第三話 噂
幸せは無限ではない。
だからその幸せのありがたさが身にしみて分かるのは、その幸せを失ってしまったとき。
本当に大切なものは、失ってから気付くもの。
俺はそれを知っている。
だから今の幸せを本当に大切にする。
もう幸せを失いたくないから。
いつかその幸せが、不幸になってしまうとしても…。
***
…林間学校三週間前。
「順調?」
俺の幼馴染…朝倉美空が、帰り際に聞いてくる。
「は?何が?」
俺は、何のことか分からないので、そう返した。
「練習よ、陸上の!」
「あー、順調順調。あれっきりタイム下がってないし。」
「え?じゃあ上がったの!?」
「いや、いっつもあのタイムだ。」
「落ちてもいないし、上がってもいないわけ?」
「ああ。」
そう、俺のタイムはぜんぜん上がらない。ただ、タイムが下がらないことだけが唯一の救いだった。
「がんばりなよ、本当は工が大会に出てた訳なんでしょう?」
「う…ん。まぁ、そうだけど。」
俺はあいまいに返す。
思い出してしまった。「俺が、不正をしている。」という噂。
啓は、気にするなと言っていたけど、俺は気になって仕方がない。
「あ、そういえば。」
美空が、何かを思い出したようにいった。
「聞いたよ、あの噂。」
どきり、とした。
まさか美空にまで、あの噂が伝わっているとは思ってもいなかったから。
「あんた、林間の実行委員、立候補したんだってね。」
「へっ?」
俺の口からは間抜けな声しか出てこなかった…。
「え?違うの?」
「あ、いや、まぁそうだけど…。」
美空の口から出た『噂』は、林間学校の実行委員になったことについてだった…。
ほっとした。もうそんなに噂が流れてしまっているのか、と一瞬だけど恐怖を覚えたから。
「ねぇ。」
「な、何だよ。」
「なんでそんなに『噂』って言葉に反応するわけ?なんかあった?」
ぎくりとした。今度こそばれてしまいそうな、そんな恐怖。
「ねぇ、なんで?まさか、嫌な噂流されたりした?」
「あ、い、いや。そんなことは…。」
「あ、目が泳いだ。」
にやり、と美空が笑う。
「図星〜?」
くすくすと美空が笑う。何もかも、見透かした。そんな笑みだった。
「教えなさいよ」
「……………ハイ。」
ああ…、怖い。
俺は美空に、全部話した…。
どうだったでしょうか。
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