第三話:オーガを退治するため無理矢理眠らされる俺
翌日、またモンスター退治に出発した。
今日は洞窟の奥に潜むオーガというモンスターだ。
頭に角が生えていて、武器は棍棒。
依頼では一匹だけ。
但し、オーガってのは体が人間の二倍はあるようだ。
少し危険だな。
危険と言っても、眠っているから危険を感じることさえ出来ないが。
朝、薬を飲んで出発した。
洞窟につく頃には眠っているだろう。
後は、ボリスが俺をおぶって、洞窟の中に入りオーガが現れるのを待つ算段だ。
洞窟の入り口に到着した。
しかし、眠れない。
全然、頭が冴えている。
どうやら薬が効かなくなったようだ。
「おい、アントン! てめえ、まだ起きてんのかよ!」とボリスが怒る。
「さっさと眠りなさいよ。起きてたらただの役立たずなんだから、あんたは」とスヴェトラーナにも文句を言われた。
二人に怒られ、きょどってしまう俺。
声がなかなか出ない。
「も、もう、く、薬が効かなくなった、ね、眠れない」と何とか説明するが、
「はあ、そんな甘えた事言ってんじゃないわよ! この役立たず!」とスヴェトラーナにいきなり往復ビンタをくらう。
このクソ女!
しかし、反撃する勇気が無い。
「しょうがねえなあ」とボリスが手の指をボキボキ鳴らせて近づいてきた。
何をしやがるんだと思っていたら、
「おら、さっさと眠れ!」と顔面を思いっきり殴られた。
俺はあっさり気絶して倒れた。
気が付くと洞窟の中に横になっていた。
小さいランプが側に置いてある。
立ち上がると、まだ殴られた頭が痛いぞ、クソ兄貴め!
いや、体中が痛い。
全身を打撲しているようだ。
痛みを我慢しつつ、ランプで周りを照らしてみる。
俺は腰を抜かした。
巨大な空間に、オーガが三十匹くらい血まみれで倒れている。
依頼では一匹のはずだったのだが。
さすがに眠っている時は最強の俺も、三十匹のオーガには手を焼いたようだ。
体中が痛いのはオーガの棍棒による攻撃を受けたためだろう。
周りを探すが、ボリスとスヴェトラーナが見当たらない。
あいつら逃げやがったな!
兄貴たちは、一匹と思っていたオーガが三十匹も現れたんで、ビビッてトンズラしやがったに違いない。
ランプでいろんな箇所を照らすと出口が何か所もある。
洞窟の入り口で気絶して、その後、この空間に放り込まれたんで、どうやって帰っていいかわからない。
本当に全身が痛いぞ。
本物の出口を探す気力も無い。
仕方が無いので、地面に座り込む。
ったく、ひどい兄貴だ。
弟見捨てて、逃走かよ。
しかも、洞窟の奥に放置して。
最低だ。
どれくらい時間が経ったのか?
薄暗い洞窟で、油が足りなくなったのか、ランプが消えそうになってきた。
起きている時は気が弱い俺がオロオロしていると、やっとボリスとスヴェトラーナがやって来た。
「おお、すげーな。こんなにオーガが現れたのかよ」と兄貴が血まみれで死んでいるオーガの大群をランプで照らしながら、俺に声をかけた。
「わー、凄い、三十匹はいるわ」とスヴェトラーナも言っている。
こいつら、わざとらしく驚いたふりをしてるに違いない。
多分、俺のことなんて放っておいて全速力で逃げたくせに。
俺はやっと声を出した。
「に、逃げたんだろ!」
「はあ、何言ってんだよ、眠っているお前をここに置いて、他の洞窟を探索していたんだよ。そしたらちょっと迷ったんだ」と兄貴はぬけぬけとウソをつきやがった。
「逃げたって証拠がどこにあんのよ!」とスヴェトラーナに言い返される。
眠ってたんだからわかるわけない。
チキショー!
「じゃあ、仕事も完了したことだし、帰るか」とボリスが言った。
俺は全身が痛くて、動けなくなった。
「体が痛い……」と呟く。
「なんだ、ケガしたのか。しょうがねーな」と兄貴が俺をおんぶして運ぶ。
「だらしないわねー」とスヴェトラーナが嫌味を言う。
「全く、ダメな弟を持つと兄は苦労するぜ」とスヴェトラーナに笑いかけるボリス。
ふざけんな、コノヤロー!