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隠された青の象徴  作者: 河野 遥
1. レブの警護隊
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挿絵(By みてみん)


 海洋上の孤島、レブ島。十字型をした島の、北端に広がる森の中。

 少年が一人、収穫物が大量に入った布袋を覗きこんだ。


(まずまず採れたかな。もう少し果物系が採れると収入がいいんだけど…)


 彼の名はエルド、島の北部にあるリエナの村に住む少年だった。

 慣れた様子で木の根の張り出した坂道を登っていく。青い目が目的の物を探して辺りを見回した。


 彼は青い瞳に焦げ茶の髪と珍しい色合いを持つ異国の少年だった。


 この島に住む子供達は茶色い髪に水色の目がほとんどである。だが、皮であつらえられた質素な服を着た姿も言葉も生活習慣も、島に住む他の少年達と何ら変わりはなかった。


 近くの木に絡まったつるを見つけて掴むと、根元を強く引く。するとつるだけがそのまま引っこ抜ける。そこを少し掘ると地中に残った数個の芋が顔を出した。後ろ腰に取り付けられた愛用の短剣を引き抜くと、芋に残った根を切り落とす。


 手に取ったペタと呼ばれる芋は山芋の一種で、この小さな島において野生から採れる主食の一つだ。皮は白に近い茶色で、太くて手にずしりと重い。この辺の森に群生しており、見つけるのはそんなに難しくは無かった。


 彼は時折この芋を探して森に入る。南に一時間下ったところにあるレブという町に持って行くと結構いい値で売れるためだ。


 季節は夏の終わりであり、秋には冬越えの準備を始めなければいけない。


 普段エルドはレブで警護隊という組織に加わって給金をもらい生計を立てている。

 警護隊とはレブの町近辺に現れる魔物を退治し治安を守る団体であるが、その収入だけでは心もとない時にこうして森で食物を集めては売りに行った。


 正式に隊に加われるのは十六歳を越えてからであったが、エルドはまだ十四歳になったばかりだった。


 エルドは薄暗く見通しの悪い森の奥を見渡した。

 この辺りは普段の行動範囲内なので迷うことは無かったが、この先は山につながる傾斜になっており、あまり踏み込むことは無い。

 深くまで入り込んでしまうと魔物と呼ばれる異形のものと遭遇する危険性が上がる。そこまでして収穫物が欲しいわけでもない。それで、道なき道を引き返した。


 警護隊に入ったのは昨年の十三歳の時であり、レブの剣術修練場の師範に推薦されたからだった。

 エルドは八歳の時に大陸からこの島にやってきたのだが、その時には既に一通りの剣術を習得していた。それを師範に見込まれていたようだ。


 それからある程度まで成長するのを待って、昨年の春にようやく隊員として加わる事になったのだ。


 入隊は基本的に十六歳以上でないと受け付けて貰えないが、特例でエルドは三年早く入隊する事になった。

 正式な隊員ではなく補助員としてであったが。


 正隊員でないため職務上に色々な制限があり、割り当てられる役割といえばもっぱら町の出入り口の警護、秋に行われる魔物狩りの補佐などで、魔物との戦いの矢面に立たされることは無かった。


 警護隊は町で運営する団体であるため収入はそこそこあって食べていくのに困った事はない。だが、普段の生活は決して裕福とも言えなかった。


(レオがもう少しペタを掘ってくれていればいいけど。レオもロゼも急に大きくなったからな)


 エルドは小さく息をついた。

 レオとロゼというのは同居している少年で、現在は三人で協力して暮らしていた。


 レオは同い年で、ロゼは恐らく二歳ほど下だと思う。


 恐らくというのは、ロゼは自分の年齢を知らなかった。彼は昨年の夏の終わり頃に森で衰弱しているところを拾ってきたのだが、自身のことについて何も語らない子供だった。


 レブの医者が多分それぐらいだろうと言うので、とりあえずそう思うことにしたのだ。


 別に年上や年下など年齢を気にすることはないが、三人で成長期が被っているため、最近は着るもの一つに頭を悩ませている。

 特にレオは急に身長も伸びて、元々エルドより少し背が高いくらいだったのが、今は顔半分くらい差がついてしまった。


 町で買う以外にも隣の家のリアおばさんが時折着る物をつくろってくれるのだが、レオは町の友人と何をしているのか、折角の服も次々と破って汚して帰ってくるのだ。


 森に一歩入ると道はないが、見覚えのある地形があって、無意識にそれらを探して視線を巡らせた。


 記憶にある危険な箇所は迂回しつつ、陽の光が届く比較的明るい木々の間をぬうように慣れた足取りで歩いていく。


 やがて少し開けた場所に出て、低木から張り出した太い枝に腰掛ける少年を見つけた。彼が同居しているレオで、彼の赤に近い髪の色は緑一色の森の中では鮮やかに目についた。


「あったか」

 レオがエルドに気付いたとたんに、声をかけながら布袋を抱えて枝から飛び降りた。

「まあまあだったよ」

 エルドが困った顔をした。


「俺の方も。でもサザの実が採れた。ちょっとは足しになるだろ」

 レオの差し出す袋を覗きこむと、緑の皮の実が半分くらいまで入っていた。結構な収穫量だ。

「まだこんなになっているところがあったの?」

 期待以上の成果にエルドが驚く。


「ああ。いつも行かない西の方にさ、まだ手付かずの木があったんだ。この奥のほうでロゼに会ってさ」

「ロゼに?」

 意外な名前にエルドが驚いた顔をした。


 ロゼは同じ家に住んでいるのに夜以外はほとんど姿を見せなかった。だから日中に会うだけでも珍しい事だった。


「ロゼが木の場所を教えてくれたの?」

 エルドの反応にレオも少し眉を顰めた。

「ああ。あんまり島の西には行くなって言ったんだけど。どうもあいつはお構いなしに歩き回っているみたいだな」


 ただ、とレオは苦笑した。

「普段あんまり話をしないから場所を教えてくれたのは意外だったし、付いて行ってみたんだよ」

「そっか……」


 エルドにも正直言ってロゼが何を考えているかは分からない。彼は初めて会った日から、ほとんど何も話さない子供だった。


 最近になって森には魔物と呼ばれるものが妙に増えてきている。それらは大抵西の森からやってくる。だから集落に限らずこの島に住む者は西の方角には近づかなかった。


 人が踏み入れない分収穫物が多く残っているのだろうが、それを目当てに踏み込んだ者が行方不明になったと聞く。


 エルドもロゼには西に近づかないように何度も言っていたのだが、この分だと聞き入れてくれてはいないのだろう。


「放っておけよ。夕方には帰ってくるんだし。すばしっこいんだから大丈夫だろ」

 エルドの考えている事を察して、レオが軽く言い放った。さらに「変な力も使えるし」と何かを思い出して嫌そうに付け足した。


 ロゼは世間一般でいう魔術と呼ばれる力を扱えるらしかった。

 この島ではお目にかかることの無いその不可思議な力を、二人はかつて一度だけ実際に目撃した事がある。


 昨年魔物がレブを襲った時に、ロゼが正体の分からない力で火を起こして魔物を焼き払った事があった。

 多分あれが魔術なのだろう。

 同じく目撃した警護隊の隊長もそう言っていた。だがその時にロゼは腕を負傷してしまい、そのせいもあるのかそれ以降魔術を使う事は無かったが。


「魔術はあんまり当てには出来ないかも知れないけど」

「いざとなったら使うだろ。早くこれを卸しに行こうぜ。お前も警護隊の集まりがあるって言ってただろ」

「うん…そうだね」

 エルドは重そうな袋を抱えて歩き出したレオの後ろを追って歩き出した。


 ここから家のある集落に出るまでは直ぐの距離だった。

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