第8話 方針会議
「実際、ミルキーちゃんが天使の笛を使うと魔王を倒せるのかね?」
「うーん、伝承では魔を祓う力って事ですからね。こちらの状態異常を防ぐような効果の方が可能性は高いですかね」
「ということは、ダメージは他で与えないと倒せないんだろな。ミルキーちゃんの力であっさり問題解決かと思ったけど、そんなに甘くはないかやっぱり」
「そうですね……」
四人パーティーになった俺達は、ミルムの宿屋の一室でこれからどうするか相談していた。
「魔王がどんどん国を滅ぼしてるってきいてるけど、魔王ひとりで暴れてるの?」
「最初のうちは魔王がひとりで町や村を襲っていましたが、魔王の魔力に集まってきた魔物を配下に加えてからは、城までも襲うようになっています。
厄介なのは、魔王と戦って倒された人間がアンデッドになって敵になる事ですね」
「それは……」
俺が言葉を失っていると、俯いたミルキーちゃんが呟いた。
「今まで仲間だった人が、死んで敵になるんですよね。頭では理解しても現実にそうなった時に戦い続けることが出来るか、正直わからない………」
サンキチくんも場面を想像したみたいでため息をついている。
「うーん、精神的につらいのもあるけど。事態はもっと深刻かもしれないよ。クリフトスさん、城を攻めた魔物と守備側の戦力ってどれくらいだったかわかりますか?」
「たしか、最近魔王に滅ぼされたハリサト王国は5000の兵が城を守っていましたが魔物のも同じぐらいだったのでハリサト王国軍は迎え撃って城外で戦ったと聞いてます」
「で……、敗れて城に籠城したが力及ばずって事ですかね?」
「ええ、そう聞いてますが何故わかったんです?」
「同数で開戦して、最初は王国軍が優勢だとしてもそれなりに被害はでますよね。魔物はそれいじょうに被害があっても、時間とともに戦力が増えていく……」
「どういうことですか?」
「そうか!死んだ兵はアンデッドになるからですよミルキーちゃん」
お、サンキチくん気付いたね。
「正解。つまりサンキチくんがチェスのルールで俺が将棋のルールで戦うようなもんだね、俺だけサンキチくんの駒を倒したら自分の駒に出来るって事」
ん?わかりやすく例えてみたけどクリフトスさんにはわからないか、しまったな。
まぁ、サンキチくんやミルキーちゃんには伝わるからいいか。
「すいません、チェスも将棋もやった事ないです。そういうもんなんですか?」
「私もルール全然知りません」
「えっ! 嘘、だれも知らないの?」
「はい」
なんてこった、折角かっこよく決まったと思ったのに。誰にも理解してもらえなかった、これはやはり年の差なんだろうな〜。
「そっか、いまの格好つけた下りは忘れてくれ。なんか恥ずかしいし」
「あはは……、まぁ例えがなくても言いたい事はわかりましたしね。大丈夫ですよ」
結局サンキチくんに励まされる俺、無念だ。
「圧倒的な大軍で、物量作戦でも出来るなら勝てるかもしれないけど、今のまま矢面になった国が迎え撃つ状態だと、どんどん敵がふえるんじゃね? 実際そこんとこどうなのクリフトスさん?」
「とりあえず、討伐連合軍を組織しようという動きはあるんですが。なかなか国どうしの話なんで纏まらないのが実情みたいですね」
「魔王も怖いけど、他の国が力を持つのも嫌。異世界っていってもかわんねーな」
なんか馬鹿馬鹿しくなるんですけど。気のせいじゃないよね?
って俺が呆れ顔をしていると、
「でも、だからといって魔王に殺される普通の人達を見殺しにはできません!」
だよね~。ミルキーちゃんならそう言うと思ったけど。
で、そういうのが嫌いじゃない俺。
「さすがはミルキー様、このクリフトス必ずやお役にたってみせます!!」
クリフトスさん、いつの間にか生まれたときからお世話してる執事みたいになってるよ。
そのあとも、紆余曲折あったがとりあえず数の力で魔王を何とかする方法はこの世界の国々の王達に任せるということにして、
俺達は少数による魔王単体への奇襲隠密作戦にて、魔王討伐を目指していこうぜ! イェイ! みたいなことで歴史的方針会議は落ち着いた。
「で、魔王を倒すことに方針は決まった訳なんですがどうやったら倒せるか誰か良い案ない?」
「ところで、皆さん召喚者さんですがどれくらいの魔物を倒せるんですか?」
「ゴブリン」
「……え?」
「ゴブリンとしか戦った事ないんです」
「ちなみに俺は樽しかない」
「え〜!! 相手は魔王ですよ魔王!! そんな………無茶だ」
「じゃ、やめる?」
クリフトスさん顔面蒼白である、そりゃそうだよね。
「このクリフトス、ミルキー様をお助けする事を誓った以上最後までお供いたしますよ!! ……けど、正直参りましたね」
「俺とサンキチくんがミルキーちゃんを守ってクリフトスさんが、魔王を倒すとかさ」
「いや、私もミルム聖堂一の魔楽士、そこそこやれる自信はありますが魔王をひとりで倒すなんてとてもとても」
「なんですか、そのあからさまな落胆の態度! 心外なんですけど」
「いやぁ、別に悪気はないんだけどなんだかね〜、サンキチくん」
「ですね〜、フミタロウさん」
「…っ! ま、まぁ良いでしょう。とりあえず明日から魔王に弱点がないかの情報収集をしてください。私は皆さんの魔王討伐強化プランをかんがえますんで」