者様が個人宅のタンスや壺を漁る前に、この”スキル”を使って住人のニーズを事前に把握し、交渉を有利に進めていたのだ。


 勇者様にはバカにされそうだったので、スキルの詳細は説明してなかったが。



 しゃーねぇ、料理が出てくるまで暇だし、助けてやるか……たしか勇者が投げてきたアイテム袋の中に”毒消し草”があったな……。


 コイツはアルコールも含めた体内の毒を中和してくれるアイテム。


 銀貨1枚で買えるありふれたアイテムだが、売っている店は限られており、いくら王都とはいえ、あの商人があの世に行くまでに入手できるかは微妙だろう。



「ほらおっさん、”毒消し草”だ。 飲みなよ」


 俺は商人のおっさんに毒消し草をちぎって飲ませてやる。


 見る見るうちに顔色が良くなる商人のおっさん。


「うっ…………あれ、ここは?」


「アンタ、急性アルコール中毒で倒れたんだよ。 俺が毒消し草を飲ませてやった」


「だからせめてここの飯代くらい……」


 命を助けたんだから飯くらいおごってくれ、俺はそう言おうとしたのだが。


「おお! あなたは命の恩人だ! これを持って行ってくれ!」


 商人のおっさんは、荷物の中から「あるアイテム」を取り出すと、俺に渡してくる。


 これは……”転移の羽根”か?


 ”転移の羽根”とは、放り投げることで世界中の街どこへでも移動できる便利アイテム。


 店で買えば普通に銀貨200枚は下らない高級アイテムだが……。



「おいおい、いいのかよ……”転移の羽根”だぞ。 ”毒消し草”とは釣り合わねぇだろ?」


「いやいや、何を言うんだキミ……命を落とすかもしれなかったんだぞ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()恩人に報いるのは当然の事だろう?」


 ふむ……銀貨1枚の”毒消し草”が、銀貨200枚の”転移の羽根”に化けたな……これで獣人キャバクラNo1の娘をオールで指名することも……


 我ながら俗っぽいことを考えつつ自席に戻ろうとした俺の脳内に天啓が走る……!



 おいおい、もしかしてこれ……使()()()()()()()()()


 クズアイテムでも、その瞬間必要としてる奴には高く売れる……それを繰り返していけば……!



 勇者パーティのタンス漁りの事前交渉をして日銭稼ぎなんざ……この俺様にふさわしくなかったぜ!!


 最高のアイディアを思いついた俺は、注文したビールを一気に飲み干すと、ウェイトレスの姉ちゃんにお代を叩きつけ、夜の街に飛び出した!




 ……数時間後、自分の下宿に帰ってきた俺は溢れ出る笑いを抑える事が出来なかった。


 ドサドサドサッ!


 テーブルの上には数々のレアアイテム……Aランクの武器防具や、Sランクのマジックアイテムが並ぶ……。


 ごとり……


 傍らに置いた財布には金貨と銀貨がパンパンだ!


 あの後街に飛び出した俺は”スキル”を発動……まず、遠方に住む娘が急病になり慌てている貴族に”転移の羽根”を売りつける……


 大量の金貨を手に入れた俺は、ぼったくりバーで困っていた冒険者の支払いを肩代わりすることでAランク武器をゲット……


 そんな調子で”必要なアイテムや金を必要な奴に”渡していった結果がこれである。


 今夜手に入れたアイテムの価値だけで……銀貨2万枚(金貨200枚分)……5年は遊んで暮らせるだろう!



 決めた! 俺は世界一の商人になり、世界一の金持ちになってやるぜ!!


 俺のバラ色人生はここから始まる!!


 ……俺が抜けた勇者パーティはメダルを集めにくくなって困るだろうが、勇者様なのだから自力で何とかしてくれ!



勇者パーティへのざまぁは第1-3話で炸裂します!


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