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感覚  作者: 朱雪藍
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其の二

僕はいま、生きている。

感覚が、あるから。

息をしていて、手でものをつかんでいて、それを体に押し付けたときに、触った感覚があるから。


人が自分に関係することをしているのを見たり、聞いたりすると、「生きている」という感覚が戻ってきた。

何を言っているのかわからないと思うので、わかりやすく言おう。

例えば、友達と喋った時に「こいつと喋っている=生きている」と思ったり、親が料理しているのを見て「この料理を食べることが出来る=生きている」と感じるような奴だったんだ。


ちょっと前までは、そうして生きている感覚を味わっていた。


今は一人暮らしをしている。ご近所づきあいもなく、友達もいない。


つまり、生きている感覚がないんだ。毎日毎日、同じ日の繰り返し。本当に生きているのか、よくわからないんだ。コンピューターに入っている予定を毎日毎日飽きずに繰り返しているような、ロボットみたいだ。


でも、僕は人間なんだから、そんなのは嫌だ。もう一度だけでも、「生きている」感覚を味わいたい。誰かと同じ空間で、喋りたい。同じ器のおかずを分け合いたい。家族とか友達みたいに親しく接さなくていいから。別に日常会話だけでいい。そうじゃなくても、道を歩いているときに肩がぶつかってしまって、「あ、すみません」というだけでもいい。それなら「ぶつかった」「喋った」二つ分の感覚があるから。


人じゃなくてもいい。タンスが喋れたら、小指をぶつけたときに「おいおい、またかよ。大丈夫か?俺だって痛いんだから、気をつけろよ。」みたいなことが出来るから。冷蔵庫でもいい。「最近、肉とか野菜とか買ってないみたいだけど、バランスよく食べなきゃダメだよ。」みたいな。


布団もいいな。「今日も一日お疲れ様。私の中であったまってね。」みたいな感じ。

時計もいい。「おーい、あと少しで寝坊するぞ!起きろー!」みたいな。


最初の方はうるさく思うかもしれないけれど、きっと楽しいだろうな。毎日感覚を楽しめそうだ。



でも、そんなのは所詮、おとぎ話の中の世界に過ぎない。現実の僕は一人で、家具が喋ることも無い。



そうだ。あれなら、自分一人でも感覚があるかもしれない……


コンビニに行き、目当てのものを買う。なるべく怪しまれないように、他のものも一緒に買って。


家に帰り、さっき買ったものを取り出す。


カチカチカチ


この音を聞くのも、久しぶりだな。まあ基本使うのはハサミだから仕方ないんだろうけど。


右手に持ち、深く深呼吸をする。

左の手首に当てて、軽く右手を動かした。

僕の皮膚は簡単に裂け、緋色の液体が出てくる。


ああ、この感覚だよ。なつかしいな。

血が出た。ということは、自分の中を血が巡っている。つまり、


僕は生きている。


そういえば、君にもこれを使った方が良かったかもしれないな。

素手なんかじゃなく、こっちを使えば、もっと苦しんで僕を呪っただろうから。

世界を、僕を憎んで死んでいっただろうから。


今はもうこの部屋にはいないけれど、君がいたころを思い出すな。あのあたりに、動かなくなった君を座らせてたっけ。

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