第五話:マリアと同じ部屋なので眠れない俺
宿屋に戻ると、問題が起きた。
マリアのためにもう一部屋借りようとしたが、もう満室だった。
今、二人部屋を二つ借りているので、俺と兄貴のボリス、スヴェトラーナとマリアで男女別々になるのが妥当だが、スヴェトラーナはボリスと一緒の部屋に居たいと言い張った。
夜の試合がしたいんだろうな。
お盛んなこって。
必然的に、マリアは俺の部屋で寝ることになった。
「す、すいません。ス、スヴェトラーナがわがままで」ときょどりながら、小声でマリアに俺は謝ったが、
「別に気にしていませんよ」とマリアはにっこりと微笑む。
素敵だなあ。
ますます思いがつのる。
つのるだけで、何も出来ないけど。
夜、マリアがナイトウェアに着替えるので、俺は廊下に出ていた。
「もう、かまいませんよ」とマリアが部屋の扉を開けた。
マリアは白い薄手のワンピース、その上に黒いロングガウンを着ているが、胸が大きくて谷間が見える。
それだけで、俺はドキドキしてしまう。
思わず、目をそらしてしまった。
俺が部屋に入ると、ボリスが後ろから続けて入って来た。
「遅れてすまんな、今日の分け前だ」と言って、まずマリアに金を渡す。
マリアは、
「ありがとうございます」と深々と頭を下げたので、胸の谷間が見える。
ボリスはマリアの胸をいやらしそうな目で、じっくりと見てやがる。
このスケベ兄貴め。
続いて、「ほら、お前の分だ」とボリスがまた顔面に投げつけると思ったので、顔を腕で防御した。
しかし、次の瞬間、股に激痛が走った。
ボリスの奴、俺の股間に投げつけやがった。
「いつも顔面狙うわけないだろう、本当に鈍くさい奴だな、ガハハ!」と笑いながら、ボリスは戻っていった。
あの野郎! ぶっ殺してやると股間を押さえてうめいていると、
「あの、相当痛いみたいですね、治療いたしましょうか」とマリアが俺に近づいて来た。
「え、はあ」と俺が戸惑っていると、マリアが俺の股間に手をかざす。
ちと、恥ずかしい。
しかし、痛みがスーッと消えていく。
おまけに何か気持ちがいいぞ。
やばい。
大きくなりそうだ。
と焦っていたら、治療は終わった。
何となくホッとしたというか、もっとしてほしいというか、複雑な気分になった。
夜、マリアはさっさとベッドで眠ってしまったようだ。
男と一緒の部屋なのに気にしていないのか。
俺が夜中に襲ったらどうする気だろう。
もちろん、俺にそんな勇気はないが。
うぶなのかね。
それとも、俺のことを男と思っていないのか?
眠れん。
不眠症気味でもあるが、すぐ隣のベッドに美女が寝ていると思うと悶々とする。
そんな時に、隣の部屋で例の夜の恒例行事が始まった。
隣の部屋から、ベッドがギシギシ鳴って、喘ぎ声が聞こえてくる。
やばいなあと、マリアの方を見るが眠っているようだ。
嬌声が段々と大きくなる。
うーん、我慢出来ん。
俺は部屋をそっと出た。
宿屋の一階のロビーのソファに座る。
すぐ近くに美女が寝ているのに、隣の部屋であんな声が聞こえてきたら眠るに眠れん。
今夜は、このソファで寝るしかないかな。
そう考えていると、人が近づいてくる気配がした。
振り向くとマリアが立っていた。
薄い生地のナイトウェア姿で。
「あの~ソファに座ってよろしいですか」とマリアが俺に聞く。
「は、はい」としか答えられない。
マリアが向いのソファに座った。
ナイトウェア姿。
薄暗いロビーでも、でかい胸が目立つ。
きょどっている俺。
「なんだか、その、お隣の部屋から音が聞こえてきて、眠れなくて部屋を出てきてしまいました」
「は、はあ」やっぱりマリアにも聞こえていたんだな。
沈黙が流れる。
何か話さないと。
「あ、あの」
「はい」
「ヒ、ヒルアンドンってどういう意味か知ってますか」と俺はマリアに聞いた。
前から、スヴェトラーナにそう呼ばれているのだが、どうも気になっていたからだ。
「え、知っていますが……」とマリアがなんとなく困った顔をしている。
「言ってよろしいんですか」
「は、はい」
「古い言葉なんですが、ぼんやりした人を馬鹿にしていう言葉です……」
「……」俺は黙ってしまった。
スヴェトラーナの奴、親しみを込めて呼んでいたとか言ってたが、やっぱり俺のことをバカにしてやがったんだな。
クソー! あの性悪女め!
「あの~」とマリアが俺に何か言いたげな顔をする。
「は、はい」
緊張する俺。
「私の方から、スヴェトラーナさんに言っておきましょうか。そんな酷いあだ名で呼ぶなって」
「あ、はい」
優しいなあ。
「今日は凄かったですね」
「え?」
「モンスターを退治したときです」
「こ、怖くなかった?」
「……いえ、素敵でした」
素敵、マリアが素敵と言ってくれた。
天にも昇る気分だ。
あんまり舞い上がったので、ソファで眠ってしまった。