第12話, 女帝竜のダンジョン
ぼくは浮かれていた。
だってそうだろ? 裏技とは言え魔法が使えるようになったんだ。
レベルアップの恩恵が、あったじゃないかって?
ステータスが何百倍になったって言っても、
あれは力の上限値が上がっただけで、日常生活には実感が薄かった。
体重が増えた訳じゃないから、戦闘に使おうにも難しかった。
結局スキルに依存した戦い方をしてたから、レベルアップの恩恵ってあんまり感じなかったんだよなあ。
でも魔法は話が違う。 何しろ全く使えなかったのが、ほぼ無尽蔵に使える身になったのだ。
例えるなら、無一文だった人が国家予算並の資産を得たようなもんだ。
そりゃ浮かれるよね。
竜の谷には、グララさん一家の他にも数十匹のドラゴンが住んでいた。
概ね友好的だったんだけど、1匹やたら敵視してくる奴だいた。
ある日、いきなりドラゴンブレスを吐かれたので、ぼくはブチ切れたよ。
極炎の魔法でズタボロにしてやった。
大丈夫、殺してはないから。
でも魔法防御が効かないドラゴンブレスによる攻撃。 亜空間スキルで防御できるぼくでなかったら
死んでた所だったんだから、殺されても文句言えないよね。
高い再生能力があるから、肉体的には問題ないはずだ。
しかし、魔法耐性があって効かないはずの魔法で、ダメージを受けたという
精神的ショックが大きかったみたいだった。
グララさんの完全魔法耐性ならともかく、並のドラゴンの魔法耐性なんか
問題にならないよ。
こっちは、コストを気にせず魔法の威力を自由に設定できるんだからね。
グララさんの完全魔法耐性にしても、耐性があるのは鱗だから
鱗さえ突破出来ればなんとかなる。 倒す方法はありそうだ。
いや、戦わないよ!!! そこまで浮かれてはないさ。
ドラゴンは最強の存在を自認していて、その気になれば世界をも滅ぼせる力があるため
他の文明に関わらないという掟がある。
また「女帝竜」は竜の谷から出てはいけない。
掟を破ったからって、グララを罰することが出来る者なんていないのだけど
彼女は律儀にそれを守っている。
谷から出られないグララに、ぼくはダンジョンクリスタルという物を取ってきた。
ゲームでは魔王の名前を教えてもらう代償に、グララに頼まれるクエストだった。
魔王はすでに倒したのだから必要ないんだけど、
これがあれば「女帝竜のダンジョン」という物が作れる。
「女帝竜のダンジョン」をクリアしたものは、次の「女帝竜」あるいは「皇帝竜」になれるという。
その為の試練が、「女帝竜のダンジョン」なのだ。
グララさんは「女帝竜」を他のドラゴンに譲って、とっとと引退してしまいたいのだ。
程なく完成した「女帝竜のダンジョン」にギロロさんらドラゴン達が、挙って挑戦したが、
1階層もクリア出来ずに、入り口に転送されてた。
中で死亡すると、本当には死なないで入り口に転送される仕組みだそうだ。
「難易度を間違ったかしら……」
うん、間違ってるね。
だってラスボスが、グララさん自身の分身だよ。 クリア出来る訳がない。
出てくる魔物も、AクラスSクラス当たり前だし。
「4人まで一緒に入れるわよ。 どうかしら? ララと一緒に挑戦してみたら」
まあ、本物のグララさんは、ぼくの能力をぼくより理解しているから
勝つのは厳しいけど、分身ならグララさんの能力をコピーしてるだけだから
攻略出来る可能性はある。
ただ、それやっちゃうとララが「女帝竜」になってしまうじゃない。
「ララが谷から出られなくなるのは困ります」
「でも、ララちゃんはヤル気満々みたいよ」
ダンジョンの入り口で、今にも入って行こうとしているララを全力で止める。
「挑戦しないの? 残念だわ〜」
どうやら、ぼく達が挑戦することを前提に難易度を設定したらしい。
いやいや。 しないから。
当面、グララさんは引退できそうになかった。