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(もう僕に全て任せろよ。甘ぇんだよてめぇはな。)
悪魔が囁いてきた。
(彼女を愛してるから…。)
そう心の中で呟く俺。
(あんな女いらねぇだろ。ずっとてめぇがあいつを愛してるなら大丈夫なんて、口から出任せもいいところだろうがよ。僕に任せろよ。)
(……わかった。でもずっと出てこなかった君はなぜ今になって出てきた?)
(あの女が起こしたんだろ僕を。)
悪魔と心の中で会話していた。
どうやら完全に目覚めてしまったらしい。
彼は頭がいい。
全てを自分有利に物事を進められる。
(もう君に任せよう…)
(もうあの女とは元通りにならねぇよ?それでいいな?)
(どちらにせよ、彼女はもう戻ってこないよ…。俺に愛情なんてもうないし、俺が愛した彼女じゃない…。だから彼女の親兄弟にももう我慢する事はない。徹底的に戦っていいよ…。)
(あの女が戻ってきたところで、てめぇに隠れて男と密会してた事、てめぇは忘れられないだろうな。毎日夢でうなされるくらいだからなぁ。徹底的にやるぞ?いいな?)
(………構わん。俺が愛した彼女はもういない…。)
こうして悪魔に全てを任せた。
所詮世の中みんな自分が一番。自分が一番可愛いし、自分より大切な人などいない。
彼は人を徹底的に追い込む術をよく知っている。なぜなら…彼が今までそれと同じ事を他人にされて生きてきたからだ。
裏切り、妬み、復讐。
彼はそれだけを受けてここまできた。
彼女の存在は彼を完全に消し去る寸前まで一度はきていた。
彼女は俺が永遠の幸せってものを掴む一歩前まで連れてきてくれていたからだった…。
それが崩れ去った今…彼の非情さを必要とした俺がいたのだろう。
もはや彼を消し去れる人は存在しない。唯一それが出来るのは…出逢った頃の彼女だけなのだから…。
(もう一度…もう一度だけ…沙織に会いたかった。例えそれが仮面を被って俺を騙していた沙織でも…会いたかった……。もう一度。)
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言葉も徐々に変わっていった彼女。
「私はものすごく甘いと思う」
「私は他の人より頑張ってるし我慢してる」
「私よりいい妻はいない」
「あなたは私に依存してる」
(お前…どんだけ自分がいい女だと思ってるん?依存って…。)
変わっていった彼女は自分は完璧で、まるで自分には非がないと言わんばかりの言葉を発言するようになっていった。
他にもあげればキリがない程ある。
本人にその自覚はおそらくないのだろうが、ナルシストなのだろうか?
自分を持ち上げ、自分を立派すぎると言いたいような発言ばかりするようになっていた。
その変わり果てていく彼女にがっかりしていく俺。
ただ、変わらない部分もあった。
俺が大好きな彼女の表情である。考え事をしている時(ただし悪い悩み事の時は除く)口にキュッと軽く力を入れた表情。
どう表現したらいいかわからないが、下唇に上唇を被せてキュッとしてる時の表情が大好きだった。
本人は気付いていないのだろうが、たぶん一種の癖?なのだろう。
その癖が俺は大好きだった。
癖と言えばもうひとつある。
彼女が嘘をついている時にもある癖がでる。
こちらは内緒って事にしておこう。
沢山沢山一緒の時間を過ごした…。
思い返せば楽しい思い出も…辛い思い出も、ずっと彼女と一緒に共有していた。
俺は自分の人生や過去はこれっぽっちも思い出したくはない。
けれど、彼女との思い出だけは…
今でも、毎日毎日頭から離れない…
彼女にとことん嫌われようと悪魔に全てを任せた。
彼女は予想通りにどんどん俺を嫌いになり、もはや愛情どころか同情すらも残ってはいないだろう。
楽しかった思い出も、彼女はもう覚えてはいない。
俺だけだ。
彼女との思い出を絶ちきれないでいるのは。
そう。俺だけ…。
彼女の笑い顔が今でも頭から離れない。
本当に毎日…毎日頭をよぎる。
幸せだった…
愛してる沙織との思い出…




