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プロローグ

鷹尾だらりと申します。

アホな女神と元・物乞い眷属のお話です。

初日は一時間毎に1話投稿しますので、お読みいただければ幸いです。

 感覚がない。

 先程までの猛烈な寒さも、一周回って熱を帯びた体の芯も。

 全ての感覚がない。

 

 圧倒的な虚無。

 本能的に何かにすがり付こうと手を伸ばしても、そこには何もない。

 それどころか、手が見当たらない。

 足もない。瞼も、何もかも。


 体その物が、すっかり消え失せていた。


『一緒に歴史を創るのよ!』


 呆然と、成す術もなく。

 自分の存在さえもゲシュタルト崩壊を起こしそうな虚無空間。

 そこに響く、ハツラツとした声。


(俺、なんでこんな事になってるんだっけか……)


 その答えは、俺の意識が覚醒する前まで遡る。




 ◇◆◇




 いつの頃からだったか。

 世界の全てが灰色に見えた。

 ほんの2、3年前までは好きだった冬の景色も、今では大っ嫌いになった。


 町往く人は互いに無関心。

 道端に老婆が転ぼうと、その横を素面で通り過ぎる。

 苛立ちを隠そうともせず、舌を叩く者さえいる。


 俺が生きる、冬の町。

 いや、延命させられていると言った方が正しいか。

 俺が生きてる意味なんて、ありはしないのだから。


 只今、絶賛無職ニート中……だけで済めばまだ良かったんだが。

 なんか、あの一人言呟く用の青いアイコンのサイトにでも呟ければよかった。

 「ニートなう」とか呟いとけば、とりあえず誰かしらが見るだろう。


 それでその後死ねば、あっという間にチーレム転生するラノベ主人公だ。

 羨ましい……。とは思わんが、少なくとも俺よかマシだろう。


「くっせ! 早よ死ねや!」


 情け容赦ない罵倒が、ナーバスな俺の頭上から降り掛かる。

 普通の状態で聞けば、反論の一つでもするだろう。

 殴り合いにだって発展するかもしれない。


 だがそんな屈辱的な言葉も、ここ数ヶ月ですっかり聞き慣れてしまった。

 いよいよ、自尊心まで無くなったらしい。

 人間的に終わりかね。



 俺は、俗にいうホームレス。

 17歳の家なき子。

 親の借金が膨らみ、一家は離散。

 しゃーなし住み着いた橋脚の下で、俺は野宿一年目の冬を迎えようとしていた。


 案外、なんとかなる物と思っていた。

 流されるままに、生きられると思っていた。

 だが、世間ってのは予想以上に厳しい。

 口ではわかっていたが、それを実感したのはホームレスになってからだった。

 誰も俺を見やしない。俺なんて、その辺の石ころと同義だった。


 毎日毎日ゴミを広い集めては小金をもらって。

 コンビニの裏に行って残飯漁って。

 ようやく見つけた残飯食って、それで腹壊して……。


 とまあ、思い出すも涙語るも涙。過去と現実のクソ話である。

 が、今はそれどころじゃない。

 比喩ではなく、俺は本気で泣いていた。


「寒、い……」


 もはや声は掠れ、漏れる言葉に力はない。

 ホームレス一年目の冬。

 ロシアよりマシとはいえ、着の身着のままで過ごすには、あまりにも寒すぎる冬。


 しばらく風邪が続いたかと思えば、どうもおかしい。

 なんて思いつつ惨めに過ごしてたら、ある日遂に血を吐いた。

 どうやら、俺は死んでしまうらしい。

 この場合は、凍死だろうか?


 薬もないし、雨は凌げても風は吹きっさらし。

 療養もできず、俺は今まさに死にかけている。


 だと言うのに、心は落ち着いていた。

 こんなどうでもいい、下らない一人語りだって出来る。

 人間、死ぬ前は不思議と落ち着くもんだ。


 よかったよ。「死にたくねぇ」なんて叫びながら死なずにすんで。

 いくら人として見られてなくても、プライドぐらいはあるしな。


「ねむ……」


 そろそろ、お迎えが来た感じか。

 ああ、ようやく、死ねる……。


 俺の頭上で喚き続ける声が、どんどん遠くなっていく。


(て言うかお前、まだいたのかよ……)


 最後に、頭上で喚く男の目を睨む。

 心なしか、男はたじろいで見えた。

 ざまあ。せいぜいトラウマになるがいいさ。


 さてさて、俺は死んでどうなるのかね。

 地獄の閻魔様にでも、泣いて情状酌量を乞おうかね。乞うのは慣れてるしな。


 ニヤリとほくそ笑み、俺は17年の人生と決別した。



 そう。俺は、死んだのだった。

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