第6話 おっさん、魚をどうするか考える
さて、商人の護衛(結局何も起こらなかったけど)ももうすぐ終わりである。ナミアさんの話では東の諸国へ繋がる街道へ入ったので、もう少し行けばミルムの町か見えてくるそうだ。
なるほど、ちらほらと他の馬車や旅装の人も見かける。
「ところでナミアさん、ミルムの町ってどんなところなの、大きな町?」
「町自体は別段大きくはないですよ。東西交易の街道沿いにある町なので旅人や商人が結構いますけどね」
「へぇ〜………、そうだ!! ならこの塩漬けにした大量の魚も売れるんじゃね?」
俺の方をみたミルキーちゃんが少し考えてから、
「旅人や商人の人が多いなら、保存食の干物とかにしたらよいんじゃないですか?」
そうか、干物か! それなら日持ちするし、かさばらなくて栄養もある、旅の食糧にもってこいじゃないか!
「魚の干物に、後は白いご飯と味噌汁があれば最高ですね〜」
「おぉ、わかってるねサンキチくん。この世界に味噌や米があるかは知らないけど、やっぱり日本人としてはその辺はゆずれないとこだね〜」
「で、誰か干物の作り方知ってる?」
「…………」
「…………」
「なんだよ。誰も知らなきゃだめじゃん」
いきなり企画倒れである。
このまま諦めるのもなんだし、俺はナミアさんに干物について知らないか聞いてみた。
「干物については、わかりませんが保存食にするなら燻製にしたらどうですか?」
「燻製か〜、それは思いつかなかった。よし、町に着いたら魚の燻製作りをやってみよう! ナミアさんよろしくお願いします」
ナミアさんも笑顔で了承してくれたので、俺達はとりあえず町に着いたら燻製作りをすることになったのであった。
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ミルムの町は、町の中央に立つ聖堂を中心にして建物が建ちならんでいる。
その昔、まだこの地が草原だった頃、病に倒れて死を覚悟した旅人の元に空から天使が舞い降りた。
天使が美しい曲を奏でると旅人の病はたちまち回復した。
「人の子よ、この笛を貴方に与えましょう。その音色は大いなる魔を祓う力を持ちます、聖なる力を持つものが現れる時までこの笛を伝え守ってゆくのです」
旅人は感激して天使を讃える聖堂をこの地に作る事を誓った。
聖堂を建てた旅人は、旅人達の治療や療養を無償で行い聖クラウドと呼ばれるようになった。
そしてその子孫は天使の笛を今も守り続けている。
「これが、このミルムの町の成り立ちの言い伝えです。天使の笛を模した笛の製作をする職人たちがギルドを作って互いに切磋琢磨している事から、ミルムの笛は『天使の吐息』と呼ばれて最高級の笛として有名なんですよ」
天使の曲か、音楽の素養はないけどどんなものか聞いてみたいもんである。
ちなみにタイラーさん達は、その笛の材料を仕入れてこの町へ売りにきたのだそうだ。
「とりあえず町に着いたし、護衛の仕事はこれで完了ですね」
「無事にミルムに着くことが出来ました、皆さんありがとうございました」
タイラーさん達が頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ結局何も起きなかったからタダで運んでもらっただけみたいで……、あはは」
「気にしないで下さい、何もなければそれが一番ですので。お礼の方は積み荷の取り引きが終わってからになりますので2〜3日かかります、手配しときますので宿屋で待ってて下さいね」
タイラーさん、なかなか出来る男である。
「わかりました、取り引き上手くいくと良いですね」
「ありがとうございます。皆さんも魚の燻製が上手く出来るとよいですね」
俺達は互いに握手をして、感謝の気持ちを交わしあったのであった。
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「ゲホッ、ゲホッ」
「うー、目に煙が入って涙が止まらない。」
俺達はナミアさんの協力を得て町の外で魚の燻製を作っていた、毛皮を使って小さなテントを作り中に魚の開きを吊るして、下から煙で燻すのである。
魚をさばいたり味付けしたりは女性陣にまかせて、男二人は燻し役である。
「大丈夫ですか、二人とも?」
「もうだめかも、ミルキーちゃん膝枕してからキスして」
「っ! 目が痛いのと全然関係ないし、ダメでしょ! 全く……」
「うるさいな、サンキチくん。軽い冗談だよ、冗談。あ〜、目が痛いし鼻水がとまんね〜、ナミアさん添い寝して」
「っ!! なに人妻にまでそんなこと言ってんですか!! 本当にエロオヤジですね」
ミルキーちゃんとナミアさんは苦笑いである。
「しかし、燻製にすんのも結構時間かかるもんだね」
「そうですね、やっと燻しですもんね」
下準備に1日半かかり、やっと燻しでいまから半日位である。
自分を倒すために呼ばれた召喚者がひたすら魚の燻製を作っていると聞いたら、魔王もビックリだろう。
「何を、作ってらっしゃるんですか?」
俺達がひと休みしていると、1人の旅人が近づいてきた。
「ちょっと、趣味で魚の燻製を」
「へぇ、魚の燻製ですかこのあたりは川がないから珍しいですね」
「まあ、初めてだから、味はわかんないけどね」
おれは肩をすくめて見せる。
「でも、それはそれでまた楽しみなんじゃないですか?」
「まあ、苦労してるから成功して欲しいけど世の中そんなに甘くないだろうしね」
「私は旅の楽士をしているクリフトスと言います、もしよかったら魚の燻製が完成したら少し売って頂けませんか?」
「ああ、別にいいけど味は保証しないよ?」
「それについては正直心配してないんですよ、何せさっきから良いにおいがしてますから。
魚はミルムではなかなか手にはいらないので、ありがとうございます」
完成予定時間を聞くとクリフトスは良い笛が売りに出されていないか見に行きたいので、また後でと言って去っていった。
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魚の燻製は想像以上の出来映えだった、ナミアさんの味付けが絶妙で隠し味のハーブみたいな香草がなんとも言えない深みを出しているのだ。
「おいしい〜。こんなおいしいお魚初めて食べました」
ミルキーちゃんが嬉しそうに食べるとナミアさんが、
「上手く出来てよかったです、失敗したらどうしようかと思ってましたが、これなら絶対売れますよ! 成功ですね」
俺達が、ご満悦状態のところにクリフトスが戻ってきた。
「完成したみたいですね〜」
クリフトスに焼いた燻製を味見に渡す、一口食べると目を見開いている。
「うまい!! なんですかこれ、すごく美味しいじゃないですか。いやぁこれは良いものを手に入れることができた、ありがとうございます。魚の代金とは別で、お礼といってはなんですがどうですか一杯やりませんか?」
「おお! 酒か気が利くね〜。飲もう飲もう」
俺とナミアさんは乾杯して飲みだしたが、ミルキーちゃんとサンキチくんは未成年だからと遠慮している。
大成功である。もう夕暮れだが焚き火を囲んでうまい魚を焼きながら酒を飲む。最高だな。
そのうち、クリフトスさんが笛を吹きはじめた。さすがに楽士さんだ、知らない曲だがその音色にみんな聞きほれている。
楽しそうに聞いていたミルキーちゃんが急に立ち上がった。
「クリフトスさん少し笛をお借りして良いですか?」
「ええ、構いませんよ」
クリフトスさんがにっこり微笑むと、簡単な吹きかたを説明する。
「ミルキーさん、笛なんかふけるんですか?」
サンキチくんが興味津々で聞くと、ミルキーちゃんはフルートを小さい頃から吹いていたそうだ。
へぇ、ミルキーちゃんってお嬢様ぽいよな。
何度か試しに音を出していたが、準備が整ったようでミルキーちゃんが笛を吹きはじめた。
名前は知らないが聞いたことのあるクラッシックの有名な曲だ、なかなかどころかかなり上手いと思う。
クリフトスさんが、真剣な顔で聞いている。
そのうちに懐からなにか取り出すと、ミルキーちゃんの前に宝石みたいな物をかざした。
何事かと見ているとその宝石がひかりはじめた。
え? 何あれ?
「これは、驚きました。あなたの曲には魔力がふくまれているのですね」
ミルキーちゃんが吹くのをやめて、不思議そうな顔をしている。
「あなたは自分の力に気がついていなかったようですね」
クリフトスは優しく微笑むと、
「皆さん明日私と共に聖堂へ来て頂けませんか? ミルキーさんの力を確認出来ると思いますよ」
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こんな、小説というのもおこがましい作品読んで頂きありがとうございます。
仕事の合間にコツコツ書いてますので、これからもよろしくお願いいたします。m(__)m