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それから暫くして、夜に突然ピンポーンと呼び出し音がなった。嫌な予感はしたのだが、一応出てみると…見事に予感的中。
「離婚届け書いて。」
やっぱりか。
しかも外がガヤガヤうるさい。
(お前…またゾロゾロと引き連れてきたな…。)
なんで1人でこないのか。
わざわざ引き連れてきた理由を聞くと…
なんとボディガードらしい。
俺が彼女に命の危険をさらすと思っているらしい。
(はぁ…疲。ダメだこいつらは…。俺はまだ気持ちはあるし、そんな事しないし、今までだって命の危険どころか暴力なんて振るった事ないだろうに…。)
大切だと思ってる人にそんな事する人間ではない。仮にそうじゃない人だとしても、そんな事はしない。俺は実父とは違う。
外で彼女の兄が騒ぎ始めた、むしろ怒鳴り始めたので近所迷惑も考え、仕方なくチェーンロックを解錠して玄関のドアを開けた。
『俺は書かないし、出さない。まだしてない事もあるし後悔をしたくないから。』
そう言った途端に彼女の兄が怒鳴り散らしてきた。
「お前が全部悪いんだろうが。さっさと書けよ。」
(はぁ…外野は黙ってろよ…。仕方ない。こちらの条件を言うか。)
『あのですね、こっちは立場上言いたい事も言えないし、それを我慢してきたからこういう状態に鳴ってるんですが。』
「立場上って何だよ?言ってみ?」
『じゃあ言いますけど。子供は俺に渡してもらえます?』
これは彼女に言った発言だった。
だが彼女は黙ったまま、兄が騒ぐだけ。
まるで聞く耳を持たない。
そもそも近所迷惑や相手の名誉というものを考えないのだろうか。この親子は。
『ちょっと待ってください。一息ついて話をしますので。入らないでくださいね。』
そう告げるとベランダに一度落ち着きに出た。精神的による過呼吸があったために、その症状が出てきてしまったからだ。
その瞬間、ベランダの窓が勢いよくバンと音をたてて開いた。
「まだ話は終わってねぇんだけど。」
部屋の中を見ると全員がゾロゾロと部屋に入っている。
(お前ら…入るなと言っただろうが。怒)
『あのですね、入らないでと言いましたよね?これは不法侵入ですよ?』
「お前が俺を苦しめるからだろうが。怒」
『はい?いったい俺があなたに何をしたんです?』
「精神的苦痛だよ。怒」
(ダメだこいつらは…怒りで我を見失ってる。いや…元々こういう人達だったのだろうな。)
「だいたい、お前子供の面倒ちゃんと見てんのか?見てねぇだろ。」
この一言で…ついにプッツンときた。
『見てたけど。怒。それにそれをあなたに言われる必要はない。あなたは父親か?結婚もしてない。つまり俺の立場もわからない。子供もいないあなたに何がわかる?だいたい、沙織に言われるのは妻だし、あの子の母親だから俺に言う権利はある。だがあなたに言う権利などない。子育てに口を出す理由などあんたにはない。』
永らく封印してきたもう1人の俺、悪魔が再び現れた瞬間だった。
もう1人と言っても多重人格とかそういうのではない。
人生の中でそれなりに闇社会と言われるものを経験してきた俺は、敵意を持つと悪魔的人格に変貌する。
それが生きるために自分が取れる最後の防衛作だからだ。
やれる子育ては無理をしながらもやっていた。そりゃ出来ない日もあったが。
それを黙って聞いている彼女。
(そういう事か。こいつは日頃から実家で俺がまったく子育てをしないと愚痴っていたのだろうな。だからこういう話になる。本当にまったくしない人だって沢山いるんだぞ。なぜお前にはそれがわからない。)
その後、帰ってください。出ていってくださいと伝えるも、離婚届けにサインしないと出ていかないと言うので仕方ないから警察に通報する事にした。
少しすると警察がやってきた。
今の状況を軽く話しをすると警察の方もこう言った。
「世帯主さんが帰れと言ってるのだから帰らないとどうにもなりませんよ?これで離婚させたところで、今度は離婚を強要されたから無効だと裁判されて終わりです。調停をしようと裁判をしようと、これは不利になりますよ?今日は帰った方がよろしいかと。」
警察官が言う事はごもっともで、第3者から見ればそれは明らかである。
しかしこの彼女兄が衝撃の一言を発した。
「妹が一緒でもダメなの?」
(バカかこいつは。ここの世帯主は俺。それに妻は知らないうちにすでに実家に住所変更もしている。その妻が一緒でもダメに決まってるだろ。もうすでにここの住人ではないのだから。話にならないバカだな。だいたい、離婚しろ離婚しろと強要しておきながら、そんな時には妻の肩書きを使うのか?妻と認めてすらいないお前らが。これは立派な不法侵入だよ。怒)
そして警察に説得されてようやく部屋を出ていった。
その後、彼女と二人きりで少しだけ話をする時間があった。
少しして彼女がついに口を開いた…




