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感覚  作者: 朱雪藍
3/9

其の三

夢を見た。目覚めの悪い、悪夢を。


その世界の僕はとても弱くて、みじめで、馬鹿だった。

そしてある日殺人を犯す。

ただいじめに耐えるのがつらかったからという理由だけで。

そいつは他の奴らから見てもクソみたいな奴だったから、当然周りの人がみんな疑われた。

僕も、もちろん例外じゃない。

というか、他の人よりも疑われていたみたいだ。

「あいつは、いつもいじめられていたから」

「きっと恨みで殺したんだよ」

周りが陰でこそこそいうのが聞こえる。

この世界の僕は馬鹿だから、そいつを殺したときによく考えなかった。

ただ命を奪うだけなら、深さ五センチの水でいい。濡らしたティッシュでもいい。

なのに、僕はナイフでカラダをめった刺しにして、バットで顔面が原型を失くすまで殴ったんだ。こんなに無残な殺し方をしたら、誰だって強い恨みを持っていた奴を疑うだろう。


本当に、馬鹿だったよ。皆に追われ、大人から追われ、逃げた。

逃げて逃げて逃げて、とにかく逃げて。

遠くに、出来る限り遠くに。


そんなことをしなくても、もっとスマートに殺せばよかったんだ。証拠が一つも残らないように。失踪に見せかけてみたり。

「あいつは僕を最後にさんざん殴ってこういったんだ。「こんなところにいられっかよ。じゃあな。俺は俺の生きたいように生きるからな」って。そして、あっちの方に歩いて行ったんだ。それからは知らないよ、だってこんなに殴られたせいで、僕は気を失っていたんだから。」

みたいに泣きながら訴えれば、大人は信じてくれるだろうから。


逃げるときも、追っ手にわかる証拠を残して。殺したときも、わかりやすくて。夢の中の僕には、生きている「感覚」なんて微塵もなかった。それを理解しているのに、体は言うことを聞かずにどんどん馬鹿なことをしていく。


こんな夢だった。本当に、嫌な目覚めだったよ。

夢の中の僕の頭の悪さには、本当に呆れる。

もっとスマートに殺せばよかったのに。

正面から首を締め上げる、とかね。夢の中の僕にも力はあったみたいだし。


こんなカッターの感覚じゃなくて、あの感覚が懐かしいよ。君は、おぼえているかい?


誰もいない壁に向かい、話しかける。この前までは、人がいた壁に。今はもう……

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