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第5話  おっさん馬車にゆられる

 成り行きから、商人の護衛をすることになった俺達はミルムの町を目指していた。


 馬車に揺られながらなので優雅なもんである。


 馬車には俺達と商人の家族、奥さんとまだ幼い子供が3人乗っている。子供達はゴブリンがよほど怖かったのだろう、出発してからもしばらくは泣いていたが今は泣きつかれてグッスリねている。


 子供の寝顔はどこの世界でも同じ、みんな天使のような顔なんだな。


 などと、1人でほのぼのしていたら。


 「あの〜、僕達この世界に召喚されたばかりなんで色々質問しても良いですか?」


 サンキチくんが商人の奥さん、ナミアさんに話しかけ初めた。


 「そもそも、魔王って何者なんですか? 俺達、名前すら聞いてないんですけど?」


 そうなんだよな。人間を滅ぼそうとしてる魔王がいて大変なんです、ってだけで情報がほぼゼロなんだよね。


 「魔王の名前は私も知りません。そもそもは大魔法使いがつくりだした、人にして人ならざる者だと言う話です」


 「人にして、人ならざる者?」


 「魔法使いが死者を甦らせようと、封印された死の沼の災厄、いにしえの邪なる蛇の精霊の力を利用したのが始まりだったと聞いています」


 「目が覚めた死者は、最初は寝たままで動くことも出来なかったのですが、魔法使いは必死で回復の秘薬や貴重な食べ物を与え続けたのです。


 少しずつ動けるようになった死者は、魔法使いに魔法薬の力だけでは自分はすぐにまた死んでしまう、私を助けてほしいと言い出しました。


 そして自ら魔法使いに食べ物を要求しはじめたそうです、私を愛するならば人の生き血や心臓を持ってきて欲しいと……」


 なんか、嫌な話だな〜、後味悪そうだ。


 「魔法使いは、愛する者を失いたくない一心でそれに答えてしまったのです。

 どんどん力を得て愛らしく綺麗になっていく死者と、毎晩町を徘徊して人をさらい狂気にやつれていく魔法使い……、そして力を取り戻した死者は魔王になったという話です」


 「私が聞いた話は、こんなかんじです」


 なんだか怪談を聞いた後みたいなかんじだ。


 「その魔法使いが生き返らせたかった死者っていうのは、誰だったんですか?」


 「さぁ、恋人、娘、母親、色々な噂がありますが、なにせその町は魔王に滅ぼされてしまいましたから」


 なんだか、みんな重い話にテンションが下がってしまっていた。


 「魔王……か、そんなのに勝つことを期待されて俺達は召喚されたんだよな」


 サンキチくんが、ボソッと呟いた。


 「でも、あんまり期待されている感なかったよな。とりあえず頑張って〜位にしか感じなかったけど、俺だけ?」


 俺は正直な感想を述べてみた。


 「私もそう思いました。王様も最後まで私達の前に現れなかったしなんだか期待されてない気がしました」


 どうやらミルキーちゃんも同じように感じていたらしい。


 「それは、多分あれですよ。良い加護の召喚者を期待しているんだと思いますよ。僕なんて魚釣りの加護がわかってから誰も目も会わせてくれませんでしたし」


 あの場面を思い出したのかなんだか泣きそうな顔をしているサンキチくん。


 無視はされるわ、ピクピクなるわ、なんていいキャラなんだ。サンキチくん最高だぜ。


 「ところで、召喚者って多いの?」


 俺は、ずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。


 「そうですね、魔王が現れてから満月の日には召喚の儀式が行われていますので。かなりの人数が今までに召喚されていると思いますよ。

 私達は行商人なので色々な町で人に会いますので他の召喚者の方に出会った事もありますよ」


 「やっぱりな、他にも結構な人数の召喚者がいそうな感じはしてたんだよな〜」


 召喚されてからずっともやもやしてた事がはっきりした。


 「それで、みんな魔王を倒す為に頑張ってるの?」


 さらに質問するとナミアさんの表情が険しくなる。


「もちろん、魔王を倒す為に頑張っている人達も多いのですが……、魔物に殺された人も多いですし、なかには魔王の強さに目的を諦めてこの世界で生活しているだけの人や、ひどい場合は野盗やゴロツキまで」


 なるほど、だから商人達は最初俺達を警戒していたのか。魔王も不気味だけど人間もこわいからね〜、納得。



 「とにかく、それだけ召喚者が呼ばれてもいまだに魔王が倒されてないということはかなりヤバイボスキャラなんだろうな。俺達マイナーパーティーとしては、あんまりかかわり合いたくないのが本音のところだな~。

 まぁ、それでも誰かがやらなきゃならない事だからとりあえず目標にはしないといけないか」


 俺がやれやれって顔でそういうと、ミルキーちゃんがそばで寝ている3人の寝顔を見ながら


 「そうですね、異世界といってもこの子達が生きている現実はこの世界なんですから私達に出来る事はしてあげたいです」


 その通りと、サンキチくんもうなずいている。


 「だな、それに魔王をなんとかしないと元の世界にも戻れないしな」


 少し悩んだ顔をしながら俺達の話を聞いていたナミアさんが、思い切ったように話し出した。


 「じつは私は、自分たちの世界が魔王に脅かされているからといって王達が召喚者を呼ぶのには納得できないところがあるんです」


 「というと?」


 「だって、そう思いませんか? 自分たちの国には差し迫って魔王の侵略を受けていないからといって、討伐の軍団を共同して作ることもしないで召喚者をどんどん魔王討伐に向かわせているんですよ。

 それなのに、自分たちは今までと変わらない暮らしを安全な所で過ごしている……、私には許せない」


 なるほど、たしかに言われて見ればその通りだ。元々俺達には魔王なんて関係のない事だよな、考えてみたらなんて迷惑な話しなんだろう。


 ゲームの世界に感覚がなれてしまって頭が麻痺してるからスンナリ受け入れてしまうんだろうな。


 異世界で現実を思い知らされたら、そりゃ盗賊なんかして好き勝手するやつも出てくるわな。


 俺達が話し込んでいると、馬車が止まった。


 「この辺りでひと休みして、飯にしようか」


 やった! 飯だ〜! この世界にきて初めての飯である、ちょっとドキドキだ。


 「待ってました〜、腹ペコです」


 俺がそういうと、ナミアさんの旦那のタイラーさんが申し訳なさそうに、


 「そんなに大したものは無いんで期待しないでくださいね」


 と、ナミアさんと料理の準備を始めている。簡単なスープとパンが今回の献立みたいだ。


 「なにか、お手伝いしましょうか?」


 ミルキーちゃんがそういうと、近くの川で水を汲んできて欲しいということなので、俺達3人は川へ向かうことになった。


 「そうだ!サンキチさん魚釣り試してみないですか?」


 「本当だ、とりあえず試してみたら?って釣竿がないから無理か」


 ミルキーちゃんと俺がサンキチくんを見ると、


 「そうですね、ちょっとタイラーさんに釣竿持ってないか聞いてきます」


 水汲みしながら待ってると、釣竿持ってサンキチくんが戻ってきた。


 「では、魚釣りの加護がどんなもんかやってみますね」


 俺達が期待しながら見ていると、サンキチくんは釣竿持ってうろうろしだし、おもむろに糸を川に垂らした。


 驚いたことに、糸をたらして5分もしないうちに釣竿が折れそうに曲がるとバカデカイ魚がつれたのである。



 「多分、この辺で一番大きな魚だと思います」


 とサンキチくんが言うので、何でわかるのか聞いてみると、サンキチくんには水面に色の違うところが見えているらしい。


 色の違う場所の大きさが、そこにいる魚の大きさなんだと思うとのことだった。


 「スゲーな、サンキチくんがいたらとりあえず餓死する事はないな」


 「助かりますね、サンキチさん素敵です」


 褒められたサンキチくんが照れながら次々に魚を釣り上げていく……。



 「って、やりすぎだよ! こんなに釣ってどうすんだよ、食いきれねーし、おまえは業者か!」


 俺とミルキーちゃんが魚釣りをしているサンキチくんを置いて、水を運んで帰ってきたら、そこには山のように積まれた魚が積み上がっていたのであった。


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