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ある時、彼女に解離性の事を話そうとした事があった。
「あなたは話がコロコロ変わりすぎる」
そう彼女に言われた時だった。
『いや…コロコロ話が変わるのは俺であって、俺じゃないから…。』
「なにそれ?今度は二重人格?勘弁して。無理」
(やっぱり沙織には言わない方がいいか…今の彼女は出会った頃の彼女じゃないからなぁ。出会った頃の沙織なら…きっとそれも受け入れてくれたんだろうな…。)
これ以降、彼女に解離性障害の話を持ち出した事はない。彼女にはきっと受け止められないだろう…。これから先も言うつもりはないし、彼女がそれを知る事はないだろう。勿論、何かが切っ掛けで聞かれたとすれば話してみるかも知れないけれど。
だがあくまでも解離性障害に近い状態であって、似たような症状なので、そもそも解離性障害なのかも確定しているわけではないのだし、話す事自体がおかしいのかも知れない。
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彼にはもう1つ不思議な事があった。
いや、正確には唯一俺と彼が共通している部分だった。人の瞳に影や曇りが見える。おそらくはオーラと似たような物なのだろう。
超能力とかそういう分野ではなくて、あくまで自分の脳がそれを見せているのだと思う。
ずっと人の瞳に影を見続けてきた。ほとんどの人にそれがある。全員と表現した方がいいと思うくらいにそれがあった。
しかし中にはそれがない人もいたのである。
それが彼女、沙織だった。
彼女の瞳は分かりやすく言うならば透明で、綺麗な綺麗な瞳をしている。
それともう1人…よく見るあの夢で俺の名前を呼ぶ女性…彼女も瞳が透明だった。信じられないかも知れないが、むしろ俺自身が一番信じられないのだが、予知夢?正夢?という物なのかも知れない。
夢の中の女性は間違いなく沙織なのだ。それも、出会う前から見続けてきた夢なのに。
ずっと夢の中の女性を追い続けてきた。
それが見つかり、夢は現実になった。
むしろすでに彼女は沙織は夢を越えていた。
俺の夢。沙織は俺の夢。
沙織は俺の永遠の夢になっていた…。
彼女と一緒に時間を過ごし、ずっと一緒にいた俺に1つの異変が起きていた。
他人に見えるあの瞳の影が俺だけ見えなくなっていたのだった。
彼は見えるまま。これは一体…。
(そうか…俺…沙織と子供と一緒で、幸せになっていたんだな…。幸せだから…もう俺には必要のない力…)
そう思えた。
彼も後一歩で永遠の眠りにつける直前だった。
本当に運命の女性…
沙織以外の女性では俺の運命は…夢は完結しない。
夢を死ぬまで見せてくれるのも、また終わらせる事が出来るのも、沙織しかいないのだ。
俺の愛せる世の中で唯一の女性…。
それが彼女…沙織。




