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「あなたは私に甘えている。」
ある日、彼女がそう言っていた。
確かに甘えているのかも知れない。幼少期から甘えて甘やかされてをする相手がいなかったから、そんな相手がいる今、甘えたい気持ちもあったのだろう。
しかし、それがそんなに悪い事なのだろうか?。
逆に言わせてもらえれば、今の彼女だって親兄弟にチヤホヤされて甘えてるだけなのではないのか。
俺に甘えていると言った彼女自身が自分も甘えているようにしか見えなかった。
俺は彼にずっと甘えてきた。
彼が俺のやりたくない嫌な役割を全てやってくれていた。
自分を守る事。
それを彼に頼りきっていた。
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時は過ぎ、俺は収入の事、彼女の親の意見を考えて転職したのだが失敗。
勿論こんな状況で上手くいくはずもなかった。
で、結局元の職場に戻る事になった。
それからが酷い有り様だ。
誰にでも、仕事の合う合わない、人間関係だって様々だろうけど、この職場には俺を目の敵にしている管理職の人間もいた。
「お前はクズだから休憩など取る必要はない。お前は低辺だから嫁に逃げられた。お前はいらないからいつでもクビに出来る。」
毎日罵声を浴びる日々。
ただそれでもこの職場に行っている理由は、他の人間はみんな心優しい人間ばかりだった事。
そして、彼女にお金を…俺の想いをほんの少しでも伝える事。
それだけが支えだった。
彼が言った。
(あんなやつ、僕が始末するから辞めろよ。こんな職場。金も僕が稼げばいい。)
そんなわけにはいかない。
確かに彼に任せれば生きていく生活費くらいは余裕で稼いでしまうだろう。
けれど世の中金じゃない。
俺は自分の想いを彼女に伝えなきゃいけない。こんなところで負けるわけにはいかなかった。
だから彼を必死に抑えた。
身体がどんどんボロボロになっていっても…彼女と娘への想い1つだけで…。
仕事に復帰する前。
あまりの体調の悪さに気付いた俺は念のために一応病院に健康診断に行ってみた。
そして言われた一言。
「胃の中の皮が捲れてきています。ここですね。」
そう言って医者が撮影した内臓の写真を指差した。
『それはつまり結構やばいんですか?』
「やばいと言うか…。これ見えますか?その周りに白い突起物があるでしょ?小さな。前にも言いましたが爆弾を抱えていた部分が爆発しようとしてます。この突起物、いわゆる癌に進行する可能性さえ十分あります。対策としてはストレスを溜めずに自然の流れを見るか、または進行する前に手術してその部分を切除するしかないです。医者としては手術を推奨しますが。する場合はうちにはその設備がないので紹介状を書きますよ。」
『癌?マジ…ですか。』
結論から言うと俺は治療を拒否した。
自然の流れに任せる事にしたのだ。
人間誰しも死ぬ時は死ぬ。
ましてや人生に疲れきった俺は気力もあまりないし、彼女を失った今、生きていても仕方がない。
彼女の存在が生きる意味だったのだから。
人生を賭けて探しだした相手だったのだから。
そんな爆弾を抱えていた。
そんな状況でも必死に彼を抑えた。
そんな状態でも必死に仕事をした。
職場での嫌がらせにも耐えながら。
彼女に幸せになってほしい…
その一心で…。




