第五話 一時の不幸
それは、仲間に裏切られた合図。
それは、仲間が裏切った合図。
それは、希望が失われたときの合図。
それは、自分が嘆く合図。
それは、相手が奇怪な笑い声を上げる合図。
…それは…
絶望の、合図。
***
「飛鳥君。」
ふいに名前を呼ばれた。
振り返ってみると、そこには宮本…宮本拓斗が立っていた。
宮本は勉強家で、いつも三位以内には入っている。
眼鏡をかけ、いかにもまじめそうな格好をしているこいつは、俺が苦手とする部類の人間だ。
「先生が呼んでいましたが。」
「あ、悪ぃ。サンキューっ。」
「いえ。」
そういうと、さっさとこの場を去ってしまう。
「………………」
「……、あ。そういえば。」
宮本が立ち止まる。
…なんだ…?何だよ、お前みたいな『天才』が、俺に何か用かよ…?
「…、『噂』。聞きましたよ?」
どくん。
心臓が跳ね上がる。
「へぇ…、それはどんな『噂』だよ?」
冷静を装って聞いてみる。
しかし、俺の手にはすでに汗がにじんでいる。
「…分かりませんか?貴方が、『不正』をしていたという噂ですよ。」
「……………。」
彼は帰宅部だ。友達もあまりいそうにない。
なのに…。
もう、そんなにまで『噂』が…!?
「貴方もそういうことをやる人だったんですねぇ。『天才』と謳われていた、君が。友人を裏切って。」
どくん…、どくん。
心臓の鼓動が高くなる。
「友人を傷つけて。」
どくん、どくん、どくん…。
どんどん、どんどん高くなっていく心臓の鼓動。
「友人は、貴方のことを信じていたのではないのですか。」
なぜ、こんなにまで宮本に追い詰められなくちゃならないんだ!?
「貴方は、そんな友人の心を「やめろよ」
宮本の言葉をさえぎる、小さいけど鋭い言葉。
俺の、言葉ではなかった。
声がしたほうを見ると、そこには…。
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