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第4話  おっさん町から出てみる

 平和だ……


 小鳥がさえずり、小川のせせらぎが聞こえてくる。きっともう魔王は誰かに倒されたんだろう。


 「俺達、異世界にハイキングにきたんだっけ?」


 「なんか、緊張してたから拍子抜けですね」


 「もっと、魔物がうようよしてると思ってました」


 「だね〜」


 とりあえず、広場での戦闘練習を切り上げた俺達は様子見がてら町を出て近場を探索することにしたのだが、のどかなもんである。


 「まぁ実際のところこんなもんなのかもね、町の生活が普通に維持されている以上、周辺では耕作なんかの生産活動や、他の町との交易も普通にされている筈なんだから、町から出ただけで魔物だらけってのは現実にはありえないか」


 「そうですね、魔王に滅ぼされそうになっている国とかなら最前線だから大変なんでしょうけど」


 とか、話してると向こうから馬車が走ってきた


 「おーい、お前らも逃げた方がいいぞ、ゴブリンの群れがこの道の先に出たからな」


 なんか、イベント発生ぽい展開である。


 問題はこの世界のゴブリンがどのくらい強いかだな。


 「まだ他の馬車がゴブリンに囲まれてるから、おれは町に衛兵を呼びに行く。あんたら見た感じ弱そうだから早くにげな、じゃあな」


 商人ぽいおやじは町に向かって馬車を走らせていった。


 「どうする?」


 「うーん、練習の成果を試してみたいけど。どうしましょ?」


 俺とサンキチくんはミルキーちゃんを見る。


 「助けにいきましょう。衛兵さん達がくるまで少しでも時間を稼ぐくらいは私達でもなんとかなるかもしれません」


 毅然としてミルキーちゃんは言いきった。


 いいねぇ。偽善とか青臭いとか言うやつもいるかもしれないけど、おれはそういうの個人的には好きなんだよな〜。


 「よし、決まりだ。衛兵がくるまでなんとか頑張ってみようか」


−−−−−−−−−−−−−


 馬車が3台くらい固まって止まっている周囲に身長1メートルくらいの茶色いゴブリンが群がっていた。


 商人ぽい人達が馬車を盾にしてなんとか応戦しているが、かなり劣勢のようだ。子供の泣き声も聞こえてくる。


 「かなりヤバそうな情勢だな」


 「早く助けましょう!」


 飛び出していきそうなミルキーちゃんをとりあえず押さえてから、


 「サンキチくん、ミルキーちゃん先制攻撃で魔法かましてくれ。そのあと俺が突っ込む。そのあとは練習通りミルキーちゃん援護ヨロシクね」


 「フフフ。こういう場面を想定した魔法考えてあるんですよ」


 なにやら、サンキチくんが自信ありげだ。さすがマニュアルくん準備万端って感じだ。


 「じゃあ作戦開始!」


 「火炎の精霊たちよ、わが命にしたがえ。炎火散弾!」


 サンキチくんの杖から拳くらいの火の玉が大量に飛び出した。


 「ワタシもいくわよ! トルネード!」


 ミルキーちゃんの掌から風の刃が放たれる。


 うぉ〜! 二人ともかっこいいぞ!!


 無数の炎の玉と風の刃がゴブリン達に襲いかかり、バタバタと倒していく。倒れなかった物も不意を突かれて驚いたのか我先に逃げ出している。


 ん? 俺、出番なし? まぁ、いいや……


 「やったな二人とも、グッジョブ!」


 二人の方をみると満面の笑みをしているミルキーちゃん。


 あれ? サンキチくんは?


 「キャー!!」


 サンキチくんが、白目むいて仰向けに倒れていた。口から泡ふいてピクピクしている。俺達は、急いで駆け寄り声をかける。


 「おい、どうしたんだ? 大丈夫か?」


 「サンキチさん、大丈夫ですか? えいっ!」


 ミルキーちゃん、白目剥いて気絶してるサンキチくんにバシバシ、ビンタ。見てるだけで痛そうだ……。


 「うっ、うーん。あれゴブリンは?」


 サンキチくんの目が覚めた、とりあえず一安心かな。


 「おぅ、大丈夫か?」


 「はい、魔法放った瞬間に急に意識が……」


 「多分、一気に魔力全部使ったから精神が吹っ飛んだんじゃね?」

 「あはは……、多分そんな感じですかね」


 ちょっとびっくりしたが、とにかくみんな無事だし。馬車もたすけられたから大成功かな。


 「しかし、おもいっきりカッコつけて『炎火散弾!』……バタッ、ピクピクって、最高〜腹イテェ〜」


 「ひどいなぁ、笑わないで下さいよ!」


 「フミタロウさん、あんまり笑ったら可哀想ですよ」


 「うむ、すまない。君の活躍のお蔭でゴブリンを追い払えた、素晴らしかったよ。……プックック、ギャハハ。やっぱむり、ピクピク思い出したら死ぬ!」


 「是非忘年会でやってくれ」


 「やりません!」


 俺がゲラゲラ笑っていると、馬車から商人が二人、礼を言いにこちらに向かって歩いて来た。


 「あの〜、すいません。助けて頂きましてありがとうございました」


 「いえいえ、そちらは大丈夫でしたか?」


 ミルキーちゃんが答えると、なんだか険しかった顔が、安心したようにホッとした顔になった。


 「積み荷が少し心配ですが、おかげさまで全員無事でした。ありがとうございました。」


 と、頭を深くさげて再度お礼をいう商人達。なんだかてれくさいので手をひらひらさせて「いいよ、いいよ」って答える俺達。


 「ところで、皆さんは召喚者さんですか?」


 「そうですよ、召喚されたてのホヤホヤです」


 商人達は、背中をこちらに向けてボソボソと相談している。


 「あなた方は信用出来そうなので、ミルムの町まで護衛をお願いできませんか? 勿論、今回の分とは別にお礼はさせて頂きます」


 馬車に残った人達もこちらを見ながら頭を下げている。


 「いきましょう!フミタロウさん、サンキチさん」


 ミルキーちゃんって、案外決断力すごいよね。なんとなくは感じてたけど。


 「でも、俺達旅の準備とかしてないから食糧とかなんにもないよ?」


 「あっ!? どうしましょ?」


 しかも、この子天然だよ。さすが天使のミルキーちゃん。


 「それなら、心配ありません。食糧は我々が用意しますので、お願いできませんか?」


 正直な所、貧乏な俺達には願ってもない話だ。


 「どうする、ピクきちくん?」


 「っ!? ピクきちじゃないですし!! ぼくは、みんなが良いなら別にいいですよ」



 「じゃあ、決まりね。お互いにメリットある話だし問題なしということで」


 ということで、俺達は異世界に流されるままにミルムの町を目指す事になったのであった……。



 「あのー? なんかスゲーほっぺたが痛いんですけど何でですかね」


 「さぁ? 魔法の副作用かなんかじゃないの」


 「そっか〜、そんなこと本には書いてなかったのにな~、気を付けないとダメですね~」


「…………」


−−−−−−−−−−−−−−

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