とある暇人の前置き
ん?ここに本があるね。最初だけ読んであげようか。
え?興味ないって?そんなこと言わないでよ、暇つぶしだと思って、さ。
ある世界に、世界を脅かす魔王が現れた。
その世界の国々はこぞって勇者を擁立した。
勇気をもってして魔王を打ち倒す者。そのような偉業を成し遂げた者を擁する国は、すなわち世界を救うきっかけを作った国だ。その国の立場は大きく上がり、全世界に幅を利かせることができる。
そんなことを微塵も知らない若き勇者たちは、人々を助けるために死力を尽くした。
そんな勇者たちにあこがれた少年少女たちは、自らも勇者となるために村や国を飛び出し、まものを狩ったりしていた。
そしてある時、一つの勇者パーティが現れた。そのパーティはどの国からも擁立されていない、どの国からも注目されていなかったパーティだった。勇者と忍者は身元が分からず、魔法使いは港町の無名の研究者、賢者は元服して幾ばくもなく、そして戦闘のできないメイドと道具使いを含んでいた。そして驚くことに、そのパーティを中心となって作り上げたのは道具使いだというのだ。
そのパーティは、いつの間にか現れ、だれが知るともわからない小さな仕事ばかりをこなし、そして気づくと魔王を倒していた。
ああ、あの青年か。どうせだったら、本に書いてないことも話したほうがおもしろいよね。
さて、神話となった平凡な青年の話をしよう。
と、いっても僕はきれいな部分だけを話すつもりはないけどね。きれいな部分も、汚い部分も、彼の大切な物語の一部だからさ。そして、彼の物語は、彼を取り巻く愛し合う者たちの話でもあるんだ。いわば、愛の話だね。
プライバシー?知ったことじゃないよ。彼らの冒険を面白おかしく洗いざらい消費してやろうじゃないか。
…そんな不快そうな顔をしないでくれよ…。
いやだって言ったって話すからな!