有彩色の朝を迎えた僕は:2
気づいたら僕は、あの場所に来ていた。
僕と彼女が初めて会った、あの場所に。
月は満月で、途方に暮れる僕を嘲笑するかのように小さな光を世界に浴びせていた。
―――もう、クリスがいなくても大丈夫だよね、エイジ。
あの嬉しそうで悲しそうな声が、いまだ僕の耳に響いている。
「大丈夫なわけ、ないだろ…」
自分の中の重大な何かが失われた虚無感に、僕は目をつぶる。少しは色づいてきたと思った世界が、急速にモノクロとなってゆく。それが僕には耐えられなくて。
彼女は幻覚だったのか?
僕が作り出した体のいい妄想だったのか?
それすらも僕にはわからない。
ああ、この感覚は、あの時の。
ここで死のうと思った時の感覚と同じそれだ。
僕は迷う。
今この場で自らの命を絶てば、クリスの思いを、存在を、踏みにじることになるのではないか。
…たとえそれが、自分が作った虚像であったとしても。
「もう…考えるの、面倒くさいな…」
結局は、そんな投げやりな結論に達してしまう。
死んだあとは、そんなこと考えなくてもいいさって。
「…じゃあね」
その別れは世界に向けたものだったのか友人たちへ言いたかったものか、あるいは自分自身へ告げたものだったのか。…クリスへの、決別か。
多分、全部だ。
――。
―――ジ。
――――――エイジ!!
「―――――――――ッ!! 」
誰かの声が聞こえた気がして、はっと我に返り、血がにじむほど強く握っていた手のひらを見た。そしてその手を、ポケットの中に無造作に突っ込む。そこに、声の主がいる気がした。
むろん人間などが出てくるはずはない。代わりに出てきたのは、充電が切れかけた携帯電話。
それに、一通のメールが届いていた。
「画像…? 」
何も書かれていない無題のメールには、ただ一つ、何かの画像が添付されていた。
つばを飲み込んで、それを開く。
「――――――あっ、こ、これッ…! 」
そこには、本物があった。みんなで撮った記念写真。僕と晃と、美羽里、香奈。
そして、もう一人。
「……クリス…! 」
白い髪をした、小さな少女。
彼女は、やっぱりそこにいたんだ。
***
僕はそれから、赤くなった目をこすって携帯を閉じた。
雲で隠れようとしている、月を見上げる。
あの写真を、心の中で思い出す。
「…大事なものが、ひとーつ。大事なものが、ふたーつ。大事なものが、みーっつ」
気づいたら、いつの間にか、大切なものがふえていて。
「大事なものが…ああ」
気づいたら、いつの間にか、幸せだとか、感じるようになっていて。
「……数えきれないな」
気づいたら、いつの間にか、生きる理由がふえて…いや。
「ありがとう、クリス」
生きたいと、思えるようになっていた。
きっと、彼女は。
――――――そして、世界は色づいていく。
彼女はきっと、今日もどこかで、笑っている。
ここまで読んでくださった方、誠に有難うございます。