第六話:オーク退治で疲れたので眠れると思ったらマリアが全身で回復してくれるので眠れない俺
朝、目覚めるとボリスがいつの間にか、目の前のソファに座っていた。
マリアはすでに部屋に戻っているようだ。
俺の顔を見て、ニヤニヤしてやがる。
ボリスがいきなり、
「お前、マリアに惚れたんだろ」と言いやがった。
そんなことないと言おうとして、
「そ、そ、そ」と俺がどもっていると、
「まあ、美人だし、胸もでかいしな」といやらしく笑う。
こいつ、マリアを狙っているのか。
スヴェトラーナという恋人がいるのに。
兄でも許せん!
という考えを、俺の表情でまた読み取ったのか、ボリスが顔を俺に近づけて、
「安心しろ、マリアにちょっかいをかける気は無いよ。あの女は俺のタイプじゃないんでね」と言いやがった。
本当かよと思っていると、
「いいか、ああいう大人しそうな女の方が、つきあうとけっこう面倒なんだぞ。少し慎重になったほうがいいと思うがな」と言ってボリスが立ち去った。
例え面倒でも、あんな美女ならつきあえるだけで嬉しいぞ。
今日の仕事は、豚の顔した獣人オーク退治。
例によって、馬車の荷台にマリアと一緒に乗る。
昨日と違って、今日のマリアは俺の方を向いている。
微笑みながら、じっと俺を見ている。
俺はなぜか目をそらしてしまう。
何か会話をしたいのだが、また何も言えずに、目的地に着いてしまった。
宿屋から離れた村。
オークがたびたび襲撃してくるそうだ。
「じゃあ、マリア、お願いするよ」とボリスが言うと、
「その前に、一言いいですか」とマリアがスヴェトラーナに顔を向ける。
「何よ」とスヴェトラーナが怪訝な顔をする。
「アントンさんに昼行灯と言って馬鹿にするのは、もうよしてくれますでしょうか。仲間なんですから」と毅然な態度を取る。
「ば、馬鹿になんかしてないよ!」とスヴェトラーナがうろたえているが、
「黙りなさい!」と一括する。
カッコいい。
スヴェトラーナは、
「わかったわ。もう言わない」と言いながら憮然とした顔をしている。
ざまーみろ、性悪女。
さて、例の呪文をマリアがかけてくれる。
マリアが近づいてくる。
両手を俺の体にからませる。
昨日よりもゆっくりとした動作だ。
まるで俺の体を撫でまわすように触ってくる。
昨日、こんなに触ってたっけ。
ぎゅうっと俺の体に抱きつく。
なぜか俺の胸に長々と顔をうずめる。
緊張する俺。
耳元で、
「今日も頑張ってくださいね」とマリアが小さく囁いた。
吐息を耳に吹きかけられ、俺は陶然とした気分になる。
マリアが呪文を囁く。
俺は眠りに落ちた。
気が付くと、目の前にマリアの美しい顔がある。
俺の額に手をあてているが、昨日と違って、なぜか顔をものすごく近づけている。
「お目覚めですか」とマリアが言う。
「は、はい」俺はドキドキしながら、立ち上がった。
地面には細切れの肉片が散乱していた。
どうやらオークたちの死体らしいが、グチャグチャでわけがわからない。
自分の服を見ると、オークの血で真っ赤に染まっている。
「やあやあ、またまたご苦労さん。オーク三十匹。あっという間に倒したな。けど、すでに死んでいる奴まで切り刻むことはないだろ。相手がモンスターとはいえ、今度からはやめとけよ」とボリスに言われた。
眠っているんだから、しょうがねーだろ。
とは言え、マリアがいるので、また張り切ってしまったのか。
マリアに嫌悪されないかと心配になった。
宿屋に戻る。
オークの血で汚れた冒険服は洗濯したので、俺は下着姿でベッドで寝ることにした。
今日も眠っている間に体を酷使したのか、疲れている。
三十匹のオークが相手だったからなあ。
それもグチャグチャに切り刻んでいたようだから。
今夜はゆっくりと眠れそうだ。
隣のベッドにいるマリアに声をかけた。
「きょ、今日はすみませんでした」
「何がですか」とマリアがきょとんとする。
「あ、あの、モンスターを退治するとき、そ、そのやり過ぎたことです」
「いえ、別に。むしろかっこよかったですよ」
かっこよかった。
マリアが俺のことをかっこよかったと言ってくれた。
今夜も眠れなくなりそうだ。
「それより、お体の方は大丈夫ですか。疲れていませんか」
「え、あ、ちょ、ちょっと疲れてますね」と俺が答えると、
「そうですか」とマリアがベッドから立ち上がる。
お! また回復魔法をしてくれるのかと期待していると、
「今日のあなたも、とても素敵でしたわ」とマリアがスッとナイトウェアを脱ぎはじめた。
仰天する俺。
スルっと服が床に落ちる。
窓から入ってくる月明りの中、一糸まとわぬ姿のマリアがいる。
これは現実だろうか。
俺が完全にきょどっていると、
「私の全身で癒して差し上げましょう」とマリアが微笑みながら、全裸のまま俺のベッドに滑り込んでくる。
マリアが俺の体の上に被さる。
心臓麻痺になりそうな俺。
「この衣服が邪魔ですね」と俺の下着をゆっくりと脱がせるマリア。
俺、回復どころか、死んじゃうんじゃね。
マリアが俺の体に絡みついてくる。
「今日のあなた、とても刺激的でしたわ」と耳元で囁く。
その時、タイミングが良いのか悪いのか、隣の部屋で例の夜の運動会が始まった。
ベッドがギシギシする音、喘ぎ声、嬌声が今夜はいつも以上に大きい。
「私たちもしましょうか」とマリアが言った。
「へ?」俺の頭、真っ白。