其の六
ああ、あの「感覚」が忘れられない。
あの「自分の手の中で一つの命が消える」感覚が。虫を潰すのも同じだけれど、あの「感覚」は格別だった。ああ、せめてもう一度……もう一度だけでも……
僕の欲求はもう抑えられないところまで来ていた。左腕にも、右腕にも、足にまで、カッターで付けた、生きている「シルシ」が生々しく残っている。
自分自身ではダメなんだ、自分では。昔なら、他人と会話するだけでよかった。でも、一度贅沢をしたら忘れられない。僕が受け取る「感覚」は、あくまでも他人を介さなくては。会話?いえいえ、そんなんじゃない。
そう、「命」だ。
君の温もりを思い出す。息はしていない。今思うと、本当に侮蔑の言葉を言っていたのか、記憶にない。でも、本当に君のことが好きだったんだ。日に日に受け取る感覚という名の快感はエスカレートしていって、最後は殺しちゃった。
ああ、ああ、あの「感覚」をもう一度……
二日前まではたまりにたまっていた鬱憤なんて、今の僕には微塵もない。やっぱり、発散は大切なんだな。
夜の街に繰り出すとしよう。そろそろ素手も飽きてきたところだ。台所に向かい、手ごろな「獲物」を取り出す。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪ か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り♪」
外。深い闇を見ていると、僕のすべてを委ねたくなるよ。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・♪」
よし、今日はあいつにしよう。
近づき、すれ違ってから襲う。
静かに。静かに。細心の注意を払って。
後ろから口元を押さえてナイフを突き立てる。
ああ、この感覚。夢の中と同じだ。
もう数回突き刺す。だんだんと動かなくなってきた。そろそろお楽しみは終わりかな?
今日はもう少し、いけそうだ。
ターゲットを変える。さっきよりも強い快感を体が求めている。
次は、あいつだ。
夜の街に繰り出すようになって三日目、初めて女性を手にかける。もちろん、君は除いてね。君だけは、特別だから。
同じようにして、突き立てる。この暗闇だ、よっぽどへまをしなけりゃ血は見えない。
少し違う感覚が手に伝わる。やっぱり、少し柔らかい。
もう抑えられない。本能のままにナイフを動かす。
皮膚が裂け、血が出る。
僕に付こうが関係ない。
さっきよりも刺激的な殺し方を体が求めている。
はらわたを引きずり出そうか、首と胴体をきりはなそうか。
方法なら、いくらでもある。
夜はまだまだ、これからだ。さあ、僕に感覚を味合わせてくれ!
とある町で、猟奇的な連続殺人事件が起こった。
まだ、犯人は見つかっていない。
違う街でも、同様に。
証拠は何も残っていない。
今日も僕は、「感覚」を求め街に出る。
暗闇の中、「君」を後ろに引き連れて。
この世にはもういない、君を。