第八話 言いたいこと
「登山で、君のクラスの先頭を歩いてもらいたいんだ。」
はっ!!??
俺は、よっぽど間抜けな顔をしていたらしい。
宮本があきれたような顔でため息をついて、話し始める。
「あなたのクラスの担任は女性でしょう。なのでこの中で一番体力があると思われるあなたに登山のとき先頭を歩いてもらいたいのです。」
はっ!!??
俺が!?
「なんで、俺なんだよ。俺より、よっぽど体力がありそうなやつはここにいるのに」
啓を指差しながら、俺は宮本に言う。
「あなたは、大会に出場するほどのかたです。そんなあなたが、この役に選ばれないなんて、おかしいでしょう。」
うっ…。
なぜかその言葉が俺をせめているようにしか聞こえなかった。
だってこいつは、俺が『不正』したという『噂』を、知っているから…。
「よろしくお願いできますか?」
宮本が、冷め切った表情で俺に問いかけてくる。
「…っ…。」
言いたいことはたくさんあった。
なぜこの場で、『噂』のことを言わないのか。
なぜ、俺をそんな役にたたせるのか。
俺が憎いなら、もっと俺を苦しめるような方法があるはずなのに…。
だけど、先生もいて、俺の友達もたくさんいるこの環境で、それを口にすることなど、できなかった。
相変わらず、宮本がその冷め切った表情で俺を見る。
何か、何か答えなきゃ…。
「…、あ、ああ…。分かった…。」
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