第七話:できなかったので眠れなかったけどサイクロプスを退治する俺
朝になった。
俺は結局、眠れなかった。
信じられないが、眠っていないから、昨夜のことは夢ではない。
隣にはマリアが裸で眠っている。
綺麗な横顔だ。
美しい。
もう離したくない。
しかし、ショックなこともあった。
肝心なものが立たなかったのだ。
緊張し過ぎていたのかもしれない。
なんせ初めてだったので。
もう少しだったんだがなあ。
しかし、マリアは落ち込んでいる俺に、
「気にしなくていいですよ」と言ってくれた。
ああ、本当に優しいなあ。
マリアが目覚めた。
俺の顔を見て微笑む。
「お、おはよ」と例によって俺がきょどっていると、
マリアは顔を近づけ、俺の頬にキスをした。
やっぱり夢じゃなかった!
ボリスが珍しく真剣な顔をしている。
「今日の依頼はちょっと難しそうなんだ」
どんな依頼なんだという顔を俺はした。
「サイプロクスだ。一匹だけど。一つ目の巨人だよ、大丈夫か」
はっきり言って、今の俺には勝てない相手なんていないくらいだと俺は思った。
俺はゆっくりと自信たっぷりにうなずいた。
「そうか。じゃあ、いくぞ。いざと言う時は俺も手伝う」
お前は、いざと言う時は真っ先に逃げ出すんじゃないのかね。
目的地まで馬車で行く。
荷台で俺の隣にはマリアが座った。
ぴったりと体をくっつけてくる。
ああ、幸せだなあ。
スヴェトラーナが後ろを向いて、ちらっと俺たちの方を見た。
冷やかすかと思ったが、何も言わずに顔を戻した。
目的地に到着した。
東のカクヨーム王国との国境を超える寸前の街道にサイクロプスが一匹現れて、通行不能になっているそうだ。
少し離れた場所に馬車を止める。
「じゃあ、マリア、お願いするよ」とボリスが声をかけた。
「わかりました」とマリアが俺の方を見て、にっこり微笑む。
俺は、相変わらず緊張している。
昨夜と同じだ。
マリアがゆっくりと近づいてくる。
俺の体に両手をからませる。
昨日よりもさらにきつく俺を抱きしめる。
昨日よりも長々と俺の胸に顔をうずめて、左右の頬を擦りつける。
その後、軽くキスをしてきた。
ボリスとスヴェトラーナが怪訝な顔をしている。
「お前らいい仲になったのか。まあ、いっか」とボリスが言った。
俺は倒れそうだ。
耳元でマリアが俺に囁いた。
「今夜は頑張ってくださいね」
俺は陶然として、マリアの呪文を聞きながら、眠りに入った。
気が付くと、俺は横になって、マリアが覆いかぶさっている。
全身を密着させている。
手は俺の額に。
「お疲れさまでした」と再びキスをしてきた。
「おいおい、あんまり見せつけんなよ」とさすがのボリスも呆れたような顔をする。
スヴェトラーナは何も言わずに、不審な表情で黙っている。
立ち上がると、俺は血まみれ、マリアの顔や服にも付いている。
「す、すみません」とマリアにあやまるが、
「全然大丈夫ですよ」と微笑む。
優しいなあ。
すっかりいい気分になって、ふと街道の方を見ると仰天した。
背の高さが俺の三倍はありそうなサイクロプスが十匹も死んでいる。
「サイクロプスが十匹も現れて、正直、軍隊でも呼びにいこうかと思ったよ。いやあ、今日のお前は一段と凄かったぞ。あっと言う間にこんなでかいモンスターを十匹も倒してしまうんだから」とボリスに褒められた。
帰りに馬車の荷台で俺とマリアはずっと抱きついている。
もう、ボリスやスヴェトラーナの視線も気にならない。
この世は天国だ。
さて、お待ちかねの夜だ。
マリアはさっさと服を脱いで俺のベッドに滑り込んでくる。
清楚だと思っていたが、積極的だなあ。
実に素晴らしい。
女性の体は柔らかくて、抱いていて本当に気持ちがいい。
しかし、何という事か。
また役に立たない。
どうしよう。
しかし、マリアは、
「気にしないで。私はあなたと一緒にいられるだけでいいんです」と言ってくれた。
天使のようだ。
マリアの顔を見ながら、どもりつつ言った。
「き、綺麗だ」
「本当に」とマリアが微笑む。
「ほ、本当に綺麗」
「ずっと私だけを見ててくれますか」
「も、もちろん」
「私だけを愛して」
「き、君だけを愛するよ」
「約束してくれますか」
「や、約束する」
「あなたは私だけのもの」
「うん」
抱き合って眠りについた。