2話 暑い喉が渇いたので水を飲む
「今回、狙われるのは『石段係数』という名前の絵画ね。数世紀前の日本絵画の巨匠が手掛けたもので、この美術館にあるもののなかで最もーー」
「いや、みっちゃん。それについてはどうでも良いから。大きさとか、そういうところを教えて」
「え、はいはい。高さは二メーター半、横はその半分ってとこかしら。マーニィーの身長の倍近くあるし力押しに謀ることはないでしょう」
ガタゴトと揺れる狭い車内でアーニィーが物思いにふける
「ふーん。で、ここがその美術館か」
コンクリート作りの美術館は見覚えのある国旗が入り口に立ち並び、深い森林を背にしていた。都心部から離れた位置にあるそこには木々ばかりが茂ていて
コンビニすら滅多に見かけない。
アーニィーが拠点とする関東から十時間近く車を走らせたので、アーニィーは車から出ると天に届きそうなほどに背を伸ばす。
「おぉー、今でもチョロチョロと警備員を見かけますなぁ」
「当然でしょ。前回は『今までのマーニィーは事前に仕掛けを施すことはない』っていう先入観を持っていたからやられたのよ。今回は犯行が予告された明日になる前から気合いが入っているわ。まぁマーニィーが同じ手を二度と使うことはないと思うけれどね」
「うんうん。ヤクザいのないことまで警戒していて、極道なことですな」
「益体の無いことで、ご苦労でしょ」
美都子は目を細めて訂正した。
「なんにせよ、中を一通り見ておきましょか。マーニィー対策を講じるのはそのあとね」
美都子は荷物を一式取り出すと、車を閉めてロックをかける。その間のアーニィーはギラギラと光る太陽が煩わしいと言わんばかりに
「それにしても暑いなぁ~。それに虫も多いし~。これじゃマーニィーも来ないんじゃないかな、もう帰ろうよ~」
「いい加減にしなさい」
無言で頭を叩く。