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眠り剣士  作者: 守 秀斗
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第一話:眠っていると最強、起きていると最弱な俺

 目覚めると、草の香りがする。

 俺は草原に横たわっていた。

 空は真っ赤な血に染まったような夕焼けだ。

 陽が西の空に落ちようとする時、俺は立ち上がった。

 血まみれの剣を持った俺の影が長く伸びている。

 草原には、ゴブリンの死体が二十匹転がっていた。

 どのゴブリンも一撃で倒されている。

 凄い腕前の剣士だな。

 まあ、俺がこのゴブリンたちを倒したんだけど。

 ただ、俺自身は見てないんだよなあ。


「やあ、ご苦労さん。今日も剣が冴えわたっていたな、アントン」と男が話かけてきた。

 兄貴のボリスだ。

 職業は剣士。

 なぜか剣を二本、腰の左右に差している。

 二刀流か?

 しかし、兄貴がモンスターに剣を振るっているところを見たことは、ほとんど無い。

 二本差しているのは、カッコつけているとしか思えない。

「お疲れ様、ヒルアンドン。さあ、さっさと引きあげましょう」と次に声をかけてきたのが、スヴェトラーナ。

 ボリスの恋人だ。

 職業はシーフ。

 泥棒だ。

 しかし、こいつもまたシーフらしいことをしているのを、俺はほとんど見ていない。

 そして、なぜか俺のことをヒルアンドンと呼ぶ。

 ヒルアンドンとはどういう意味だと聞いたことがあるが、特に意味は無く、親しみを込めてそう呼んでるそうだ。

 その割には、あまり俺とは親しくしようとしないけどな。

 俺のことをバカにしたような目でよく見る。

 派手な顔した美人だが、性格悪そうな女だ。


 俺は、剣と魔法の国、ナロード王国の冒険者だ。

 職業は兄貴と同じく、剣士。

 兄貴のボリスとその恋人のスヴェトラーナ、この二人と一緒に三人のパーティーで、いつも行動している。

 俺には特技がある。

 いや、特技と言うか、特異体質と言うべきか。


 俺はかなりの腕前の剣士らしい。

 ボリスが言うには、ここら辺の冒険者で俺に勝てる奴はいないとのことだ。

 しかし、俺自身はそのかなりの腕前という剣さばきを見たことが無い。

 なぜなら、剣を振るっている時、俺は眠っているからだ。


 俺が剣の実力を発揮できるのは眠っている時だけなのだ。

 起きている時は、ほとんど何も出来ない。

 はっきり言って、俺はもの凄く気が弱い。

 最弱のスライム一匹相手でも、剣を抜かずにビビって逃げてしまう。

 猫を触ることも出来ない。

 人と喋るときは声がなかなか出せない。

 どもってしまう。

 声も小さい。


 眠っていると最強。

 起きてると最弱。

 しかも、不思議なことに眠っているのにどうやって判断しているのか、敵だけを倒す。

 味方や関係無い人には手を出さない。

 眠っている時に、敵が来ると動き出すらしい。

 そして、敵をやっつけると、また横になって寝る。

 少し経つと起きて、いつもの気の弱い俺に戻っている。

 なぜそうなるのかは、俺にもわからない。

 人に聞かれても、ただ、そうなんだからとしか答えようがない。


 俺は草原の横にある、土の道に停めてあった馬車の荷台に乗った。

 御者台にはボリスが手綱を取って、隣にスヴェトラーナが乗った。

 宿屋のある村へ向かう。

 この草原には徒歩でも行ける距離なのだが、俺が仕事の前に眠ってしまう時は、目的地まで運ぶこともあるので、いつも馬車を使用している。

 村が近づいてきた。

 汚い泥の川が流れており、その橋の上を通って、坂道を登って村に到着した。


 村に到着し、冒険者ギルドに寄った。

 兄貴を先頭に俺たちが入ると、中にいる連中の表情にさっと緊張感が走った。

 コソコソと逃げ出す奴もいる。

 どうも、俺は周りから相当に凶暴な奴と思われているらしいのだ。


 以前、モンスター退治から戻って来た際に、俺は村の広場に停めていた馬車の荷台でまだ眠っていた。

 その時、偶然、盗賊の集団が三十人くらいで村を襲撃して来たらしい。

 俺が気が付くと、そこら中、血糊で真っ赤に染まっていた。

 十人くらいの盗賊を俺が倒したようで、残りは逃走したらしい。

 広場の光景を見て、俺自身が仰天して気絶しそうになった。

 盗賊の死体が首も手足も胴体もバラバラになって、広場に転がっていた。

 俺は眠ったまま盗賊たちを片っ端から、鬼の形相で叩き斬っていたらしい。

 村人たちは、襲ってきた連中より俺の方が怖かったようだ。

 実際の俺、と言うか起きてる時の俺は、小さい子供と喋る時ですら、きょどってしまう臆病者なんだが。


 そういうわけで、冒険者ギルドの中はやばい雰囲気になっているのだが、兄貴であるボリスの野郎はニヤついた笑顔でギルドの主人に声をかける。

「依頼の件、ゴブリン二十匹を退治した。報酬を用意してくれ」と何だか大物ぶった感じでカウンターに片肘をつく。

 そして、

「おい、アントン! これを持ってスヴェトラーナと宿屋に先に行ってろ!」と偉そうに命令しながら、荷物の鞄をいきなり俺の顔に向けて投げつけやがった。

「痛!」

 顔面で受けてしまった。

「ダサ~い」とスヴェトラーナがケタケタと俺を嘲笑う。

 むかついたが、俺は不承不承従った。

 凶暴と思われている俺を下僕のように扱うのを、他人が居る時にわざと見せつけることをボリスはよくやる。

 そのためか、ボリスは俺以上に恐れられていて、剣の実力も相当なもんだと周りから思われているらしい。

 実際のところ、ボリスの剣技がどれくらいか知らない。

 大したことはないだろうとは思うが。

 武器の剣は二本とも、いつも腰に差したまんまだからな。

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