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平凡なんてありえない

まわってきました、黒井夕です。

それぞれが自分の連載を持っているので、更新が不安定になるかもしれませんが、よろしければお付き合いください。


「ってことがあったんだよ」


 むすっとしたアルニラムが机に頬杖をつく。

「アルニラム、お行儀が悪いです」

 その向かいでその日の夕食を口に運んでいたシェルティもまた、ムッとした表情になる。

 そして、アルニラムが先ほどからいじっているキャンディを見た。幼馴染が言うには、偶然助けた男子生徒から貰ったということだったが、説明下手過ぎて状況がいまいち伝わってこなかった。

 殴られてる奴がいたから、俺が殴ったら、殴り返されて?

「……もうちょっと分かりやすく説明できませんか?」

「ええー?」

「そもそも、その男子生徒って誰なんですか……その、名前とか……」

 アルニラムは、数秒うんうん唸って、にこやかに笑う。

「忘れた!」

 シェルティは脱力。そうでした、こういう人でした。

 その時、食堂の入り口に近いほうにあったテーブルがざわついた。そちらに首を向けると、食堂に数人の男子生徒が入って来たところだった。

「あいつら朝寮じゃね?」

 興味津々なアルニラムが言う。

 ガナリス魔法学園では、寮によって制服である黒いローブのエンブレムが異なる。朝寮なら金の朝日の紋章。二人が振り分けられた昼寮は白い太陽の紋章。夕寮は赤い夕日の紋章で、夜寮は銀の三日月の紋章だ。初めて制服を着た時、アルニラムが昼寮が一番地味だ!とごねたのは、シェルティにとって懐かしい思い出である。

 そんなわけで、アルニラムが入って来た男子生徒の集団を朝寮だと判断したのは、ローブの紋章が金の朝日だったからだ。

「朝寮の方が、何のご用でしょうね?」

 他の寮への立ち入りは教師の許可が無い限り禁止されているはずですが、とシェルティは首を傾げる。

 ざわつく中を平然と歩いて食堂の中心に立った男子生徒の集団の一人が声を張り上げる。

「赤い髪のチビ! 出てこい!」

 そこでアルニラムは、ハッと気が付いた。

 あいつら、夜寮のあいつを殴ってた奴らだ。

「あ、あああ赤い髪って……まさか」

「あいつらだ。さっき話してた朝寮のムカつく奴ら! 匂いも同じ!」

 男子生徒達を指差して大声で言い放つ。

 シェルティは目眩がするのを感じた。この幼馴染はまた厄介事を呼び寄せて……!

「こっ声が大きいですぅっ! そ、それに匂いとか言ったら……!」

 アルニラムに顔を近づけて小声で忠告する。

 だが、すでに遅かったようだ。

 アルニラムに気づいた男子生徒達がぞろぞろとこちらへ向かってくる。青ざめるシェルティ。対してアルニラムはニッと笑うと、シェルティの腕を掴んで立ち上がらせる。

 そして。

「逃げるぞ!」

「逃げるんですか!?」

 勇ましい声で逃亡を宣言すると、呆気にとられる朝寮の男子生徒達を尻目に、脱兎のごとく走り去ったのだった。

 今回も後先考えず突っ込んでくるだろうと踏んでいた男子生徒達は、毒牙を抜かれた様子でアルニラムが出て行った扉を見ていたが、やがてハッと我にかえり、ドタバタと騒がしく二人を追いかけていった。





 この時期の夜風はまだ少し肌寒い。

「なんでここなんですかぁっ!」

「ここなら絶対にばれないだろ。もうちょっと上まで行こうぜ」

「押さないでくださいいいいっ! 落ちるっ、落ちます!」

 アルニラムが背中を押して、シェルティは悲鳴を上げる。後ろを見ると気を失いそうになった。

 ——なぜならここが寮の屋根の上だから。

 逃げて、アルニラムの部屋に駆け込んだところまではよかった。ここで、中から鍵をかけてしまえば誰も入って来られない、ということに気づいていれば、こんなことにはなっていなかった。だが、二人ともそのことに気づけなかった。

 よって、とにかく見つからない場所へということで、テラスから屋根へとよじ登り今に至る。

「おっ! 見ろよ、他の寮が見えるぞ。あれが朝寮で」

「見ません、見えません、落ちますっ!」

 シェルティは必死にアルニラムにしがみつく。

「あれが……な、昼寮に一番近いのが夜寮だよな?」

「そうですけど、なんですかっ!」

「いやー、あそこに例のキャンディーの奴がいるから」

 アルニラムの目には、夜寮の庭園を一人歩く例の男子生徒が見えていた。

「えっ? ど、ど、どこですか?」

 シェルティも薄目を開けて確認を試みるが、わからない。巨大すぎる学園の中では、寮と寮の距離もかなり離れていて、シェルティではあそこが庭園かな?くらいがやっとだ。だが決して目が悪いわけではない。アルニラムが異常なだけで。

 スーッと息を吸い込む幼馴染。

 次の行動が予測できて、シェルティは止めようとしたが、間に合わなかった。


「おーいっ! キャンディーの奴ーーーっ!!」


 闇を切り裂いてこだまするアルニラムの大声。

 逃げた意味がないじゃないですか。屋根まで登った意味がないじゃないですか。また先生に怒られるじゃないですか。私はまた巻き添えですよ。


「……っ、アルニラムの馬鹿っ!」



次は秋雨さんです。

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